第6話 学校に行ったら見知った先生がいた話

由奈と一緒にリハビリしてからさらに一週間がたった。

結局、由奈はあれから2回ほど病院に訪れて一緒にリハビリをしたのだが、最終的にほぼ中学時代のトレーニングと変わらない量をこなす羽目になったので、いまだにあれがリハビリといって良い範疇だったのかははなはだ疑問である。


そして今日、ついに記念すべき退院日を迎えることになったのだ。

いやぁ、やっとまともに外の空気吸えて気分爽快だな。


病院の屋上とか中庭には何度か出たことがあったが、やはり入院患者として外の空気浴びるのとじゃ、気分的にかなり違うものがあるからな。


「うっし、これで荷物は全部だな」


「ありがとう父さん」


今日はちょうど日曜日というのもあって、家族総出で退院の手伝いに来てくれている。そうなるともちろん、


「お兄ちゃん!これは全部トランクに積んじゃうけどいい?」


「あぁ大丈夫だ。手で持つ分はこっちにまとめてるから」


「わかった!」


てな具合で、当然妹である咲夜も一緒だ。


一週間ぶりの再会なわけだが、ほとぼりが冷めて冷静になった妹に「やっぱりお兄ちゃん嫌い。近づかないで」なんて言われでもしたらどうしようかと思っていたが、杞憂に終わってよかった。

我が可愛い妹も、中学では結構名の知れたスポーツ少女で、部活もあるはずなのだがそちらは大丈夫なのだろうか。心配なので聞いてみると、


「だいじょーぶ!普段真面目に練習してるから、1日ぐらいさぼったって怒られないって!」


「さぼったんかい」


「うそうそ冗談!ちゃんと『兄の退院のお手伝いしてきます!』って言ってきたよ!先生もお兄さんによろしくって!」


「そっか。ならいいけど…」


まぁ、咲夜は母さんに似てすごい真面目な性格だし、本人が大丈夫っていうからには本当に大丈夫なんだろう。


そしてこの場には、俺たち家族以外にももう二人来てくれている人物がいる。


「水瀬君、退院おめでとう!」


「おめ。これで無事学校に一緒に行ける」


「わざわざありがとうな2人とも」


そう、柊さんと皇さんである。

以前約束した通り、退院日を知らせると一も二もなく「いく!」という返事が二人からきた。


せっかくの日曜日、二人とも高校で新しくできた友達と遊んだりしないでいいのかとも思ったが、


「友達とはいつでも遊べるけど、水瀬君の退院祝いはその日しかできないでしょ!」


「全く、水瀬君はへんなところで律儀」


そんなことを言われてしまったので、ありがたくお願いすることにしたのだ。

人手では多いに越したことはないのでね。


なお、こういう機会には必ずやってきそうな由奈であるが、残念ながら部活の練習試合と被ってしまい来ることができなかった。


退院日が決まってすぐ連絡をしたのだが、


「時間は何時だ?10時?なんとかそれまでに全員を再起不能にすれば…」


などと供述していたので、こちらからご来訪をお断りさせていただいた次第だ。

犯罪は未然に防ぐに限るね。


「真琴さん!それ、私が預かります~」


「ありがとう咲夜ちゃん」


「咲夜ちゃん、喉乾いてない?ジュースあげる」


「いいんですか?ありがとうございます!」


こんなふうに、三人とも今回ですでにかなり打ち解けてるみたいでよかった。

咲夜も柊さんもかなり社交的な性格してるし、皇さんも言葉選ばないタイプだから、一回お互いの人柄を理解出来たらもうあとはノンストップで仲良くなっていった。


「荷物はこれで最後かしら?」


母さんが、最後の荷物をタクシーのトランクに入れる。

流石に2週間も病院にいると、着替えなんかも含めて荷物結構かさばっちゃうな。


これもし一人で片づけるってなったらとんでもなく大変だっただろうな。

手伝ってくれたみんなに感謝だ。








さて、2週間ぶりの自宅への帰還である。

まぁ、そもそもこの家に住み始めて一か月もたってないうえに、半分は病院生活だったから、愛着というようなものはあまり湧いてないんだけど。


で、ここでひとつ問題が発生した。


「こここここここがみみみみなせくんのおうちちちち」


「壊れたラジオみたいになるのやめてね」


「すぅーっ、はぁーっ!」


「深呼吸やめな?」


そう、この二人である。

なんか、会えば会うだけ彼女たちのキャラクターが崩壊していくような気がするんだけど大丈夫だろうか。というか二人ともちゃんと学校生活が送れているのだろうか。あまりのキャラ変っぷりに、おもわず母性が目覚めてしまう俺であった。


「おにいちゃん…私、お兄ちゃんの交友関係に首突っ込むつもりはなかったんだけど…二人とも大丈夫な人…?」


「今日はすこしテンション上がっちゃってるだけだと思う…たぶん…」


おい二人とも、年下の女の子にも心配されてるぞ。


まぁ、時間がたてば落ち着くだろう…落ち着いてもらわないと困るんだけども。

それまで俺は、両親と一緒に軽く掃除でもしようかな。しばらく家に誰もいなかったせいで埃っぽくなってるし。決して現実逃避ではない。決して。






「すいません…お見苦しいところを…」


「ほんの少しだけ取り乱した。ごめん」


絶対にほんの少しではない取り乱しっぷりではなかったけど、そこはふれるべきではないだろう。俺は大人だからな。


「今日は二人とも本当にありがとな」


「このぐらいなんてことないよ!こんなことじゃ全然お礼になってないんだから!」


「真琴のいうとおり。まだまだお礼するつもりだから覚悟しておいて」


「ははは、それは期待しとくわ」


「さしあたっては明日の学校だね。迎えにこようか?」


「そうだなぁ…お願いしようかな。道結構不安なんだ」


「じゃあ八時ごろにここに来る」


「そうだね!明日楽しみだなぁ!」


そう、いよいよ明日、ついに念願の高校デビューである。

…緊張してきたぁ…!








翌日、初めて鳳高校の制服にそでを通すと、いよいよ高校生活が始まる実感がわいてきた。いや結構緊張するなこれ。

全く知らない環境で全く知らない人たちと生活が始まるんだ。

これでもし柊さんと皇さんいなかったらと思うとゾッとするな。


そんなことを考えていたら、家のインターホンが鳴る。


「おはよう水瀬君!」


「おはよう。今日から改めてよろしく」


「こちらこそ、迷惑かけるけどよろしくな」


2人と合流して、さっそく学校へと向かう。

学校へは、うちから歩いて10分ほどと近い場所にある。

まぁ学校から近いところの部屋を借りたわけだから当然なんだが。


俺たちは、雑談に興じながらのんびり通学路を歩いていく。

が、ここでひとつ予想していなかった問題に直面した。


「…すごい注目されてないか?」


「やっぱりこうなったかぁ…」


「予想通り。でも気にすることでもない」


「ふたりはこうなることわかってたのか?」


「わかってたというか…そうなるかなとは思ってたよ」


「水瀬君は身長高いしイケメン。そんな人が女子と登校してたらみんな気になる」


…俺がイケメンかは置いておいて、二人とも抜群の美人だしな。

そんなふたりが一人の男と一緒にいたらそりゃみんなどんな関係か気になるよな。


「ごめん。俺の考え不足だった」


「私たちが気にしてないんだから、水瀬君も気にしないでよ!」


「私たちは好きで水瀬君と一緒にいる。もし水瀬君が私たちに気を使ってくれたとしても、そのうえで私たちは一緒にいるつもりだから」


「…本当に俺は友達に恵まれてるよ」








「…でっか」


「私も最初に来た時はびっくりしたよ。一瞬大学と間違えちゃったかと思ったもん」


「さすが新進気鋭の学校なだけはある」


周りの視線を気にしながら到着した鳳高校。

まず目に飛び込んできたのは、巨大な校舎である。

レンガ造りではあるが、明るい茶色の壁は古臭さを全く感じさせないモダンなデザインに仕上がっている。


大きさも圧巻で、以前、大学生の選手のトレーニングに帯同した父に連れられて訪れたことがある総合大学よりもデカい印象を受ける。


「水瀬くんはまず職員室に行くんだよね?こっちが靴箱だよ!」


まずは靴箱にいって上履きに変えないといけない。

そこまで柊さんが案内してくれるようだ。左側には皇さんがつかず離れずの距離でついてくる。なにやら、周囲をにらみつけているようだけど気のせいだろうか。

…気のせいということにしておこう。


柊さんに連れられた場所には、これまた大きなガラス張りでできた一角に大量の靴箱が並べてあった。学校の規模に比例して、生徒数もかなり大きい学校である。靴箱の大きさや量も桁が違うな。全体的にスケールに圧倒されてしまうな。


「えぇっと、水瀬君の出席番号が20番だから…ここだ!」


「体育館用のシューズは上に、革靴はしたの大きめのスペースに入れておくといい」


彼女たちの指示に従って靴を直して上履きに履き替える。


「職員室はこっち。ついてきて」


続いて、ここからは皇さんが案内してくれるらしい。

彼女が僕の前を歩いていくと、柊さんが右手にぴったりとくっついてくる。


「…近くない?」


「べっべつにそんなことはないんじゃないかな?友達として適切な距離だと思うけど!?」


「…そうか…そうかな」


まぁ、手をつないでるとか、腕を組んでるとかそういうわけではないし、いいか。


「ここが職員室。ちょっと待ってて」


そういうと、皇さんは職員室の扉をノックする。


「1年3組の皇です。今日から登校する水瀬君をお連れしました」


「どうぞ~入ってください~」


…?皇さんの声に反応したのは、おそらくこの学校の先生だろうと思う。

だが、この声、聞き覚えがあるのだが。

具体的に言うと、俺が中学生のころ、1,2年生の時に担任してくれた先生の声にそっくりだ。いやまさかな。


俺は、皇さんに促されて、職員室に入る。


「失礼しま…すぅ…」


「ふふ、久しぶりね水瀬君」


「なにしてるんですか、小鳥先生」


いやまぁ、そうだよな。

机に座って俺たちを出迎えたのは、予想通り、俺の中学校頃の恩師でもある 小鳥 菜緒 先生その人であった。


水色の流れるような髪を、肩口から前に流しているヘアスタイルの彼女は、その美しい容姿から、中学時代は学校のマドンナ的な存在であった。

俺の記憶が正しければ、教育実習を終えてからすぐうちの中学に来たはずなので、まだ20代半ばという若さにもかかわらず、そのおっとりとした話し方も相まって、年齢以上の色気というか、妖艶さがにじみ出ている。


中学の時のある出来事がきっかけでよく話すようになったのだが、野球のことに加えて、妹と少し疎遠になってしまったことで精神的に少し不安定になっていた時に、当時いろいろな悩みを聞いてもらって、とてもお世話になったのだ。


俺が三年生にあがるタイミングで、私用で学校を退職されると聞いてショックを受けたのは今でも覚えている。まさか鳳高校で働いていたとは。


「えっ!水瀬君って小鳥先生と知り合いだったの?」


「あぁ、中学の時お世話になったんだ」


「それはとんでもない偶然。運命を感じる」


「運命だなんておおげさね~。でもこうしてまた会えてうれしいわ、水瀬君」


「こちらこそ、またお世話になります」


そういって俺は先生に頭を下げる。

相変わらず真面目ね、というと、先生はおもむろに立ち上がった。


「では、あなたの教室に向かいましょうか。みんな待ってるわよ~【英雄】様の到着をね~」


「はい?」


ちょっと待て今なんて言った?

なんかとてつもなく嫌な予感がするんだけど。


ふと後ろに控えていた二人をみると、めちゃくちゃ下手くそな口笛を吹きながら顔をそむけやがった。


…あぁ、たった今教室に行くのがすごい億劫になってきたよ。

緊張で行きたくなくなるよりマシなのか?いや、そんなこともないな。


これは相当に覚悟を決めなくてはいけない…そんな気がする…。










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