第11話:完全クリア。

『これより本艦は、第七コロニー・マーズを経由し、鉱山惑星レゾンへと向かう――』


 そんな艦内アナウンスが流れる中、格納庫の一角は賑わっていた。

 

 「くあぁぁぁっ。やられちまったぜぇ」

「よし、次は俺だ」


 パイロット訓練用プログラムだと判明した【ARMOR・SOUL】だが、意外に人気になっている。

 理由のひとつに、ここには娯楽があまりない。

 そしてもうひとつ……。


「神経シンクロしなくて済むってのがいいな」


 というもの。まぁゲームだし、アブソリュート合金も使われてないからな。当たり前と言えば当たり前。

 ここのクルーの中には、パイロットになることに憧れて……という人も少なくはない。

 だからこそ、実際の訓練プログラムが使われており、且つ――。


「うっひょー。オペ子ちゃんに褒められたぜっ」

「かぁー。うちのオペ子は塩対応過ぎんだよなぁ。もっと砂糖も入れて欲しいぜ」

「デートの約束取り付けたぜ!」

「え? それ隠しステージじゃねえか! どうやって出した。な?」


 たぶんプレイヤーを飽きさせないためなんだろうな。女性NPCは軒並み美人揃いだ。

 そして隠し要素には恋愛ゲームさながらのシナリオも存在する。

 俺は興味ないし、そっちのルートには行かなかったけど。


「それにしても悠希。お前、パイロットとしての素質あるんじゃないか? 何度やってもお前の記録を塗り替えられないんだけどよぉ」

「い、いや、どうですかね? 俺、小さい頃からアクションゲー好きだっただけで」

「ま、MAとAMAは違うからな。MAの成績がよくたって、AMAのパイロットになれるとは限らないさ」

「お、そういうのを負け惜しみって言うんだぜ、セルジュ」


 セルジュ。この人はAMAのパイロット。

 このセイレーンには八人のパイロットが乗っている。二人一組でAMAを操縦するから、パイロットの人数は機体の倍だ。


「だいいち、パイロットであるわたしが本気になったら、ポイントで大差をつけすぎて君らがかわいそうだろう。だから手を抜いてやっているんだよ」

「ほぉほぉ。そういうのは実際に高ポイントを出してから言ってくれ」

「くっ……そ、そうだ。イヴッ、君もやってみないか?」

「おぉ! エースのご登場か」


 そういえば、イヴは一度も遊んでいなかったな。まぁゲームをするってタイプでもなさそうだしな。

 整備クルーと何か話をしていたイヴは、呼ばれると俺たちの方へとやってきた。


「何をやるんだ」

「君が拾ってきた少年が持っていたゲームさ」

「そいつを拾ったのは私ではなくアダムだ」

「まぁいいからいいからいいから。ささ、ここに座って」

「エレル、最近サボり過ぎだとボルドが言っていたぞ」


 格納庫の一角は、エレルさんとアダムが作ったゲームセンターになっている。

 それを作るのに三日三晩、彼は仕事をサボったというわけだ。


「イヴ。パイロット代表として、君が彼を打ち負かせ」

「つまりセルジュ。お前は出来なかったということだな」

「さ、さぁスタートだ。出撃するんだ、イヴ!」


 強引だなぁ。

 でも、興味はある。イヴはいったい何ポイント叩きだすのか。


 さぁ、ミッションスタートだ。

 スタ……ん?


「お、おい。出撃しているんだぞイヴ?」

「敵機だ。おい敵機だぞっ」


 イヴは動かない。

 VRから現実世界での操作をするために、コントローラー方式を採用してある。

 イヴはコントローラーを握ったまま、微動だにしない。

 もしかして――。


「イヴ……操作方法がわからない?」

「知る訳ないだろう」


 そいう彼女の言葉に、その場の全員がため息を吐く。

 ま、まぁ、教えてないしな。うん、仕方ない仕方ない。


「チュートリアルからやろう。ちょっとコントローラー貸して」


 シートの後ろから身を乗り出し、彼女からコントローラーを受け取る。

 既に画面では敗北の知らせるLOSTが表示されていた。

 ミッションを中止してチュートリアルを……さらり……と、俺の手に何かが触れる。

 触れているのはイヴの髪だ。

 彼女が俺の手元を覗き込んで、それで髪が……ふいにイヴが顔を上げた。ち、近いっ。


「手元が止まっているぞ」

「え、あ、チュ、チュートリアルなら操作方法を教えてくれるから。そ、それで覚えるんだ」

「そうか」


 ミッションをチュートリアルに設定して、コントローラーを返す。

 チュートリアルでは何のボタンを押せば何の動作が出来ると、細かく説明される。それが三十分も続くから、飽きて仕事へ向かう外野もいた。


「やっと通常ステージか」

「さぁ、何ポイント取れる?」

「そりゃ満点だろ」


 ポイントを競う場合、条件を平等にするために同じステージを使う。

 ミッション開始――――そして終了。


 ん……んん?


「ど、どうなってんだ?」

「セルジュより低いじゃねえか!?」

「パイロット連中は、もしかして神経シンクロに慣れ過ぎてこっちは苦手なのか?」


 イヴのポイントは普通だった。たぶんこれ、ランキングにしたら五千から六千位じゃないかな。

 予想外過ぎて、どうコメントしていいやら。


「わかった」


 イヴはそう言うと、再びミッションを開始。

 え……さっきと全く違う。

 さっきは無駄打ちが多すぎて、途中から残弾がゼロになって仕様武器が減っていた。

 敵機からの攻撃もほとんど回避できず、結局途中で撃沈されていたし。

 でも……今度は一発も喰らわず、どんどんステージを進んでいく。


「はぁ~、なるほどね」

「なるほどって、なんですかエレルさん」

「さっきはイヴの反射速度に、ゲームシステムが追い付いていなかったのさ。だからイヴ自身が調整して、タイミングを遅らせた。その結果、ゲームシステム的にジャストなタイミングで射撃、回避が出来るようになった――ってことだろ?」


 エレルさんがイヴを見る。彼女は無言で、視線はゲーム画面に向けたまま頷いた。

 は、早すぎてゲームの方が対応しきれていなかっただって!?

 い、いったいどんだけ早いんだ。


 結果。彼女はステージをクリアし、全敵機を撃沈。敵施設も全て破壊しての完全クリア。

 このステージの事実上の最高得点、100,000点を叩き出した。

 

 完全クリアは不可能って言われていたステージだってのに……たった二回でそれを成し遂げてしまうなんて。とんでもない実力だよ、イヴは。


「は、はっはっは。どうだ見たか。AMAのパイロットの実力を!」

「これは個人の成績であって、パイロット全体とは関係ないと思うが」

「う……さ、さぁ訓練に行くか。はっはっは」


 あ、逃げた。なんかちょっと、カッコ悪い。

 整備クルーが野次を飛ばす中、突然、格納庫内に赤いライトが点滅した。


『全クルーに通達。敵、強襲揚陸艦を確認。全パイロットは直ちに搭乗してください』


 て、敵が来た!?

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