第六十三話
「ぬわー! この俺をぐるぐる巻きにして連れ去ろうとは、なんたる無礼! 絶対に許さんぞ
「テオバルト殿がお元気そうでなによりだ! 他のみんなにも怪我はないようだし、まずは一件落着だな!」
「フフ……騎士団を退け、要人の救出にも成功するとは。私も成長を続ける〝ルカさんの力は初めから計算外〟にしていましたが、どうやらそれでよかったようですね」
「私も船からルカの雷を見てたけど……凄すぎてこの世の終わりみたいになってたわよ。前にデスクラウドと戦った時とじゃ、もう比べものにならないわね……」
レジェールと同盟による外交式典を狙った、虚空の騎士団の襲撃。
それは騎士団と敵対する空賊、クリムゾンフリートの乱入によって辛くも失敗に終わった。
公然と標的にされたリゼットはココノやフィン、そして他の来賓と共に脱出艇で逃げ延び、戦闘が落ち着いた頃合いを見て会場に帰還。
そこで傷つき汚れながらも救出されたテオバルトや妹のルーナといったオルランドの要人らと合流し、正規軍が駆けつけるのをこうして待っているところだった。
「ご無事でなによりです、テオバルト様! お怪我はありませんか?」
「れ、レディリゼット! まさか、あのような無礼を働いた俺を心配してくれるのか……!?」
「そりゃあ、レジェールを馬鹿にしたのは今でも怒ってますけど……それと騎士団の襲撃は別の話ですし?」
「な、なんという慈悲深さだ……! 頼む、レディリゼット……! 改めてそなたとの結婚を申し込ませてくれ!! 俺はもう心を入れ替えた! これからはそなたにも……他の奴らにももっと優しくするから! 頼む、もう一度俺にチャンスを!!」
戦闘の後。無事オルランドの近衛によって救出されていたテオバルトは、ルカと共に様子を見に来てくれたリゼットの優しさに、今度こそ真剣な想いを伝えた。
「ありがとうございます、テオバルト様……でもごめんなさい。私には子供の頃から……ううん、私がこの空に生まれた時からずっと心に決めている大切な人がいるんです。ですから、テオバルト様の想いに応えることはできません」
「くぅぅ……! その相手とは、やはり……っ」
「はい。ここにいるレジェールの竜騎士ルカ・モルエッタこそ、私がこの世でただ一人、心から愛する男性です。私はこの先もずっと……彼と共にこの空を飛び続けると、そう決めているんです」
たった今見せたテオバルトの告白は、先ほどのパーティー会場とは見違えるほどの想いが込められたものだった。
だからこそリゼットもテオバルトの想いを正面から受け止め、自身の気持ちを誠実に伝えた。
「だがそれでも俺は……っ! 初めてなのだ……こんな気持ちになったのは! 俺にはそなたしか!」
「私のことをそこまで想ってくれてありがとうございます、テオバルト様。今なら私にも、本当のあなたはそこまで悪い人じゃないんだろうなって……なんとなくわかります。だからこれからも、オルランドの皆さんを大切にしてあげて下さいね」
「リゼット……っ!」
それは、まさに一分の隙も無い〝リゼットのお断り〟。
想いを正しく受け止められた上でのリゼットの返答に、テオバルトはついに膝から崩れ落ち、両手を握り締めて今にも泣き出しそうな声で呻いた。
(テオバルト殿……)
そしてその光景を、ルカは黙って見つめていた。
今この場でルカがなにを言おうと、それはテオバルトの尊厳を傷つけるだけだからだ。しかし――。
(テオバルト殿は決して悪人ではない……リゼットへの想いも、見ている俺の胃が痛くなるくらいにガチだった。だが、やはり……)
だがルカには、それとは別に思うところがあった。
リゼットの前で嗚咽するテオバルトの褐色の肌と美しい銀色の髪に目を向けながら、ルカは先ほどのリシェナとバーゼルとの戦い、その決着の瞬間を想起する――。
――――――
――――
――
「ウギャーーーーーーッ!?」
激しい戦火の下、リシェナとスヴァルトの追撃を振り切り、ルカとレターナの一撃はバーゼルを夜の闇に吹っ飛ばした。
「どうだアヒル男! これがレターナ様の本気ってやつだ、覚えとけ!」
「よし! あの男を倒せば、リシェナと黒ドラゴンも……ん?」
