第4話
……いや。
「や、やっぱり、こんなのおかしいよ!」
私はまた、否定した。
「だ、だって、アリナが魔王を匿ったりするはずないんだから!」
この否定は多分、フィナリーさんじゃなく。
さっき一瞬だけでもアリナのことを疑ってしまった、自分自身の否定だ。
「アリナは絶対に、人を騙すような子じゃないよ! そ、そりゃ、ちょっと自分勝手なところはあるけど……でも、ちゃんと人のことを思いやれる、優しい子なんだよ!」
私は、必死にまくし立てる。
これ以上フィナリーさんに、何も言わせないように。これ以上自分が、余計なことを考えなくていいように。
「そんな彼女が、みんなを欺いたり、魔王を匿ったりするわけないでしょ! だ、だから、」
「ぼたん……」
でも。
考えたくなくても、考えてしまう。押さえつけても、自動的に浮かび上がってくる。前回の召喚のときに、アリナ自身が言った言葉が……。
私は、貴女が思うような人間じゃないの……。
どうしてアリナ、あんな言葉を……。
「ふむ。そうですか」
私の言葉が詰まってしまった、隙をつくように。
「なるほど。アリナさんの人間性を問題にするのであれば、召喚獣のぼたんさんだけの意見で判断するのは危険ですよね? こちらでも証人をよんで、それを補うことにしましょう」
フィナリーさんがそんなことを言って、パチンと指を鳴らす。すると、私たちのいる部屋に一人の女性が入ってきた。
青いショートカットの髪に、キリッと切れ長の瞳。高い鼻。私の世界なら、女子バスケ部でエースとかやってて、ファンの子たちにキャーキャー言われてそうなイケメン女子……。それは、四回目の召喚のときに会って「勇者の剣」を抜くのを手伝った、ジュリエルさんだった。
「……やあ」
彼女は整った顔を少し歪めて、スラッとした高身長を台無しにするように背を丸めて、気まずそうに会釈する。
「二人とも、久しぶりだね。ボクとしては……できればこんな形で再会したくは、なかったんだけどね」
「ええ……」
アリナも、苦笑いの出来損ないのような表情で、それに応えていた。
それからフィナリーさんは、ジュリエルさんに対して質問……いわば、証人尋問のようなものをしようとした……んだけど。
「ジュリエルさん、あなたは……」
「勇者ジュリエル、だよ」
「そうですか。勇者ジュリエルさん、あなたは……」
「いや、ちょっと待ってくれ。もうすっかり仮免も取れてることだし、ここはむしろ、『正真正銘本物で、最強にして最高にカッコいい伝説の勇者ジュリエル』、と呼んでもらおうかな?」
「………………ジュリエルさん、あなたはかつて、アリナさんに会ったことがありますね?」
前に会ったときから相変わらず、こんなときでもウザくてめんどくさいジュリエルさん。でも、そんな彼女にも、フィナリーさんは無表情を崩さない。怒ったり呆れたりすることもなく、自分のペースのままだった。
さすがのジュリエルさんも、そんな彼女にはこれ以上ふざけないほうがいいと思ったのか。変にこだわったりせずに、そこからは真面目に答えることにしたみたいだった。
「あ、ああ、会ったよ」
「そのときのことを話してください」
「ボクがアリナちゃんと最初に会ったのは……多分、三週間前くらいかな? まだ仮免勇者だったボクが、冒険者ギルドの受付で
「え……?」
その言葉を聞いて、思わず声をあげてしまったのは、私だ。だってそれは、私が知っている話とちょっと違っていたから。
私が知っているのは、四回目の召喚のとき――つまり、二週間くらい前。「勇者の剣」があった森の中で会ったときのことだけだ。あのときアリナだって、「ジュリエルさんとは初対面」のような態度をしていた。
それなのに……その一週間前にも、アリナとジュリエルさんは会っていた?
怪訝な顔をしている私に気づいたのか、ジュリエルさんの表情がまた、気まずそうなものになる。それから彼女は、
「すまないね……ここで正直に答えないと、ボクが捕まってしまうんだよ」
とつぶやいてから、その話を続けた。
「あのときボクは、勇者の仮免を卒業するために、勇者らしいことが出来る仕事を探してたんだけど……なかなか、ちょうどいいものがなくってさ。ギルド受付の女の子を口説きながら、そのグチをこぼしてたんだよ。そうしたら、横からアリナちゃんが話しかけてきたんだよね。『勇者の剣が欲しくない?』って。『あなた、お芝居って出来る?』、ってね」
「え? え?」
な、何、それ?
お芝居……って?
「……」
混乱で頭がうまく回らない私を置いて、話は進んでいく。
「その提案を受け入れたボクは、それからアリナちゃんに連れられて『少し変わった形の勇者の剣』がある森に行った。そして、そこで『お芝居』をしたんだ。召喚されてきたぼたんちゃんの前で、その剣が抜けないという、演技をね」
ちょ、ちょっと……? ジュリエルさん……?
この人、前も結構わけわかんないこと言ってて、変な人だって思ってたけど……。今日のは特に、っていうか……。ジョークにしても全然面白くないし、意味分かんな過ぎっていうか……。
「アリナさんが、どうしてあなたにそんなことをさせたのかは分かりますか?」
「いや、それは全然分からないよ。もちろん、ボクだって最初に理由を聞いたんだけどさ。彼女、教えてくれなかったんだ」
「……」
「ありがとうございました」
そう言って、ジュリエルさんを後ろに下げてしまってから、またフィナリーさんはアリナに向き直った。
「つまり。先ほどぼたんさんは、『アリナさんは人を騙すような人間ではない』と言いましたが。実は彼女はすでに、そのぼたんさん自身のことを、『騙していた』わけです。何らかの理由――まあ、おそらくはご自身の利益のために、ぼたんさんに嘘をついていたのです」
「そ、そんな……」
私はショックで、立ち尽くしてしまっていた。
もう、否定の言葉は出てこなかった。
アリナを嘘つきだと証言する、ジュリエルさんのことも。それを疑えなくなっている、自分自身のことも。否定できなくなっていた。
それに、
「……」
やっぱり何も言ってくれない、アリナのことも、もう私は擁護できなくなっていた。
「アリナ……どうして……?」
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