第5話 盗賊A小さな村で他のプレーヤーと遭遇する。
暫く街道を歩き続けると、やがて前方の闇の中にぼんやりと灯りが見え始めた。
近づいていくと塀でぐるりと囲まれた村が姿を現す。
松明の灯りが夜風に揺れ、木製の塀と門を淡く照らしていた。
思っていた以上に大きいな。村というよりはちょっとした防衛拠点のような印象だ。
「この村の名前は……なんだったかな」
足を止め俺はぼそりと呟いた。ゲームでもここには何度も来たことがある。
たしかタイタン関連のイベントで少し関わる場所だったはずだ。ただ、特に印象に残るような展開はなかったし、正直名前すらうろ覚えだ。
近くには【ダンジョン】もあった筈だがその場所は他の冒険者やプレーヤーがいてもおかしくない。現状他のプレーヤーに会うことはしたくないのでその場所に行くことはないだろう。
門の前まで進むと、松明を持った門番が俺に気づいて声をかけてきた。
「こんばんわ。冒険者かい?」
「こんばんわ。ああ、道に迷ってしまってな。こんな時間になっちまった」
「はは、それは災難だったねぇ。夜は魔物も出るから気をつけな」
門番は気さくな口調で笑いながら俺とクロノをざっと見て警戒を解いた。
「最初に宿を取りたいんだが、この村の宿屋はどこにある?」
「門をくぐって真っ直ぐ行った先の左手、大通り沿いだよ。灯りが多い建物があるからすぐ分かるはずさ」
「助かる」
軽く礼を言って門をくぐる。門番は俺に手を振ると最初のように姿勢を正して外を警戒していた。
村の中は石畳の道が整然と敷かれ、木と石を組み合わせた家々がきれいに並んでいた。
夜でも所々の家の窓からは橙色の灯りが漏れ、煙突からは白い煙がゆっくりと立ち上っている。
ゲームで見た村の構造とほとんど変わらない。
道の分岐や建物の位置まで一致していて、むしろその再現度に少しだけ背筋がぞわりとした。
そして宿屋へ向かって歩いていると、不意に背後から声が飛んできた。
「ねえ、君。君も冒険者かい?」
「……ん? ああ、そうだが……何か用か?」
振り返ると、街灯の下に一人の旅人が立っていた。
白く輝く鎧を身に着けている。戦いの跡が刻まれたようなベテランの装備ではなく、見た瞬間に分かるのは真新しい金具の部分もまだ曇りひとつなく、肩当てや胸当ては月明かりと街灯を反射してやたらと眩しいくらいだ。
背中には大剣を背負っているが、こちらもほとんど使われた形跡がない。
新品の刃特有の冷たい光が浮かび上がっている。
見た目からして、旅慣れたベテランというより、駆け出しの冒険者か、あるいは貴族の息子が形から入った……そんな印象だった。
だけど俺は確信している。
こいつはプレイヤーだ。
俺はその旅人を見て確信した。
「いや、用はないんだけどさ?僕以外の旅人で1人なのが珍しいなって思って声を掛けたんだよね?仲間はいないのかい?」
「そうだったのか‥仲間はこのクロノとだけだな。最近故郷の村から離れて冒険者をやろうと思ったんだ」
「そうなんだね!実は僕も最近冒険者を初めたんだけど、良ければ僕とチーム組まないかな?テイマーの職業だと色々と大変じゃない?」
やっぱりな。この感じは俺と同じ転生者、しかもこのプレイヤーはレアな職業の【聖騎士】か。
聖騎士は守り主体の職業でタンクよりだ。攻撃手段が無いという訳ではないが1人で戦闘するというよりはチームを支えるような職業ではある。
「‥ありがたい話だが俺はまだ誰とも組む気はないんだ。他をあたってくれ」
「‥関係値が無いとダメなNPCか‥わかったよ!また何か機会があれば宜しくね!!」
【関係値】それは仲間に出来るNPCの中には交友していかないと仲間に出来ないキャラがいるんだが、その数字が低いと今俺が言ったみたいな【俺はまだ誰とも‥】みたいな言い方をするキャラが多い。
だから俺もそれを使ったんだが、今の会話で関係値ってワードが出てくるならそれなりにゲームをやり込んだプレイヤーだったんだと推測出来る。
が、仮にプレイヤーだとしても上位のプレイヤーではないな。その理由は俺を【テイマー】だと勘違いしてる点だ。
俺のステータスを見れば職業欄は【シーフ】なので見た目だけで判断するプレイヤーはまだまだだ。
上位のプレイヤーであれば見た目がテイマーだとしても、ステータスを確認する【鑑定】は必ず発動するのであの聖騎士のプレイヤーは実力者ではないんだろう。
しかし今後の事を考えるとステータスを秘匿出来る装備もあるから早めに手に入れないとな。
「今日は宿に泊まって明日は【ギルド】登録からだな。」
今後もプレーヤーやまだこのエリアでは【魔王】に会うこともないだろうがそこも含めて動かなきゃいけない。
「それが終わったらまたタイタンから奪いに行かなきゃな?」
俺がプレーヤーならどうするか。そう考えると色々と早めに行動しないと先を越される場面も出てきてしまう。
この世界には【1点物】の武器やキャラもいるんだ。
それを如何に早く手に入れるか。どれだけ他よりもアドバンテージを獲れるかが勝負のカギだ。
「そういえばこの近くには【あれ】もあったな?明日言ってみるか?」
それから俺達は宿屋で一晩を過ごした。
しかし、次の日に予想が出来ない事が起きるなんてこの時は思いもしなかった。
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