第2話 対面

 縁談の話を聞かされた翌日から、私の生活は一変することになった。

 いきなり公爵家の人間がやってきたかと思うと、父が色々な書類にサインをさせられ、気づいたらどこぞの伯爵家の養子になっていた。

 で、そのまま養子になった伯爵家へと拉致されるように連れていかれ、公爵家に嫁ぐための最低限の知識とマナーを叩き込まれることに。


 いや、こちとら国が運営する貴族向けの学園にすら通っていないのですが?

 そんな相手に1ヶ月で諸々の知識やマナーを身につけろというのは無茶すぎるでしょ!?


 内心のそんな抗議の声を態度で示したところで、公爵家から派遣されてきた講師たちが気遣ってくれるわけもなく……。

 むしろ、私のダメダメっぷりに、ただでさえ地獄のような詰め込み教育がさらなる地獄へと変貌することになってしまった。






「ずいぶんと疲れているようだね」


 結婚が目前となったある日、地獄のような日々の合間を縫って結婚相手である新公爵様と昼食を共にすることになった。

 とはいえ、そのためにコンディションを整えるような余裕はないので、疲労感や目の下のクマなどは化粧で無理やりどうにかしている。

 にもかかわらず、顔を合わせた瞬間にそのことを指摘されてしまうとは……。

 私的には完璧な化粧だと思っていたのに、今の私からは隠しきれない疲労感がにじみ出ているらしい。。


「申し訳ありません。

 なにぶん、学園にも通っていない田舎者でして。

 公爵家へと嫁ぐための知識教育やマナー教育でいっぱいいっぱいなのです」


「いや、君が気にする必要はないよ。

 もともと、こちらが無理を言った結果なのだから。

 とはいえ、結婚後は私のパートナーとして社交にも出てもらう必要があるだろうからね。

 そうなると、いろいろと勉強しておいてもらわないと結局は君が困ることになってしまうから、やらなくていいとも言ってあげられないのだけれど」


「……努力します」


 一応、今回の婚姻に関して、あまり社交界に顔を出す必要はないとは聞いている。

 というよりも、むしろ不必要に社交界に出るなと言われている。

 とはいえ、公爵夫人になってしまうと避けられない社交というものもそれなりに存在するもので。

 しかも、そういう場だと必然的に相手も高位の貴族になってしまうので、付け焼刃であっても最低限のマナーは身につけておく必要がある。

 そういったことからも、結婚準備に1ヶ月しか与えてもらえないというのは、どう考えても日程調整をミスっているとしか思えないんだよね。


「まあ、できる限りは僕もフォローするつもりだから、無理のないようにね」


 苦笑と共にそんな言葉をかけられる。

 正直、対面するまではどう思われているのかと不安だったけれど、どうやらこの場での対応を見る限り、そこまで嫌われているということはなさそうだ。

 ただ、最近の教育で高位貴族ほど本心を隠すのが上手いと学んでいるので、演技という可能性も否定できないけど。


 そんなことを思いつつ、その後は昼食を取りながら穏やかに近況報告などをして初めての対面は終了となった。




「どうでしたか? 未来の旦那様は」


 養子となった伯爵家の屋敷へと帰り、私に付けられた侍女であるアリアから尋ねられる。


「うーん、正直、マナーが不安でよく覚えていないのよね。

 とりあえず、カッコいい人だということはわかったけど。

 後はまあ、私を排除しようとするほど嫌われてはいなさそうだと思ったくらい?」


 実際、始めて会った公爵様はカッコよかった。

 銀髪碧眼という外見に、これぞ貴公子という雰囲気をまといつつ穏やかな笑顔を見せてきていたからね。

 たぶん、お嬢様方はいちころだと思う。

 私も極限状態じゃなかったら一発で落ちていたかもしれない。

 というか、あのレベルの相手にときめくことができないくらいの疲労感ってかなりやばいのではないだろうか。


「まあ、公爵様もどちらかというと被害者ですからね。

 同じ被害者であるプリムラ様にも同情的なのではないでしょうか」


「なるほど、あれは同情から来ていたのか」


「そもそも、公爵様は公爵家が持つ子爵位をもらって独立する予定でしたから。

 幼少期に判明した魔力量のせいで、周囲との折り合いも良くないですし、どちらかというとさっさと公爵家から離れたいと思っていると思いますよ」


「……それって、今の公爵様が爵位を継ぐ必要あったの?」


「後妻の娘が前当主の子ではないと判明してしまいましたからね。

 アレがなければ、公爵様が継ぐことなくあの長女が婿を取って終わりだったと思います。

 ですが、前当主様の子ではないと判明してしまいましたから……。

 結果として、公爵家を継げる人間が今の公爵様しかいなくなってしまったのですよ」


「それでも、書類上で一時的に継ぐだけですぐに後継を指定して爵位を譲ることもできたのでは?」


「さすがにそれは無理です。

 いやまあ、制度的にはできなくはないですけれど、それだとさすがに公爵位に対する正当性というものが周囲に認めてもらえないと思います」


「……今やろうとしていることも大して変わらないと思うのだけど?」


「それでも、爵位を奪うように後継を指名させる形と、一度養子を取ってから体裁を整える形では周囲からの印象が違いますから。

 貴族としては体裁を整えるということも大事なのです」


 アリアからそんな話を聞かされ、高位貴族も色々と大変なんだなと他人事のように思った。

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