転生妃は後宮学園でのんびりしたい~冷徹皇帝の胃袋掴んだら、なぜか溺愛ルート始まりました!?~
☆ほしい
第1話 目覚めたら、中華後宮の嫌われ妃でした!?
がつん、と鈍い衝撃。視界が真っ白に染まって、意識が遠のいていく。
(あ…、私、死ぬんだ)
雨の匂いと、クラクションのけたたましい音。それが、平凡な女子高生だった私、小鳥遊 茉莉(たかなし まり)の、最後の記憶だった。
次に目を開けた時、私の目に飛び込んできたのは、見たこともない豪奢な天蓋(てんがい)と、そこに施された、きらびやかな金の刺繍だった。
(…あれ? 私、生きてる? 病院…じゃないよね、ここ)
身体を起こそうとして、自分の手に違和感を覚えた。
私の手じゃない。もっと、指が長くて、肌が透けるように白くて、まるで陶器みたいに綺麗な手。混乱しながらその手で自分の顔に触れると、そこにある輪郭も、鼻の高さも、唇の感触も、まったくの別人のものだった。
「――麗霞(れいか)さま! お目覚めになられましたか!」
甲高い声にびくりとして横を向くと、古風な衣装をまとった、侍女らしき女の子が心配そうに私を覗き込んでいた。
れいかさま…? 誰、それ。
「まあ、よかった…! 三日も眠っておられたので、どうなることかと…! すぐに、お水をお持ちしますね!」
三日?
混乱する私を置いて、侍女はぱたぱたと部屋を出て行ってしまった。
重い身体を引きずるようにして、なんとかベッドから這い降りる。視界の端に、大きな姿見を見つけて、私はおそるおそる、その前に立った。
そして、息をのんだ。
鏡に映っていたのは、息をのむほどの絶世の美女だった。
絹のように艶やかな黒髪は、腰まで届くほどの長さ。涼しげに切れ上がった大きな瞳は、夜空を映した湖のように深い色をしている。すっと通った鼻筋に、血を塗ったかのように赤い、ぷっくりとした唇。
非の打ち所がない、完璧な美貌。
だけど――その美しさは、どこか人を寄せ付けない、氷のような冷たさをまとっていた。特に、その瞳。意志が強そう、と言えば聞こえはいいけれど、少しキツすぎて、どこか意地悪そうにも見えてしまう。
(この人が…麗霞? そして、この身体が…今の、私…?)
頭がくらくらする。その場にへたり込んでいると、先ほどの侍女が、お水を持って戻ってきた。彼女は春蘭(しゅんらん)と名乗り、私が池に落ちて、三日間も意識を失っていたのだと教えてくれた。
そして、私は彼女の口から、この身体の持ち主である『麗霞』が、とんでもなく最悪な状況に置かれていることを知る。
ここは、彩雲国(さいうんこく)という、私がいた日本とは全く違う、中華風の異世界。
そして私は、この国の皇帝に嫁いだ、たくさんの妃の一人。
麗霞は、没落しかけた貴族の娘で、そのプライドの高さと、キツい美貌から、他の妃たちに『毒婦』と陰口を叩かれている、嫌われ者の妃だった。
おまけに、冷徹非情で有名だという、若き皇帝・暁(あかつき)陛下からは、入内してから一度も、見向きもされたことがないらしい。
(うそでしょ…!? 転生したら、悪役令嬢ならぬ悪役妃ってこと!?)
最悪だ。最悪すぎる。
前世の私は、これといって取り柄もない、ごくごく平凡な女子高生だった。学校が終われば、友達とファミレスでおしゃべりして、家では趣味のお菓子作りをする。そんな、のんびりした日常が、私のすべてだった。
権力争い? 嫉妬や陰口が渦巻く後宮?
そんなドロドロした世界、絶対に無理! 面倒事は、何よりもごめんなんだから!
「…あの、春蘭」
「はい、麗霞さま」
「私、これからは…なるべく、目立たないように、静かに暮らしたいの。できるかしら」
「えっ…?」
私の言葉に、春蘭は目を丸くしている。今までの麗霞さまからは、考えられないような発言だったんだろう。
でも、私の決意は固かった。
(こうなったら、徹底的に引きこもってやる!)
幸い、皇帝陛下からは無視されてるんだ。他の妃からも嫌われてる。これって、逆にチャンスじゃない?
誰とも関わらず、この豪華な宮(翡-すい-きゅう-)の片隅で、前世みたいに、のんびりお菓子でも作って、平穏なスローライフを送る。
うん、完璧な計画だ!
私は、この異世界で、第二の穏やかな人生をスタートさせることを、固く、固く心に誓ったのだった。
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