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「うん?いい……けど。お泊り、鼎君は?」
帰宅したみむろに一成からの依頼の件を話すと、いまいちピンとこない様子でみむろが生返事を返す。
午後八時三十分。最後の講義を受け真っすぐ帰ってきた時間だ。何の連絡もない場合は鼎が夕食を作って待っている流れになる。別々に食事を摂っても良いのだが、みむろは食事や睡眠と言った生きるために必要な行為をすぐにキャンセルするので食事は一緒にしている。みむろを両親から預かった(押し付けられた)責任があるからだ。
テーブルに先に料理は並べていたので、ご飯をよそう。二人は向かい合って座り話を続ける。
「今回は、橋部の彼女を装っての情報収集だから、俺はついていけないんだ」
鼎は俺は同行しないぞ、とみむろに告げる。怪しまれるかも知れないが、バレたらバレた時だ。案外とこういう時みむろは鋭い。
「橋部の実家は少し遠いから、朝イチで出発して一泊二日になる予定、着替えがいるぞ……。後、嫌なら断ってくれて構わない。あくまでみむろには手伝って貰ってるだけだからな」
みむろは鼎探偵事務所を高校生の頃から時々手伝っており、本人は割のいいアルバイトだとおもっている。とは言え今までみむろ一人での泊まりがけの仕事はさせていない。
「行っても、良いけど、橋部さん大丈夫な人?」
「そこは信頼出来る。橋部はああ見えて、間違いを犯すタイプじゃないし、橋部家はお硬い家だから、未婚の二人にはちゃんと別室を用意するように言ってある。心配なら日帰りにして車運転して帰って来るか?」
鼎からすれば一成は親友で恩人だ。だがみむろからすれば一成はただの下の階に住んでいる人だ。不安なのは仕方が無い。
「運転のが怖い、泊まってくる。鼎君が私が他の人とお泊りでも心配してないのが、嫌」
みむろは頬を膨らませて上目使いに睨んでいる。免許を取ったばかりのみむろに暗い山道を運転させるのも酷だ。
「本当は心配なんだぞ。何かあったら連絡しろ、迎えに行くから。橋部の家に気に入られて結婚させられそうになったら
鼎が心配しているのは本当だ、二人の心配の意味はかなり違っていたが……。
「そう、明日朝早いなら、先にお風呂入るね……」
食事を終えたみむろはパジャマを抱えてバスルームに向かい、パタンと更衣室のドアが閉まる。スーッと更衣室のドアが三十センチ程開くとみむろはすき間から顔だけ出して、
「早く眠るの苦手、だから、子守唄聞かせて、また」
と、消え入りそうな声で鼎に伝える。鼎はみむろの家庭教師をしていた頃、生活リズム改善のため子守唄を歌ってでもみむろを寝かせつけていた。 鼎が
『まったく……いつまでたっても』
甘えん坊だ……いや、甘えるのが下手だったはずなんだけどなアイツ。
と、みむろの意外な一面に鼎は翻弄されるばかりだった。
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