切なさの極致の私小説

尾谷金治

告白した朝のこと。全てが始まった日。

「逃げもしない、これは冗談じゃない。友達が見てるとか関係ない。好きです。良ければこの手を握ってくれませんか。」

そう言って告白。全身全霊で人前で告白した、その勇気と誠意に惹かれ彼女との生活が始まった。


またねのキスと大好きのぎゅーとおやすみの寝落ち通話が日課だった。

彼女はいつも優しくて、暖かかった。

彼女と付き合ってた時の僕は、スーツを着て清潔にして、彼女が苦手なタバコも会う前と会ってる時間は辞め、

彼女の行きたいところへエスコート。レストランの扉は必ず僕が開けて彼女を通し、メニューは一緒に見て、帰ってきて疲れて彼女が寝てしまったらお姫様抱っこでベッドに運んでいた。


当時、彼女と付き合って1ヶ月。僕の友達も集まって夜通し酒盛りして朝になって、気づけば僕以外の全員眠ってた。その時、突然の電話。出てみたら、とある友達の女の子の父親からだった。

「こんな朝にごめんな。外まで出てきてくれるか。」

そう言われたから出たら、その子のお父さんから遺書と花束が渡された。

つまり、その女友達は死んだという報せをしに来た。


女友達とはかれこれ数年の仲で、僕からは恋愛感情は無かった。その子は病気を抱えていて、僕は1度目のお見舞いでその子の好きな薔薇の花束を持っていった。そしたら


「生きてる花は枯れちゃうから造花がいい。」


って言われたから、2度目のお見舞いでは造花の花束を持っていった。その造花の花束を、遺品として受け取ったんだ。


そしてもらった遺書を読むとくだらない内容ばかり続いてるなと思ったら最後の一行に


「本当はだいすきだったよ。来世になったら見つけに来てね。」


僕はその場で膝から崩れ落ちて泣いた。僕のことをほっとけなかった女友達は気力で病気に耐えてただけで、僕が素敵な彼女を作ったと聞いて、気が緩んで病気が進行してこの世から旅立ったんだ。その子からの愛に気づけなかった自分を悔やんだ。


朝の玄関で泣き崩れながら抱えたボロボロになった造花の花束からは、その子が使ってたラベンダーの香水の香りがして、声をあげて泣いた。その声を聞いて起きてきた彼女が僕に言った。


「大丈夫、大丈夫。何があったのかは聞かないけど、すごくつらい事があったんだよね。よしよし。」


そう言って彼女は僕の頭を撫でてくれた。その時、思った。

「ああ、この人こそが"あの子"が信頼した僕の彼女、彼女なんだ。」



そして月日は流れお別れの時が来た。寒い寒い夜。寒いのに、これから起こる出来事を察してしまって、手は震え、汗が止まらなかった。


別れ話の時に、彼女はこう言った。

「恋愛にフるフラれるはないと思ってるの。大人同士ならきちんと話し合って、別れるべきか別れないべきか、お互いで言い方を考えて結論を出すものだと思う。」って。

でも普通に考えて、「別れたい人」と「別れたくない人」の討論。「別れたくない人」が勝つ可能性なんて限りなく0に近い。


その後、僕はこう言った。

「でも僕まだまだやる気あるし、もっともっと君を幸せに出来る男になれるように努力するから。」

そしたら彼女は「ううん、その貴方の努力は他の誰かに注いであげて。その方が、貴方自身が幸せになれるよ。」


もうどうなるかは分かってしまっていた。僕が最後に彼女に出来る優しさはこれしかないと思ってこう言った。


「今まで沢山傷つけてごめん。20ヶ月もこんな僕の彼女で居てくれてありがとう。長い間、お世話になりました。」って頭を下げた。


二人の約束として「バイバイ」って言葉は使わないようにしていた。帰るときも、電話切る時も。「またね」って言うって約束してた。だってバイバイは寂しいから。でも、最後の夜、言ったよ。「バイバイ」って。


僕は別れる1年半前に

「誕生日プレゼントで手作りアルバム作ってるから楽しみにしててね!」

って彼女に言われてたんだ。

でも、その年どころか一年後の誕生日が来ても、アルバムは僕の手には届かず、別れが来た。


その数日後、ある動画が送られてきた。内容は、作りかけのアルバム。

「実は好きじゃなくなってから、もう作る気力がなくなってたの。」

って彼女の声と共に、凝ったアルバムが開かれる。


彼女の得意な水彩画で僕の大好きなキャラクターのイラストが描かれていて、記念日のハートマークは掠れていて、画用紙を切って貼ってハッピーバースデーと書かれたその紙は、劣化してボロボロと落ちていた。後ろにはグシャグシャに丸められた僕と彼女との沢山の思い出のツーショット。そして最後に「いまから捨てるね。ごめんね。」って彼女は言った。

バラバラに砕けて散らばった僕の心の破片を拾い集める間もなく、僕は気を失った。


別れてから1ヶ月後、突然彼女がうちに来た。何かと思ったら、

「今までもらったプレゼントの分のお金を返しに来た。これでずっと欲しがってたギターケース買ってね。」

と、渡される現金。そして

「最近実家に居ないから電話はもうかけてこないでね。大学で知り合った人の家によく泊まってるから。」

と言い残して去っていった。僕が愛情を込めて渡したプレゼントの、清算の為だけに渡された愛の無い現金。まるで僕への興味が無くなった彼女からの、愛が枯れてしまった事実が形になったように感じた。

そのお金で買ったギターケースを背負ってバンドをしている。高級なケースなのに、未だに背負う度に涙が出そうになる。だから、ある意味毎日呪いを背負ってる。


最後に一言。

いつか、誰か、僕なんかよりずっとずっと素敵な人と幸せになりますように。

美しい恋でした。

だいすきだったよ。

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