承11:文明は誰が進めるのか (1/2)
がたんごとんと規則正しい音を立てて走るその車内には、長身の男と小柄な少女の影が並んで車両の中ほどのドア横に立っていた。
流れる景色に現れるのは、スーパー、コンビニ、神社、歯医者、パチンコ、本屋、携帯ショップ。生きていた頃とさほど変わらない文明を携えた街並み。
これまでは天国や地獄のような想像とかけ離れたこの死後の世界に驚きはしたものの、そこは生前も見慣れたものばかりで『こんなものか』とすんなりと受け入れられていた。
しかし、今朝の祖母の話を聞いた後ではその景色は見え方がずいぶんと変わる。
「変じゃない……?」
「ああ? 何がだ」
ただ車窓を眺めていたこの少女の小さなつぶやきに石津加が振り返り反応した。彼もまた電車に運ばれるだけのこの時間を外や車両内に目を配りもてあましていたところだった。
サクラは隣に立つ石津加を見上げた。今日も見事な金髪だ。この角度だときれいに染まっている。
「ねえ、今って西暦何年?」
「二四二四年だろ」
即答。やはりそうなのか。
「おかしくない?」
「なにが」
要領を得ない少女の問いに、やがて石津加が苛立ちを見せはじめた。
「なんていうか……こう、遅れてるっていうか……今の時代ってこんなもんだっけ? みたいな」
自分でも一体なにを言っているのかと思ったこの時、彼女は迷っていた。自身のいた時代の話をするべきか。
四〇〇年も経っているわりには自分が生きていた時代と文明が変わらないのではないか、そう聞きたかった。
しかし一〇年越しの到着ですら長いと言われているのに、四〇〇年など信じてもらえるのか。自分だっていまだにおかしな話だと思っている。
そうして歯切れの悪い聞き方をするしかなかったのだが、石津加には話さんとする意図がくみ取られたらしい。一言『ああ』とこぼして、彼は外の景色へと視線を定めた。
「お前――――」
言葉を探しているようだ。サクラはじっとその続きを待った。
「お前――、料理はできるか?」
「……え?」
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