01 僕、北欧美少女になります。
僕は今とても混乱している。いつものように朝早く起きて勉強しようと体を起こすとなんと体が女になっていたのだ。もう一度言う。体が女になっていたのだ。うん。なんでなんだ? とりあえず胸揉んでおくか。柔らけえ。
女子の胸とか今まで揉んだことなかったけど予想以上に柔らかいし、なんだこの胸は。でっデカい! 大きすぎないか? ちょっと肩が重いぞ。一体何カップあるんだ? HかIか? しばらくこのけしからん胸を弄ってから思い立つ。とりあえずここどこだ?
やけにフカフカなベッドから降りて部屋をうろちょろする。使われている家具は一昔前のヨーロッパといった感じだった。高級そうな家具が並んでいる。寝台は紫と金の装飾がされたものでとても豪華だった。家具も木製だが、シックな趣で、とてもしっかりしている。ここは一昔前の貴族の家のような内装だった。
もしかしなくても僕、タイムスリップして過去の誰かの体に憑依しちゃった、のか? そんなことを考えていると綺麗な装飾のなされた鏡が目に入る。あ、鏡だ。ちょうどいい。自分の今の姿を目に入れるとしよう。僕は、部屋の隅に置かれた姿見の前に立って驚く。
「可愛すぎかよ……」
そこには僕が常日頃抱いていた理想の北欧巨乳美少女が立っていた。色白の肌、腰まである美しい銀髪、それに整った顔立ち。紫のネグリジェに身を包むその美貌は国宝級といっても過言ではないだろう。その美はあまりにも洗練されたもので、それでいて愛くるしい。
姿見の前で僕はもう一度胸を揉む。その絵がとても尊かった。やっぱり北欧巨乳美少女は何をしていても絵になる。その時部屋のドアがノックされた。僕は咄嗟のことに驚き固まる。
「失礼します。ヘレーネ様。起床の時間です」
「あ、え、はい!」
ノックの後、僕の返事を聞くと、メイド服を着たTheメイドの女が部屋に入ってきた。なんて答えたらいいのか分からず吃ってしまった。不甲斐ない。ここは常日頃から考えてきた僕の理想の北欧美少女ならコレでしょな喋り方を実践するか! というかここ日本語でオーケーなのね。
「おはようございます。今日はいい天気ですね」
僕はそう言って微笑みかける。そして気づく。この体の持ち主は声まで完璧なのかと。その声を比喩するなら、猫のように甘ったるく、インコのように繊細な声。声までも完成されたこの体を好き放題にできるのは嬉しいが、実際にこの肉体の本人に会ってみたいと強く思った。そしてこの時代に生きている男どもはこんなにも美少女で巨乳で声まで完璧な少女と会えるだなんて許せないとも思った。
よし決めたぞ! 僕がこの体の持ち主になったからには男に対しては辛辣に当たってやる! そんなことを考えているとメイドが困惑したように尋ねてきた。
「どうかなさったのですか?」
メイドはこちらを心配そうに伺う。何のことかわからなかった僕はすぐさま聞き返した。こういう時は素直に聞くのが一番いい。
「どうしてそう訊くのですか?」
「いえ。いつもは声をかけて下さることなどなかったもので」
ここで僕は思う。もしかしたらこの体の持ち主は寡黙な女性だったのかもしれないと。うん。実にいい。銀髪巨乳寡黙北欧美少女。なんて美しい響きなんだ! だが僕はしゃべるぞ。退屈するのが嫌いなんだ。
「そうですか。ならこれからはもっと話しかけてもいいですか?」
「は、はい! ヘレーネ様にそう仰って頂けてとても光栄です!」
ここでさらに思う。今この人ヘレーネ様って言ったよな? それにこの人明らかにメイドみたいだし……。もしかしなくても僕、貴族の令嬢に憑依しちゃった!?
「あのー。確認ですが。この家は子爵家とか公爵家とかだったりしますか?」
「はい! クリスタル家はこのガーネシア王国の公爵家でございますよ!」
クリスタル家? それにガーネシア王国の公爵家? 世界史をある程度勉強している僕でも知らない国の名前と家の名前だ。家名はともかく、ガーネシア王国なんて歴史の中であっただろうか。果たしてこの世界は過去の地球ではなく、異世界なのか?
「へぇ。答えてくれてありがとう」
「いえ! それでは服を着替えさせていただきますね!」
そう言ってメイドは手に持った学生服らしき物をベットに置いて僕の着ている服に手をかけた。僕は言わずにはいられなかった。
「ま、待て! いや……。待ってください。服は自分で着替えられますよ!」
「そうですか? でもいつもは私が着替えさせているのですが……」
メイドさんがうるうるした瞳でこちらを見つめてくる。断ろうにも断れない。仕方ないか。
「うう。分かりました。では、よろしくお願いします」
「はい!」
メイドの少女は僕の着ていた可愛い薄紫色のネグリジェを脱がせて下着姿にした。
「これは凄いな」
自身の下着姿を目の当たりにして思わず声が漏れる。そこには豊満な双丘と、美しいヒップラインがあった。
「どうかなさいましたか?」
「いや、大丈夫ですよ。続けてください」
次にメイドは僕に制服を着せていく。現代日本ではアニメの中の私立の女子高校生が来ていそうな、灰色と白のチェックのスカートにブラウンのブレザーだった。ブレザーには金色の校章が付いていていかにも貴族といった感じだった。
「では失礼しますね。朝食が出来次第伝えに来ます」
「はい。ありがとうございます」
僕は姿見で自分の姿を見てニマニマする。可愛い制服に身を包んだ銀髪巨乳北欧美少女。うん。尊い。そのまま10分くらい鏡の前で自分に見惚れてしまい、その後に部屋の窓から外を見た。昔のヨーロッパのような街並みが広がっていた。それにしても荘厳だなぁと感嘆した。僕が異世界の街並みに見惚れていると、再びノックがされた。
「失礼します。朝食の準備ができました」
「はい。今行きます」
僕はメイドに案内されて長い廊下を歩く。廊下にも壁には絵画がかけられていて、工夫がなされている。本当に貴族の家のようだ。僕は先頭するメイドさんに訊く。
「メイドさんの名前は何て言うのですか?」
「は、はい! シシリーです!」
「シシリーですか。良い名前ですね」
「あ、ありがとうございます! 光栄にございます!」
シシリーは慌てふためく。かしこまっているようだ。ちなみに今までのシシリーの言葉から僕の名前はどうやらヘレーネ・クリスタルということがわかっている。ヘレーネが名前でクリスタルが家名だ。まさにこの体に相応しい高貴な名前だ。しばらく歩くと食堂らしき場所に着いた。
「おはようございます」
恐らくお父さんとお母さんであろう二人と妹らしき銀髪の少女がいたので挨拶をする。銀髪の少女だと。何それ尊い。僕は銀髪少女の隣に座った。
「ヘレーネが挨拶をするなんて珍しいな。今日は良いことがありそうだ」
お父さんらしき銀髪の男が笑ってそう言ってきた。とても気のよさそうな男前な男だった。
「では食べるとするか。祈りを」
お父さんらしき人は祈り始めた。母らしき人も妹も目を瞑ってお父さんの祈りを聞いている。僕も見様見真似で祈ってみる。
「永遠なる神よ、今日この日に食事をできることに感謝します。今日この日に皆が健康で過ごせることに感謝します。ヘレーネの試験が上手くいくことを祈ります。母なる地母神ガイア・ソフィア、月の女神ルナ・ソフィア、父なる太陽神ラーソル・ソフィア。今ここに集う我らが守護天使イリス・メークリン、ビエラ、イムル。今日この日に感謝します。ありがとうございます。ラカン・フリーズ」
すると、母も妹もラカン・フリーズと唱えた。僕も遅れてラカン・フリーズと唱えた。ラカン・フリーズとはなんなのだろうか。分からないが、今聞くのも野暮なのでやめておいた。
「さぁ、食べようか」
お父さんの言葉を機に皆、朝食を食べ始めた。パンにスープにベーコンに卵。質素な朝食だった。朝食中、僕はチラチラと隣に座る銀髪少女を見ていた。サラサラな髪、もちもちしてそうな頬、膨らみかけの胸。恐らく10歳くらいだろう。とても可愛いのだが。
「お姉ちゃんどうしたの?」
「いや、お前があまりにも可愛くて」
つい素の口調で話してしまった。それを聞くと銀髪少女は「あはは」と笑った。
「お姉ちゃんの喋り方変なの。お姉ちゃんこそ、今日も美人さんだね! 私聞いたの。お姉ちゃんって、けいこくの美女って言われてるんだって!」
「うんうん」
傾国の美女ね。確かにそう言われるのも頷ける。僕は必死に語る銀髪少女の頭を撫でずにはいられなかった。
「ふふふ。くすぐったいよ、お姉ちゃん」
甘ったるい声を出しながら当の妹は頬を緩ませている。そこで声がかかった。
「ミュウ。ヘレーネ。今は食事中だぞ。まぁ、仲が睦まじいのは良いことだがな」
「そうね。二人がじゃれ合っているのなんて久しぶりに見たわ」
お父さんらしき銀髪の男に続けてお母さんらしきブロンドの髪の美女が微笑みながらそう言った。そうか。この天使の名前はミュウというのか。なんて可愛らしい名前なんだ!
僕は朝食を食べ終えると部屋に戻って学校に行く準備をする。どうやら学校へは馬車で行くらしい。なんと嬉しいことに馬車はミュウちゃんと同乗だった。狭い馬車の中で姉と妹が二人きり。何も起きないはずがない。
「ミュウ。こっち来て」
「うん。わかった!」
僕はミュウを膝の上に乗せて小さい腰に手を回す。そしてサラサラな銀髪に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。花の匂いがしてとても良い。
「お姉ちゃん。くすぐったいよう」
「天使か、天使なのか?」
至福の時を経て、馬車は学校の門のような場所にたどり着いた。ミュウが降りるので僕も降りようとするとミュウが声をかける。
「見送りはいいよ。恥ずかしいから!」
どうやら僕の通う学校はここでは無いらしい。仕方なくミュウとお別れをする。
「バイバイ」
「お姉ちゃんばいばい!」
ミュウが学校へと消えていってどこか寂しくなった。しぶしぶ僕は馬車に戻る。しばらく乗っていると再び大きな門の前にたどり着いた。
「ここが僕の通う学校か」
門の表札には『王立ガーネシア第一魔術学校』の文字が書いてあった。中々に立派な門であった。魔術ということは、この世界には魔法があるのだろうか。
「ヘレーネちゃん! 今日も可愛いね!」
僕が門前で呆然と考えに耽っていると、急に女性の声がして、後ろから誰かに抱きつかれた。
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