第二章:怠け者のジャック

「ゴホン。ゴホン」


母が咳き込むたび、ジャックは

「はぁ・・・」

と、ため息をつきました。


『・・・ったく・・・母さん、早く元気になってくれよ…』

ジャックは母と二人暮らしでしたが、

怠け者で、働きもせず、生活の全てを母に頼りきりでした。


その母も、長年の苦労から体調を崩し、仕事が出来なくなりました。

畑を耕す事も、搾りたての牛の乳を売り歩く事も出来なくなり、

ついに身の回りの物を売りながら飢えを耐え忍んでいました。


ついに母は

「もう、乳牛を売るしかないわ。

 ジャック、お願いだから、牛を売りに街へ行ってきておくれ」

「ええぇ・・・面倒だなぁ・・・」

そう答えながらも、生活が成り立たなくなっている事を

心底分かっていたジャックは、しぶしぶ乳牛をつれ、街へと歩いて行きました。



「街まで歩くのか…疲れるなぁ」

と元来の怠け癖が出てきた頃

「おや、良い乳牛だね。牛を売りに街へ行くのかい?」

と、灰色のマントを纏った不思議な老人がジャックに声を掛けてきました。


「ああ、この牛を売って、生活の糧にするのさ。

 でも、街まで行くのが面倒だと思っていたところさ」

とジャックは答えました。


老人は苦笑いしながら、

「そうなのかい。なら、私がここで買ってあげようか?」

「本当か!それは助かるよ!幾らで買ってくれるんだい?」

ジャックは大喜びしました。


「まぁ待て・・・。おぬし、生活にかなり困っているようだな。

 なら、今、金を得ても、その金がなくなったら、

 また金に困るようになるんじゃないか?」

「確かに…それはそうだけど…」


「なら、この先、一生、金に惑わされる事のないよう、良い物をあげよう」


老人はお金の変わりに数粒の豆をジャックの手のひらに乗せ、言いました。


「これは空へと導く鍵じゃ。金なんかよりずっと大事な物が得られる。

 “真に必要”と心から願った時にのみ、道は姿を現すのじゃ」


ジャックは胡散臭いなぁと思いつつも、

不思議な老人の雰囲気におされ、その話を信じ、

乳牛と数粒の豆を交換する事にしたのでした。





続く~第三章へ~




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