第33話:地域のボランティア、優しい気持ち
「データ分析、開始。地域のボランティア活動に
参加する人物様、本日の『なりたい自分』への
欲望値は、『他者貢献』を強く示唆しています。
過去データによると、彼女の『献身的な優しさ』は
高負荷時に特定の商品カテゴリへのアクセスを
増加させる傾向があります。
今日の『ランジェリー』選択は、その現れと判断。
この『共感』と『新たな出会い』の関連性、
興味深い推移を見せています。」
私は中村優子(なかむらゆうこ)。高校二年生。
今日は、地域のボランティア活動に参加する。
老人ホームでの、お話し相手だ。
普段は、あんまり人前で話すのは得意じゃない。
でも、おばあちゃんたちに、
少しでも笑顔になってほしい。
誰かの役に立ちたい。
そんな気持ちが、私の中にはある。
そのためには、まず形からよね。
スマホの画面をスクロールする。
『優しい気持ちを、そっと支える一枚。』
そんなキャッチフレーズの広告が目に飛び込んできた。
そこに写ってたのは、
肌に優しく、動きやすい、
オーガニックコットンのシンプルなランジェリー。
フリルもレースもついてないけど、
なんだか、すごく、温かく見えた。
これだ。
直感が、びりびりと震えた。
これならきっと、私を「新しい私」に変えてくれる。
「ポチッ……」
震える指先で、購入ボタンを押した。
画面が切り替わる。
注文完了。
心臓が、トクン、ドクン、って大きく跳ねた。
顔が熱い。
こんな肌に優しい下着。
初めてかもしれない。
罪悪感と、ほんの少しの期待。
変な気分だ。
数日後。
ピンポーン。
宅配便が届いた。
私は、誰にも見られないように。
そっと、箱を受け取る。
小さな段ボール箱。
丁寧に、セロハンテープを剥がす。
蓋を開ける。
ふわりと、甘い、ラベンダーの香りがした。
それは、新品の布の匂いと、
微かに残るアロマの香りが混じった、
私だけの「新しい私」の匂い。
中から取り出したのは、
淡いベージュ色に、光沢のないマットな質感の
ランジェリー。
指でそっと触れる。
生地の、滑らかさ。
指先に、ひんやりと、柔らかな感触。
こんなに、機能的なのに、優しいものが。
私の中に眠る、助けたい気持ちを。
本当に、引き出してくれるんだろうか。
胸の奥が、じんわりと、温かくなる。
期待と、ほんの少しの戸惑い。
混ざり合った、不思議な感情。
部屋の鍵をカチリ。
ガチャリ。
二重にロックする。
ゆっくりと、部屋着を脱ぐ。
いつもの、ゆるいインナーを外し、
新しいランジェリーを手に取る。
ひんやりとした生地が、肌に触れる。
ゆっくりと。
腕を通す。
身につけていく。
ああ。
なんてことだ。
鏡に映ったのは、いつもの私じゃない。
ベージュのブラが、胸元を優しく包んでいる。
普段は目立たない私も、これなら少しだけ
自信が持てる気がする。
ショーツのサイドには、小さな刺繍。
歩くと、生地がしなやかに体に沿うのが、
鏡越しに見えた。
「私…これ、似合ってるかな…」
普段なら絶対に言わないような言葉が、
思わず口からこぼれた。
いつも猫背気味の背筋が、ピンと伸びる気がする。
心臓が、ドクドクと大きく脈打っているのが分かる。
まるで、私の中に眠っていた何かが、
ゆっくりと目覚めていくみたいだ。
「よしっ!」
小さな声で、気合いを入れた。
このランジェリーが、私を新しい世界へ
連れて行ってくれる。
今日は、ボランティア活動。
おばあちゃんたちを笑顔にするんだ。そのために、
この「特別な私」になるんだ。
活動用のエプロンに着替える。
ランジェリーは、服の下でそっと隠れる。
誰にも見えない、私だけの秘密。
でも、その秘密が、私に確かな勇気をくれた。
メイクはいつもの薄めだけど、今日はリップの色を
少しだけ落ち着いたピンクにした。
うん、大丈夫。
私は、行ける。
玄関に向かう。
カバンを手に取り、スニーカーを履く。
よし、完璧。
深呼吸をして、空を見上げる。
胸が、ランジェリーの上で、少しだけ膨らむ。
そして、ゆっくりと。
老人ホームへ向かおうとした――その瞬間。
ゴホッ、ゴホッ!
突然、激しい咳が、喉を襲った。
「っ!?」
慌てて、口元を押さえる。
喉の奥が、ヒリヒリと痛む。
体が、だるい。
まさか。
こんな時に。
風邪なんて……。
体温計を取り出す。
ピピピッ。
「38.0度……」
嘘でしょ。
よりによって、今日。
ボランティア活動の日に、こんなことに!
顔がカッと熱くなる。
心臓が、バクバクだ。
結局、ボランティア活動は、
熱を出して寝込むことになった。
優しいランジェリーを身につけて、
準備万端だったのに。
こんな、緊急事態。
あぁ、私の優しい気持ちが……。
しかし。
なぜだろう。
がっかりはしたけれど。
熱で朦朧とする意識の中。
地域のボランティア情報誌を見ていた。
すると、来月に開催される、
別のボランティア活動の募集が目に留まった。
『地域のお祭り、お手伝い募集!』
笑顔で、楽しそうに、お祭りを楽しむ人々が写っている。
これなら、私にもできるかもしれない。
ボランティアはできなかったけれど、
その経験がきっかけで、
地域の別の活動に興味を持った。
ランジェリーが支えたのは、行動ではなく、
優しい気持ちだった。
帰り道、心の中は、温かかった。
今日の私は、いつもと違った。
見えないランジェリーが、私に確かな優しさをくれたから。
体調不良に邪魔されたけど、
それでも、私は確かに一歩を踏み出したんだ。
後日、お祭りボランティアに申し込んだ。
新たな出会いがあるかもしれない。
明日は。
このランジェリーで。
もうちょっとだけ。
違う私になれるかな。
次は、体調管理、ちゃんと気をつけよ。
---
次回の記録:資格試験、集中力アップ
「データ分析、完了。中村優子様の今日の『挑戦』は、
予測外の『体調不良イベント』により中断されましたが、
内的な『共感性』と『目標設定能力』は高い数値を維持しました。
これは、彼女の持つ『柔軟性』が、
新たな形式で発揮されたことを示唆しています。
次回の『今日の私と、秘密のランジェリー(出発編)』は――
『難関資格の試験に挑む人物』。彼女は今、『自己達成』を決意し、
行動を起こすでしょう。
果たして、彼女が『ポチる』下着が、その決意をどう後押しするのか。
そして、試験会場で、あるいはその先で、
どんな『オチ』が待っているのか――。
データは、『知識の追求と、わずかな『焦り』の傾向、
そして予測不能な『忘れ物イベント』』を予測しています。
ご期待ください。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます