第13話:動揺?

『イヴ。そいつは純度50%の新型だ。データが全くねぇ。気をつけろ』

「了解。これより殲滅する」


 新型? アダムのデータにもない。秘密裏に開発されていたのか。

 だが改良型のスーツを着ていても、最大純度は42%だと言っていた。それを超えると急激にパイロットへの危険度が増すと。


『しかしこの純度では、強化人間でないのは明らかです』

「そうだな。強化人間だとすれば、少なくとも70%を超える純度にしているだろう」


 私が知る限り、強化人間は全員、純度80%に耐えうる作りになっていた。純度50%のAMAだとパイロットの性能を生かしきれなくなる。

 なら、あれに乗っているのは普通の人間か?

 命を削ってまで、あれに乗るのか?


『イヴ。セルジュの機体では追いつきそうにありません』

「ヴァルキリーで追う。意外と早いな」

『そうですね。パイロットの腕もいいようです』


 加速させ、新型機に追いつく。

 エネルギーの消費が多い。燃費効率もだいぶん悪くなったな。

 

『人々の平和を脅かし停戦協定を破るだけじゃなく、帝国軍の仕業に見せかけてコロニーを落としただろう! その悪行、僕らはお見通しだ!』


 ん?


「本心か?」

『音声を解析――嘘を言っている様子はありません。本心のようです』

「そうか。帝国側ではそういう事・・・・・になっているということか」

『厄介な戦いになりそうですね』

「あぁ……とりあえず、奴を落とす。バスターライフル、セットオン」


 いい動きをする。だからこそ予測しやすい。

 止まらないのなら、奴が動く先を狙えばいい。


「アダム」

『照準はわたくしが、トリガーはそちらで』

『勘違い野郎を撃ち落とせ』

『白銀の悪魔。覚悟しろ! 殺されたコロニーの人たちの恨み、僕がかわりに晴らす!』


 ヘルメットのバイザーにロックオンマークが浮かぶ。

 タイミングを合わせて――。


「照準――ロック

『まっ、待ってくれイヴ! 撃たないでくれっ』


 悠希?

 

『そのAMAに乗ってるのは翔麻なんだっ!』


 そんな名前の人間のことなど、知らない。私は与えられた任務を全うするだけ。

 

「ロック。バスターライフル――」

『俺の親友が乗っているんだ! だから撃たないでくれっ。翔麻を殺さないでくれ!?』


 親友……どこかで聞いた言葉。どこだったか?


 あぁ、そうだ。博士が言っていたんだ。


 ――イヴ。君にもいつか友達が出来ることを、私は願っているよ。

 ――親友を作るといい。きっと君の心の支えになってくれるだろうから。


 結局、親友なんてものは見つからなかったけれど。

 そうか。あいつにはいるのか。


『イヴ。何をしているのです。引き金をっ。イヴ!』


 どうして私は、引き金を引けない?

 奴は躊躇わず、引き金を引いたんだぞ。


「くっ――」


 コックピットを狙われた。激しい衝撃と、コックピット内に火花が散る。

 どこかのパネルが弾け、その破片がヘルメットのバイザーを砕いた。


『イヴ。大丈夫ですか、イヴ』

「心配ない。でも目をやられた。破片が刺さって開けることも出来ない」

『システムの一部がダウンしています。医療スキャンも出来ません』

「神経シンクロ率、最大値」

『シンクロ、最大値に。一部通信復旧』

『イヴ! 無事かっ。応答しろっ』

「聞こえている。標的変更。訓練艦を落とす……ん? 繋がってないか?」

『そちらの通信システムの方は復旧に時間を要するようです。こちらでサポートします』


 一撃でこのありさまか……そういえば、耐久値が下がっていると言っていたか。

 ヴァルキリーも古くなったものだな。私のようにコールドスリープしていたわけではないし、あれから二十五年だ。仕方ないのかもしれない。


 神経シンクロを最大にしたことで、目が見えなくとも脳に直接流れてくるデータとアダムのサポートでなんとか対処できる。長続きはしないだろうが。


 AMAより訓練艦を落とす方が楽だろう。

 バスターライフルを発射し、撃墜を知らせる音が鳴る。もう一隻。これを沈めれば……。

 沈めれば、あのAMAのパイロットは帰る場所を失う。

 奴の親友だといった。本当にそうなのか?


 バスターライフルを発射――外した?

 いや、外しはしたけど、航行は無理だろう。十分だ。


『新たな敵影が確認されました、イヴ。すぐに帰投命令が出るはずです』


 アダムの言う通り、直ぐにセイレーンへ帰投しろという通信がはいる。

 素直に逃がしてくれるだろうか?

 

『逃がすかっ』


 はやりそうなるか。

 奴が追いかけるのはセルジュの機体。追いつかれるのは必須だ。

 頭に血が上っているのか、こちらに気づいていない。

 今なら背後から――。

 

『もう止めてくれ翔麻!!』

『イヴ。ヒート・ソードでコックピットをっ』


 それがいい。それが一番手っ取り早い。

 そうするのが一番だとわかっているのに。どうして私は!?

 せめてこいつが追いかけてこれないよう、背後のスラスターを破壊しててやる。


『イヴ。どうしたのですか? 何故躊躇ったのです』

「私だって知るものか。はぁ……アダム、ナビを頼む」

『……承知しました。あなたらしくもない。ですが……よいことかもしれません』


 いいものか。戦場で動揺を見せるなど、強化人間にあってはならない失態だ。

 その上負傷して……しばらく視力は戻らないだろう。

 クソッ。


 あのパイロットは、本当に奴の親友なのか……。


「アダム。さっきのパイロット……音声解析では推定年齢いくつだ」

『年齢でございますか? ……二十歳から二十三歳ほどだと思われます。本当に悠希のご親友でしょうか? そうであるなら、年齢におかしな点がございますが』


 もし本当だとすれば……違う時間の壁を越えたようだな。

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