8
橋部屋敷の鸞蔵の部屋は、本来は茶室として設計された部屋だ。四畳半の茶室と三畳の水屋これに床の間と収納が加わる。これを鸞蔵が寝室と応接室として利用していた。
鸞蔵は茶室側の畳に仰向けで倒れている。右のこめかみには銃創があり額には血液が付着していた。
直前まで食べていたのだろうか、脚のついたお膳が倒れ香の物が畳の上にぶち撒けられていた。
「嘘だろ、爺さん」
慌てて駆け寄ろうとする一成。だがみむろに腕を引かれ思い留まる。
「どうした、怖いのか」
「違う、違わないけど、まだ犯人がいるかも」
みむろを気遣う一成に、奥の茶道口を指さすみむろ。中に犯人がいる場合、狭い茶室に入れば銃の的になる。
「そうか!!あの奥は爺さんが寝室として使っている部屋だ。でも……」
顔色はそれほど悪く感じない、撃たれてからそれ程時間は経っていないはず。助かる可能性が僅かにもあるのなら……。
「即死だから……先に……ゴメン」
みむろは助からないから先に110番をするように言おうとして止めた。遺族の一成に言うべき言葉ではない。それはみむろにも分かっていた。でも思わず口に出してしまった……最悪だ。
一成は何も言わず
「110番、するから、瀬尾さんを」
みむろは電話を取り出しディスプレイをタッチする。その間、一成は室内の扉と水屋から廊下に繋がる木戸を警戒しながら、瀬尾に連絡する。
山間の里だ。警察の到着までは時間がかかる様だ。しかも
反対に瀬尾はすぐに到着した。驚く瀬尾に一成は水屋内の捜索を命じる。急に襲いかかられては敵わない。一成が全体を見渡し、廊下側から木戸を開く。瀬尾が特殊警棒を取り出すと押入れと死角になっている床の間を捜索する。みむろが遅れて茶道口から水屋に入った。
「危険ですよ、館林様」
茶道口の木戸を開けたところで瀬尾に睨まれた。
「あ、すいません。犯人と思ってこれを振り下ろしそうになったもので……」
瀬尾が伸ばされた特殊警棒を見せる。
「ごめんなさい。犯人がいたら足手まといになのに……」
みむろば体を小さくして謝る。瀬尾は謝罪までは、と首を振る。
「誰もいませんね。直ちに
瀬尾は慣れた様子で部下に指示を出す。会長の死などに慣れているはずも無いが、今の
「追加で、かずら橋に警察が来るはずだ。搬送用のヴァンを一台用意しろ」
日々の教育なのか、一成もすぐに後継者としての 役目を果たす、これが帝王学と言うものなのか。
しかし、かずら橋へ派遣した警備員から一成の心を打ち砕く一報が届いた。
『かずら橋のメインケーブルが切られ、さな木多数が落下。通行不可です』
瀬尾を通じて伝えられた一報に橋部屋敷の皆は頭を抱えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます