第3話 地獄鍋 in 山奥 〜ガスも水も無い!サバイバル闇鍋〜

 ——今年の闇鍋は、キャンプ場で野外開催となった。


「やっぱ、闇鍋って自然の中でやると味が違うと思うんだよな〜!」


 そう主張したのは、またしても篠崎だった。誰もが嫌な予感を覚えつつも、アウトドアに憧れがあったため、全会一致で了承。だが、事件は起きるべくして起きた。


 当日。現地に着くと、そこは「キャンプ場?」、ほぼ無整備の山中の空き地だった。


「……なあ、これ、本当に使っていい場所なのか?」


「親戚が地主だから、大丈夫!トイレもあるし!」


「……ポータブルトイレって、お前、これ“置いてあるだけ”じゃん……!」


 さらに悲劇は続く。


・焚き火台はあるが炭を忘れる  

・水を入れたタンクが途中で破損して空っぽ  ・スマホの電波が圏外


 そして極めつけは——


「なあ、鍋って……だれか持ってきた?」


「……え?」


 全員、顔を見合わせる。


——誰も鍋本体を持ってきていなかった。


「……おいおい、マジかよ!?」


「何で全員、具材ばっかり持ってきてるんだよ!!」


「まさかの、鍋がねぇ闇鍋会……!」


 だが、ここで折れないのが闇鍋メンバーのすごいところだった。


「……よし、こうなったら即席土鍋を作るしかねえ!」


「はぁ!?」


「石を使って、アルミを敷いて、その上にアルミ缶を使って蓋を作って……」


「それ、サバイバルすぎない!?」


   数時間後——


 なんとか焚き火の上に石で囲った即席鍋ゾーンを作り、調理開始。


 持ち寄った具材たちは相変わらずカオスだった。


 闇鍋 in 山奥:地獄の具材たち


ナタデココ入りフルーツ缶詰め:味を考えなければ見た目は華やか。

大粒納豆:ここに来るまでに、発酵が進みネバネバ感アップ。

ウコンドリンクと健康ジュース:スープに追加、味が薬草レベルへ進化。

海鮮詰合せとデコレーションケーキ:なぜこの組み合わせ……これを鍋に誰が入れたのかは分からない。


「う……わ……」


 湯気とともに現れたのは、ウコンの黄色がケーキの生クリームに溶け込み、“黄金の泥水”みたいなスープ。


「……何で俺たち、毎年これやってんだ?」


「鍋じゃなくて儀式なんじゃね?」


「お腹空いてんのに、食べる気しねぇ……」


   ようやく完成した“闇鍋”は、見た目も匂いもモザイク必須に仕上がった。


 高橋が覚悟を決めて一口すくい、口に運ぶ。


「…………うわ」


「うまい? まずい?」


「食べてみろよ。味も匂いも強烈だぜ!」


「何がどうなってんだよ」


 藤崎も、勇気を出して一口、口に運ぶ。


「……これ、最初甘いんだけど……後からウコンの苦味が襲ってくる……」


「そう、それ二段構えの罠だよな!!」

 


 焚き火の音だけが響く中、全員で爆笑しながら食べ進めていた。


「ヤバい、きつくなってきた」


「インパクトが足りなかったか……」


「いやいや!」


 ……そのとき。


 ゴロゴロゴロ……という音が山の奥から近づいてきた。


「……ん? 車の音?」


 突然、軽トラが山道を駆け下りてくる。そして、止まる。


「おーい、若いの! こんなとこで何してんだ!?」


 現れたのは、地元の農家風の爺さん。どうやらこの隣の山の持ち主らしい。


「鍋の無い、闇鍋……です……」


「ほぉ〜、そりゃ珍しいな。鍋が無いなら、これ使いな!」


 軽トラの荷台から取り出されたのは、業務用の本物の鍋。


「……神かよ……」


   爺さんは言った。


「昔はな、この辺でもよう鍋やったもんよ。今は、俺くらいか……余り物で良ければ食うか?」


 彼が持ってきた白菜・キノコ・猪肉によって、鍋は奇跡的に復活した。


「うめぇ……普通の鍋って、こんなに美味いんだな……」


「涙が出てきた……」


「もう二度と、デコレーションケーキとか持ってこない……」


「俺も、来年はチョコフォンデュと言う思いが消えたわ!」


「おい!!」


 だが、その言葉が来年守られるとは、誰も思わなかった。

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