宵闇の魔女の復活

@TokiwadaiMei

プロローグ

プロローグ

 かつて、世界の果てにひとつの王国があった。豊かな森と銀の河に抱かれ、星々のめぐりに祝福されたその国は、人の手によって長く栄えたという。


 しかし、ある日。その王国は、一夜にて崩壊した。


 滅びをもたらしたのは、たった一人の魔女であった。その姿は夜の色を映し、口にするは万象を操る呪。


 民はその力に恐怖し、彼女を「宵闇の魔女」と呼んだ。


 彼女が笑えば、大地は裂け、嵐が海を呑み込んだ。

 彼女が泣けば、空は焼け、王たちは跪いた。


 たった一夜にして幾多の術師が知恵を失い、幾人もの騎士が剣を折った。ただひとりの英雄を除いて――。


 英雄の名は、今では語られぬ。ただ彼が、あらゆる奇跡と犠牲をもって、魔女を封じたことだけが、記録に残る。


 封印の地は、世界の果ての果て。瑠璃色の塔。天に届かんばかりのその塔の頂にて、魔女は長き眠りについた。


 人々は、魔女の眠りに安堵した。しかし、それで終わりではなかった。魔女が消えても、王国の滅びは止まらない。やがて森は枯れ、河は涸れ、星々の軌道は乱れた。


 そうして、王国は今や見る影もなく。ただ神話にのみ語られるばかりである。


 だが、神話は決して終わってはいなかった。


 封印の時から幾千の季節が巡ろうとも、かの塔には、なお微かに灯るものがあった。忘れられた名、閉ざされた想い、そして……ひとつの誓い。


 人々は魔女を恐れ、やがてその本来の名すらも忘却した。英雄の名も、より古き災厄も、やがては風化し、ただ災いの神話として語り継がれるのみとなった。


 けれど、風は変わる。沈黙の塔を撫でる風が、あるときそっと囁いた。


 時は満ちた――と。そして、その夜。


 長き封印の底。塔の頂にて千年に渡り眠る魔女。瞼を閉じたままの彼女が、ひとしずくの涙を流した。それは呪いでも憎しみでもなく――忘却された祈りだった。


 夜が明ける。長きにわたり沈黙を守ってきた塔が、今日も朝の光を迎えた。その光に照らされ、二つの影がゆっくりと塔の石段を降りていく。


 彼女たちの歩みの先に、何が待つのかは誰も知らない。ただ確かなのは、かつて終わったはずの神話が、再び歩み出したということ。


 ――これは、「宵闇の魔女」と呼ばれた少女の物語。過去と未来の神話を繋ぐ、二人の旅のはじまり。

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