秘めたる想い、勝負のランジェリー
第13話:告白前夜、勇気の赤
「データ分析、開始。内気な美術部員様、
本日の『なりたい自分』への欲望値は、
『恋愛成就』を強く示唆しています。
過去データによると、彼女の『内向性』は
高負荷時に特定の商品カテゴリへのアクセスを
増加させる傾向があります。
今日の『ランジェリー』選択は、その現れと判断。
この『片思い』と『勇気』の関連性、
興味深い推移を見せています。」
私は清水結(しみずゆい)。高校二年生。
美術部の幽霊部員。
いや、幽霊って言うか。
ほとんど、絵を描くために
部室にいるだけ。
人と話すのは、苦手。
特に、好きな人の前では、
声が震えて、何も言えなくなる。
でも、今日だけは、違った。
私の小さな世界に、一筋の光が差し込んだ日。
それは、憧れの先輩、
陸上部のエース、佐々木先輩の引退試合を見た瞬間。
真っ直ぐに走る先輩の姿は、
まるで、光みたいだった。
「私…先輩に、気持ちを伝えるんだ」
決めたら、心臓がトクン、トクンと騒がしい。
普段なら絶対にしない、大胆な決断。
だって、先輩、もうすぐ卒業しちゃうんだもん。
そのためには、まず形から入るのが大事だ、
って、誰かが言ってたっけ。
鏡の前の自分は、いつもの地味な制服。
これじゃあ、先輩もきっと、
覚えてくれない。
何か、変わらなくちゃ。でも、何から……?
その時、ふとスマホの画面に表示された、
オンラインショップの広告が目に留まった。
『あなたの恋を応援します!』
そこに写っていたのは、
情熱的な赤色のフリルとレースが
ふんだんにあしらわれた、
とびきり可愛いランジェリー。
普段、私が選ぶような実用性重視の
シンプルなのとは大違いだ。
でも、なんだか、すごく、
キラキラして見えた。
これだ。
直感が、びりびりと震えた。
これならきっと、私を新しい自分に変えてくれる。
「ポチッ……」
震える指先で、購入ボタンを押した。
画面が切り替わる。
注文完了。
心臓が、大きく跳ねた。
顔が熱い。
こんな可愛い下着、いつ以来だろう。
いや、もしかしたら、初めてかもしれない。
届くまでの数日間、私はソワソワしっぱなしだった。
授業中も、先生の言葉じゃなくて、
真っ赤なランジェリーが頭の中をひらひら舞ってた。
そして、ついにその日が来た。
ピンポーン、とインターホンが鳴り、
玄関で母が受け取ってくれた小さな箱。
「結、なんか届いたわよー」
平静を装って、自分の部屋に駆け込む。
箱を開けると、ふわりと甘い香りがした。
それは、新品の布の匂いと、
微かに残るバラの香りが混じった、
私だけの「新しい私」の匂い。
中から取り出したのは、燃えるような赤色に、
フリルが光に当たってきらめくランジェリー。
指でそっと触れると、レースの繊細さが伝わってきた。
こんなに鮮やかなものが、私の中に眠る勇気を
引き出してくれるなんて。
胸の奥が、熱い。
期待と少しの不安が、混ざり合った不思議な感情。
部屋の鍵をカチリと閉め、ゆっくりと制服を脱ぐ。
いつものインナーを外し、新しいランジェリーを手に取る。
ひんやりとしたレースが肌に触れる。
そして、ゆっくりと腕を通し、身につけていく。
ああ、なんてことだ。
鏡に映ったのは、いつもの私じゃない。
鮮やかな赤のフリルが、胸元をふんわりと飾っている。
普段は目立たない胸元も、これなら少しだけ
自信が持てる気がする。
ショーツの裾には、繊細なレース。
歩くと、フリルがひらひらと揺れるのが、
鏡越しに見えた。
「私…これ、似合ってるかな…」
普段なら絶対に言わないような言葉が、
思わず口からこぼれた。
いつも猫背気味の背筋が、ピンと伸びる気がする。
心臓が、ドクドクと大きく脈打っているのが分かる。
まるで、私の中に眠っていた何かが、
ゆっくりと目覚めていくみたいだ。
「よしっ!」
小さな声で、気合いを入れた。
このランジェリーが、私を新しい世界へ
連れて行ってくれる。
憧れの佐々木先輩に、自分の言葉で、
告白する。そのために、この「特別な私」になるんだ。
お気に入りのワンピースに着替える。
ランジェリーのフリルが、服の下でそっと隠れる。
誰にも見えない、私だけの秘密。
でも、その秘密が、私に確かな勇気をくれた。
メイクはいつもの薄めだけど、今日はリップの色を
少しだけ鮮やかな赤にした。
うん、大丈夫。
私は、行ける。
玄関に向かう。
カバンを手に取り、靴を履く。
よし、完璧。
深呼吸をして、ドアノブに手をかけた――その瞬間。
ワン! ワン! ワン!
外から、けたたましい犬の鳴き声がした。
「っ!?」
慌てて、窓の外を見る。
近所の飼い犬、ポチが、
飼い主さんを振り切って、
道路に飛び出している!
「ポチー! 待ちなさーい!」
飼い主さんの焦った声が聞こえる。
ひ、ひどい!
よりによって、このタイミング!?
告白に向かおうとした私を邪魔するなんて!
顔がカッと熱くなる。
心臓が、バクバクだ。
結局、ポチを捕まえるのを手伝う羽目になった。
赤いランジェリーを身につけて、
準備万端だったのに。
こんな、緊急事態。
あぁ、私の告白が……。
しかし。
なぜだろう。
いつもなら、こんな時、がっかりして、
そのまま、諦めてしまっていたはずなのに。
今日は、なんだか、体が軽い。
無事にポチを捕まえて、
飼い主さんから
「結ちゃん、本当にありがとう!」
って、満面の笑みで感謝された。
告白は、できなかった。
先輩にも、会えなかった。
でも。
誰かの役に立てた。
それが、なんだか、嬉しい。
これも、赤いランジェリーのおかげ?
まさか。
そんなこと、あるはずない。
帰り道、心の中は、少しだけ温かかった。
今日の私は、いつもと違った。
見えないフリルのランジェリーが、私に小さな勇気をくれたから。
犬の脱走に邪魔されたけど、それでも、私は確かに一歩を踏み出したんだ。
明日は。
このランジェリーで。
もうちょっとだけ。
違う私になれるかな。
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次回の記録:プレゼン勝負、クールな自信
「データ分析、完了。清水結様の今日の『挑戦』は、
予測外の『動物の行動』により中断されましたが、
内的な『自己肯定感』と『他者貢献欲求』は微増傾向を示しました。
これは、彼女の持つ『共感性』が、
新たな形式で発揮されたことを示唆しています。
次回の『今日の私と、秘密のランジェリー(出発編)』は――
『若手OL』。彼女は今、『キャリアアップ』を決意し、
行動を起こすでしょう。
果たして、彼女が『ポチる』下着が、その決意をどう後押しするのか。
そして、オフィスで、あるいはその先で、
どんな『オチ』が待っているのか――。
データは、『知性と向上心、そして予測不能な『液体こぼしイベント』』を
予測しています。ご期待ください。」
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