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「任されてもな……」
へたり込んだみむろをもう一つのベンチに寝かせると鼎は樹莱の横に座る。一応はみむろの書き置きは読んでいるので概要は分かるのだが……。鼎が困っていると、樹莱が口を開いた。
「気まずいなあ……あっ、自己紹介がまだだった。私は妹尾樹莱で橋部の里の警備隊長、流輝の娘です。ちなみに女子高生……いろいろごめんなさい」
樹莱が言った。鼎と樹莱の出会いは偶然だ。巻き込んでしまった。危害を加えてしまった。後ろめたい思いは樹莱の本心だ。
「俺には謝るのな、嫌な役目をみむろから押し付けられてしまった。言いにくい事を聞くが鸞蔵を殺したのは鸞蔵から性的な事を強要されていた……のか」
「そんなところ、鸞蔵の死んだ妻が私に似ていたらしいよ。初めはボケた爺さんのする事だから適当にあしらっていたんだけど、拳銃まで取り出しだしたからこれ以上はやられちゃうと思って。アリバイ工作を考えて殺したんだけど……銃声を父さんに聞かれてしまって……
他人事の様に話す樹莱。
「それなら何故、雪野さんを手に掛けたんだ?鸞蔵だけなら里で口裏合わせも出来るし、なんならバレても情状酌量の余地があったのに」
鼎は現実主義者だ。事情があれば無理に犯人を告発したりしない。手を貸しはしないが口を噤むくらいなら交渉の余地があった。
「あなた達が来たからよ、鼎君。察しの良いみむろちゃんに融通の利かないカズ君。そして私の顔を知っている鼎君。特にカズ君はね、橋部の人間にしてはまとも過ぎるから、事件をもみ消したり出来るタイプじゃないでしょ。カズ君ににバレた時点で私はおしまいなのよ。カズ君なら会長の座を投げ捨ててでも私を告発する。現に今、親族間でそれを話し合っていると思うわ」
一成の事を話すたびに樹莱の表情が変わる。普段なら好ましい一成の性格が、今回の事件では樹莱の前に立ちはだかっていた。
「それで、淵元奈々の存在を雪野嬢に押し付けながら殺害して自分は一成と共に遺体を発見すれば容疑の外に逃れられるわけか。一石二鳥だな。橋部家は雪野嬢を殺した犯人が里の住人の可能性が高ければ、雪野重工との関係維持のために犯人を特定しない様にに動く……か」
口に出してから、微妙な表情になる鼎。人の死を石に例えた事を後悔していた。その様子を見てフフッと笑う樹莱。
「鼎君は優しさが隠せないね。殺人犯を前にしているのをお忘れなく。私を捕まえに来たんでしょ、しっかりしなさいよ」
「別に捕まえに来た訳じゃないぞ。次の犯罪を犯さない様に見張りに来ただけだ。どうせ橋部一門が協力しなけりゃ証拠も無いしな。一成が身内の説得に成功すれば警察に連絡するし、失敗した時は俺が苦しんだ分の愚痴を聞かせてやる」
「うー愚痴は聞きたくないな。でも父さんがもう茅夜さんに相談しているから私からは警察に出頭は出来ないよ。逃げる気もないから暫くお話をしましょう」
樹莱は犯行を一成に知られた時点で観念している。だが橋部家から親族が排斥されないように逃げる事も出来ないし罪を認める事も出来ないのだ。
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