夜中の侵入者たち

「まったく……、門に鍵はかけてあるはずだが、一体どこから入っくるんだ?」


 夏に山中の別荘で過ごし始めてからというもの、私にはとある悩みがある。ここのところ何度も、夜に若者の集団などが私の別荘の庭に押しかけてきているのだ。


 彼らはたいてい、庭をやかましく喚き散らしながらうろついたあと、最終的に玄関までやってきて侵入しようとする。


 そのたびに私は集団を叱り、彼らが怯えて逃げ帰るのを(ざまぁみろ)と思って見送っている。


 一度𠮟りつけた集団はもう2度とやってこないのだが、なぜか数日後の夜には、別の集団がやってくるから困りものだ。


 不法侵入だけでも立派な犯罪だし、迷惑極まりないのだが、不幸中の幸いか、泥棒などではないようだ。私は夜中の侵入者たちの目的が気になり、今晩は今まできちんと聞いていなかった彼らの話し声を、よく聞いてみることにした。


 今日やってきた集団は、大学生くらいの年齢に見える、若い男女の4人組だった。組み合わせは男3人女1人で、男のうち1人はそれなりに上等そうなデジタルカメラを首からぶら下げている。


「準備できたー? じゃっ、肝試し開始ー!」


 リーダー格らしき男が3人に声をかけ、集団は歩き始めた。


「てかさお前、なんでそんないいカメラ持ってきたんだ?」 


「心霊写真撮りたいのは分かるけど、スマホでフラッシュたくでもよくね?」


「いやー、せっかく心霊写真撮るなら、高画質で撮ってみたくね? ほら、あんまり画質悪いと、せっかく本物でも加工で作った偽物みてーになるし」


「なにその理由、ウケるー!」


 ガヤガヤと騒ぎながら歩く4人組。どうやら彼らは、私の別荘の庭に肝試しをしにきたらしい。


 たしかに、私が親戚から受け継いだこの別荘は、それなりに年季の入った建物だ。人の出入りが少ないと、お化け屋敷のように思われるかもしれない。


「この心霊スポットのいわくって、どんなのだっけ?」


「なんか親戚からこの屋敷を貰った最後の持ち主が、夏に別荘として使ってた時に急死して、自分が死んだことに気づかないで、今も夏になるとここに出てる、って話だったハズだよー」


「へぇ~、コワッ!」


 しかしまぁ、自分の別荘にそんな変な逸話を作られると、無性にいやな気分がするものだ。こいつらは、人様の私有地を一体なんだと思っているのだろうか。


「うーん、庭にはなにもないな。中入ってみよーぜ」


「え~、やめときなよ~」


 庭にめぼしいものがなかったため、彼らは建物の中に入ってくるつもりらしい。私はたまらず玄関から飛び出し、ほぼ怒り任せに彼らに怒鳴りつけてしまった。


「おい、お前たち! 黙って聞いてれば、人様の別荘を心霊スポットだの騒いで、挙句の果てに中に入って見ようだと! 勝手にしやがって!」


 若者たちは驚いた様子で私の方を向き、その顔色を見る見るうちに恐怖で青白く変えていった。そしてとうとう叫び声をあげ、一目散に逃げ帰っていった。


(まずいな……、少し怒りまかせすぎたかもしれない)


 しかし、こうでもしないと、ああいう連中は反省しないだろう。彼らが、私が突然怒鳴ってきた迷惑人物だという誤解を広めないうちに、早く警察に通報すべきかもしれない。


「本当に幽霊出たー!」


「やべーよ!」


「きゃー! 呪われる~!」


「肝試しに来た人に怒鳴る幽霊の噂、本当だったんだ!」


 少し離れた場所から聞こえてくる、人を幽霊扱いする無礼な騒ぎ声を聞きながら、私はそう思った。

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