Return to Floor<対岸の身元調査室編>
雪象
プロローグ -世界「 」の外-
現し世のキオク
あの子が、泣いている。
大勢の前で、泣いている。
靴を隠されて、教科書を破かれて、机にひどいことを書かれて、泣いている。
誰一人として、彼女の側に寄り添いはしない。
鼻を
駆け寄りたい。
彼女の手をぎゅっと握って、背中をさすって。
もうやめてと、叫びたい。
だけど体が動かないの。
教室中から一点に注がれる、その渦中へ飛び込むことができない。
――彼女がここで泣けば、今度は自分にもその視線が向けられる。経験上、それが解っているから強く歯を食いしばり、あごまで震えるのをなんとか抑えつけた。
恐怖で動けない体、共感して泣くことが許されない状況、頭の中で自分を責める声が止まらない。
こんなんじゃなかったのに。
みんな仲良くしていたはずなのに。
――彼女の少ない
「ごめんね……」
――無力さと薄情さ故に自分へと募る失望に、ぎゅっとワンピースの裾を強く握るばかり。
誰にも届かない、教室の喧騒にかき消された少女の言葉が空気に溶け込んでいく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます