第38話 由奈がお泊りする話
「初戦突破おめでと~!」
「ありがとうみんな」
無事に初登板を乗り越えた俺は、そのあと特に山場を迎えることなく、残りのイニングを抑えきり、チームは7-0で勝利を収めた。2回戦は3日後、あの後行われた第3試合の勝者が相手だ。
試合が終わった後、彼女のみんなと我が家で合流し、こうやって初出場と初勝利をみんなに祝ってもらうことになったのだ。
まだ初戦勝っただけだし、パーティーのようなことはやめておこうという話にはなったのだが、まぁこうやってみんなで楽しく団らんするぐらいならまぁ許されるだろう。
「でも、まさかいきなりホームラン打っちゃうなんて…」
「本当にそう。私、いきなり出てきていきなり打っちゃうから、びっくりして言葉出なかった」
「あれは、俺も予想外というか…勘が当たっただけというか…」
「にしてもだろう。あの場であぁやって思いきりプレイできるというのは、なかなかできることではないよ」
そういってみんながねぎらってくれる。
高校初めての公式戦ということで、けっこう精神がすり減った部分があったのだが、こうしてみんなと話しているだけで、ささくれだった心が癒されるようだ。
「あっ、もうこんな時間!奏、そろそろ帰ろ!」
「ん。龍も疲れてるだろうし、私たちも日に当たって結構疲れた」
「そうだな。じゃあ今日はお開きにするか」
そういうと、2人はいそいそと帰り支度を始める。
…なんか違和感あるな。なんかそっけなくないか?
「じゃあ、また明日!」
「ん、また明日」
「…おう、また明日…で、由奈さん?」
「な、なんだ!?」
二人がカバンを背負って帰ろうとしているのを、なにやら俺の背後で見送る姿勢を見せている女が一人。
「まさかとは思うが、由奈」
「…だって、二人は龍と泊まったのだろう?…ずるいぞ」
「…はぁ。主犯は真琴か?」
「思いついたのは昨日だけどね。」
「私たちだけおいしい思いをするのは良くない。それに、由奈は大会優勝したご褒美にもなる」
「…由奈はいいのか?」
「…私はお泊りしたい」
「…わかった。一泊だけだぞ」
「うむっ…!もちろんだ!」
そういうと、彼女はカバンの中から着替えや歯ブラシなど、お泊りセット一式を出し始める。なんかやけにでかい鞄持ってきてるなと思ったらそういうことか…
いや、替えの制服もあるんかい。うちから学校行く気満々じゃないか…
「じゃあ今度こそ帰るね!」
「明日、由奈も一緒に学校行けるの楽しみにしてる」
「あぁ!二人とも、ありがとう」
そういって、二人はさっそうと帰っていった。
本当にあの二人は…いたずら好きというかなんというか…
「…じゃあ、シャワー先に浴びるか?」
「しゃっ…!?お前…!破廉恥な!」
「なんでだよ!?汗ぐらい流したいだろ!?」
「そ、そうか…そうだな?…絶対に覗くなよ!?」
「覗くわけないだろ!早く行ってこい!」
由奈は、恐る恐る俺のほうを見ながら、風呂場へと消えていった。
彼女は、真琴や奏と違ってあぁいうことに耐性がないから、まぁ変なことにはならないだろう。たぶん。
…大丈夫だよな?
「あがったぞ~」
「お、おかえぇり!」
「…声裏返ってるぞ」
風呂上がりで薄着な俺を見るだけで、顔を真っ赤にして動揺する由奈。
こういうのを見ると、積極的な真琴や奏と比べて落ち着くなぁ…
俺はそんな彼女の可愛さにつられて、ついつい頭をなでてしまう。
「ひぅっ!急にやめっ…!んひぃ…ふへぇ…」
撫で続けていると、どんどん顔がふやけてくる。
挙句の果てには、俺が手を離そうとすると、自分から頭を俺の手に擦りつけてくるほどだ。
なんというか…
彼女に少し失礼かもしれないが、ペットの犬的な可愛さだな。
普段の凛々しい彼女とのギャップも相まって、抜け出せない深い沼にはまっていく感覚だ。まぁ抵抗する気もないわけだが。
「…はっ!私は何を!?」
「チッ…正気に戻ったか…」
そのままなで続けていると、少しして由奈の意識が帰ってきてしまった。
なでなでフィーバータイムは終了のようだ。
「私を何だと思っているんだ!まったく…次はないぞ…!?」
「ごめんごめん…つい由奈が可愛くてさ」
「かわっ…!そ、そんなお世辞で惑わされると思ったら大間違いだからな!」
「お世辞じゃないんだけどな」
「…ふ、ふん!私はどうせかわいげのない男女だからな!」
「おい、誰がそんなこと言った。そいつのことは俺が直々に説得しないと」
「言われてない!言われてないから!落ち着け!急に真剣な顔をするな!」
「由奈は本気でかわいいからな?どこが可愛いかって?ちょっと褒めると顔を真っ赤にしちゃうところとか、気づいたら思ったことをそのまま口にしちゃうところとか、思いこんだらそのまま突き進んじゃうところとか…」
「うぅ…わかった…わかったからもうやめてくれぇ…」
おや、すこしやりすぎてしまったらしい。
ま、少々自覚の足りない由奈にはこのぐらいお灸をすえるのがちょうどいいだろう。
その後、しばらく頭から湯気を出す由奈を落ち着かせるために、彼女の背中をさすってあげるのであった。
だんだんと俺の家にいることに慣れてきた由奈と、のんびり野球の試合を観戦したり、学校でのお互いの生活の話をしたりしながら和気あいあいと過ごしていると、そろそろ就寝の時間になってきた。
「由奈はベッドでも大丈夫か?」
「問題ないぞ。普通に家ではベッドだしな」
「オッケー。じゃあ由奈は俺のベッド使ってくれ。俺はソファーかなんかで…」
「ん?龍はベッドで寝ないのか?」
「ベッド一つしかないからな。由奈が使ってくれ」
「しかし、龍は試合終わりで体を休めるべきだ。そういうことなら私がソファーで構わない」
「そういうわけにはいかない。由奈をソファーで寝かせるなんて、お父さんに示しがつかないよ」
「だがしかしだな」
「いやでもだな」
「…」
「…」
これは、お互い譲らないパターンだな。
しかし男として、愛する彼女をソファーに寝かせるなど、俺のポリシーに反する。
…まさか、この案を俺のほうから提案することになるとは…
「わかった。折衷案を提案しよう」
「折衷案?」
「…二人で、ベッドに寝よう」
「…は?」
「二人で、一緒に、ベッドに、寝る。オーケー?」
「ななななななななにを言っているんだ馬鹿者!!破廉恥な!!」
「これだとお互いいつまでたっても寝れないだろ?もちろん、変なことはしないしするつもりもない」
「当たり前だバカ!…し、しかし、年頃の男女が一つのベッドで同衾など…」
「…こういうのはなんだが」
「…なんだ」
「真琴と奏、ふたりとも一緒に寝たぞ」
「しょうがないな!ベッドが一つしかないのであれば一緒に寝るしかあるまい!これはいたしかないことなのだ!うむ!」
手のひら電動ドリルかな?
こうして、ついにすべての彼女と一緒に寝ることになったわけだな…
世間的に観れば、世界中の男に刺されても仕方ないことをしている自覚はある。
すべて、彼女たちが可愛いのが悪い。
「…で、では、寝るぞ!」
「…そんなに気合が入ってたら寝れるものも寝れないと思うが」
「ぐぬ…!し、しかし、どうにも緊張して…」
由奈ほどの美少女と隣り合わせで寝るなんて、俺自身も緊張するかと思ったが、これはあれだな。自分より緊張している人がいると冷静になるってやつ。
「由奈もなんだかんだ外に出て体力消耗してるんだ。しっかり寝ないと明日に響くぞ」
「わ、わかっている…!」
…だめだ。俺から提案しておいてなんだが、このままだと睡眠どころではない。
やはり、俺がソファーに移動するべきか。そう思った矢先
「…龍、ひとつお願いしてもいいか…?」
「お願い?なんだ?」
「そのだな…さっき、龍に頭をなでてもらった時、結構安心したというか…」
「…なるほど?由奈が寝れるまで頭をなでていればいいか?」
「いや…その…だな…」
…?由奈にしては歯切れが悪いな。
由奈直々のお願いなら、割となんだって聞くから遠慮なんてしないでいいのに。
「どうした?なんでも言ってくれ」
「なんでも…いったな…?なんでもいいんだな…!?」
「お、おう…?」
なにやらすごい勢いだが、そんな意気込むようなお願いってなんだ…?
「ふぅ…いうぞ…?…わ、わわわわ私を…」
「う、うん…」
「抱きしめて寝てほしいっ…!」
「…はい?」
「さっき撫でられたときに、龍のあったかさみたいなのを感じることができてだな…?すごい気持ちが落ち着いたのだ…だから…お願いできないだろうか…?」
そんな上目遣いで見られて、断れる男がいるだろうか…この反語表現、最近毎日使っている気がする。
「…わかった。本当にいいんだな?」
「あ、あぁ!女は度胸だ!どんとこい!」
俺は、目の前にいる由奈をゆっくりと抱き締める。
彼女の体から、俺よりも少し高い体温が伝わってくる。
「…どうだ?落ち着いたか?」
「…ドキドキしすぎてよくわからん」
「ダメじゃねぇか」
「い、いや!でもさっきみたいにどうしようもない感じではないのだ!」
「…ほんとか?あれなら俺がソファーに行くぞ?」
「だ、大丈夫だ…!…もう少し強めに抱きしめてくれるか?」
「…本当に寝るためにやってるんだよな?己の欲望を満たすためにやってるわけじゃないよな?」
「あ、当たり前だ…!…えへへ…」
確かに、抱きしめる前よりは表情から険が取れている気がする。
このままなら、ただ隣で寝るよりは寝つきが早くなりそうだ。
「…せっかくだし…いいよな?」
「由奈?なんかいったか?」
「りゅ、龍!」
「ど、どうした?」
「その…だな…!」
「あぁ…?」
「ね、寝る前の…寝る前のチューとやらをしたい!」
「何を言っているんだ」
「あ、あこがれだったのだ!大好きな人と寝る前にチュッっとやるやつ!もし龍と付き合えたらいつかやりたいと昔から…なんでもない!忘れてくれ!」
「いや、無理だろどう考えても」
「うにゅう…」
由奈、まさかそんな昔から俺のことを…?
そんな告白を、しかもそんなかわいらしい顔でおねだりと合わせてされてしまっては、彼氏として答えないわけにはいかないな。
「由奈、いい夢見ろよ。おやすみ」
俺は、優しく彼女の唇に、触れるだけのキスをする。
「あっ…えへへ…ありがと龍…おやすみ」
彼女は、その返事と言わんばかりに同じようなフェザーキスをしてくれる。
間もなくして、俺の胸の中で安心しきった表情で由奈は眠りについた。
そんな彼女の寝顔を少しの間堪能したのち、俺も夢の世界へと旅立ったのであった。
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