秋風に鼻歌を乗せて

こーいちろー

第1話 転校生

8月29日、私 瑞稀楓みずきかえでは、夏休みの宿題を抱えて、1学期間通ってやっと慣れたかなと思えてきた、いつもの喫茶店の前を通って、いつもの信号を渡って、養命橋中学校ようめいばしちゅうがっこうへと向かっている。

残暑と言うにはまだまだ蝉も黙るような暑さとは対極的な、よく冷房の効いた1年3組の教室に入る。

夏休みの話をするクラスメイトでいつも以上に賑やかな教室を横切り、静かな窓側の席へと私は腰を下ろす。

チャイムと同時に、先生が入ってくると

「みなさん、今日は転校生を紹介します。どうぞ」

扉を開けて、少し日焼けした背の高い男の子が入ってくる。

ざわめくクラスメイトに臆することなく、転校生は自己紹介を始める。

「初めまして。今日転校してきた 吉岡秋桜さちおかしゅうかです。前の学校では陸上部でした。好きな食べ物は、寿司です。これから卒業まではこの学校にいることになると思うので、みなさんよろしくお願いします。」

先生が、

「はい、拍手」

と言うと、みんなが一斉に拍手をした。

「じゃ、吉岡くんの席は、そこね」

先生が、私の席の隣を指した。

(げっ。明らか陽キャじゃん)

私は陰キャなので、陽キャの人が隣になると緊張してしまうのだ。

「よろしく。」

(うげっ。早速話しかけられたじゃん)

「…よろしく。」

返さないのもどうかと思い、小さな声で返した。


その日は始業式だけだったので、何事もなく昼前には下校。


土日を挟んで、いよいよ本格的に授業が再開される、9月1日。

私は、こんなウワサを聞いた。

『今度の転校生すっごくイケメンらしいよ』

『スポーツ万能で50メートル走6秒台だとか』

『高身長で、勉強もできるとか』

友人たちが、そういう話題にキャッキャなっている時に、一躍時の人の吉岡が入ってきて挨拶を交わしながら窓際の席まで歩いてくる。

「おはよう」

(げっ…。また話しかけられた。男子と喋るの特に苦手なんだよね。しかもなんかキラキラしてるし。)

「…おはよう…」

「どうした?どこか具合でも悪い?」

(……???????……)

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