だがその時だった。
アズレルと共に高速で飛行するルカは、闇夜に落下するバーゼルのアヒルヘルメットが砕け、それと同時に彼の姿が歪み、〝白かった肌が褐色肌に、金色に見えた髪が銀髪に変わる〟のを見た。
「あれは……?」
『バーゼル!』
『チッ……こうも足を引っ張るとはな。退くぞリシェナ!』
小さくなっていくバーゼルの姿に気を取られた瞬間。
ようやく追いついたリシェナは竜槍から全方位に向かって荒れ狂う乱気流を展開。
ルカとアズレルをスルーし、そのままバーゼル救出へと向かった。
『覚えていなさい、レジェールの竜騎士! この屈辱、次こそは必ず晴らしますわ!!』
「俺がリゼットの傍にいる限り、彼女には指一本触れさせん! そっちこそ、もうこんなことはやめて真っ当に働くのだ!!」
『くっ……! 行きますわよ、スヴァルト!』
今のアズレルにとって、その程度の強風は無力。
だがリシェナの身を案じて撤退を促すのが狙いだったルカは敢えて彼女を追わず、会場にいる来賓の安全確保のため、雲海に消える騎士団の要塞を見送った。
「行かせてよかったのか? 忠告しておくが、あいつらのしつこさは尋常じゃないぞ」
「決着を付けるには状況が悪かった。それにあの要塞を壊すとなると、レターナの仲間も巻き込んでしまうかもしれなかったからな……」
「お前……俺達のことまで考えてくれてたのか? ふーん……」
騎士団の撤退を見届け、ルカとレターナは式典会場の屋上で肩を並べ、クリムゾンフリートの編隊が母艦に帰投する様子を眺めていた。
「前の時も思ったんだが……〝お前のそれ〟って、本当にルミナの真似してるだけなんだな」
「どういうことだ?」
「俺だって、もしここにいるのがルミナだったら、今回みたいに協力しようなんて思わなかったよ。あいつのことは好きだったけど……なんかこう、一緒にって感じじゃないんだよな。孤高っていうのかな?」
レターナはそう言って、夜空の向こうに懐かしいなにかを見るように目を細めた。
「けどお前は全然違う……きっとお前の回りには、お前を助けてくれる奴がたくさんいるんだろうな」
「もちろんだ! そして、今回俺を助けてくれたのは君だ。ありがとう、レターナ!」
「はは、なら貸し一つだな! 忘れるなよっ!」
ルカの言葉に特大の笑みを残し、レターナはそう言って高々と跳躍。
するとソードダイヤのフェザーシップがレターナを捉え、そのまま帰投するクリムゾンフリートの編隊へと合流していく。
「ああ、それと最後に一つだけ忠告だ! 連合もヤバイが、同盟にも気をつけろよ!」
「同盟にもだと!?」
「連合に負け続けの同盟は追い詰められてる。生き残るためならなんだってやるくらいにはな……ま、せいぜい油断するなよ!」
――――――
――――
――
「――考え事です?」
「ん?」
気付けば、すでにテオバルトはその場から立ち去った後だった。
深い思索に沈んでいたルカの手にリゼットの暖かな手が添えられ、宝石のような赤い瞳がじっとルカのことを見上げていた。
「ちょっとな……レジェールに戻ったら、陛下や宰相殿にも伝えたいと思っていることがあるのだ」
「そうなんです? あ、でもでも! 私とルカが正式に恋人同士になったことも、お父様に報告しないとですもんねっ!」
「ぬおっ!? そ、そうか……それもそうだな。なんだかいきなり緊張してきたのだが!?」
ルカの心を覆いつつあった不安の影を消し飛ばすリゼットの笑みに、ルカは腹に手を当てながらもにっこりと微笑んで見せた。
「むふふ~……きっとこれからも大変だと思いますけど、私達ならなにがあっても絶対に大丈夫ですよ。一緒に頑張りましょうね、ルカ!」
「ああ! 頑張ろう、俺達二人で!!」
咲いた花のように笑うリゼットに、ルカは頷きと共に、添えられた彼女の手を握り返すことで答えた。
この笑顔を守る。
一人の力ではなく、二人の元に集まったいくつもの力で。
そう、固く心に誓いながら――。
Next side flight
――
竜騎士の前
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