◆7/切り断つ

 かがりは、長く、深い息を吐き出した。


 リンネと倉橋くらはしが、言葉をなくしている。

「その後の記憶は、定かではありません。気づいた時には病院で寝ていました。精神的ストレスによるパニック状態だったと、あとから聞かされました」

 篝は、虚ろな目で遠くを眺める。

「あのとき、わたしはてっきり、夕霧ゆうぎりが殺されたと思っていました。でも、後の捜査で、ふたつの血痕は、それぞれ夕霧の両親のものと判明しました。……つまり、夕霧が両親を殺して、そして……消えた……」

 篝の眉根が寄り、微かに体が震える。


「篝……」

 リンネは言葉を探している。けれど、その思いは声にならず、もどかしそうに両手の指を絡めては解く。

 場に、沈黙のとばりが降りていた。


 何かを思案していた倉橋が顔を上げる。その面持ちには、憂愁と覚悟が混在していた。

「なるほど。君と夕霧との関係は理解した」

 倉橋は、そこでひとつ、短く息を吐いた。

「その上で、私は君に残酷なことを告げなければならない」

 

 篝の耳に倉橋の言葉は届いたが、それはただ音として鼓膜を揺らしただけだった。

 透明な、厚さのない壁の向こうで倉橋が続ける。

「防疫部機動課、明松毘かがりびかがり。君に斎宮いつきのみや夕霧ゆうぎりの討伐を命じる」

 

 ドクン――と大きく、心臓が跳ねた。

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