袖の下
陽炎に世界が曖昧に融ける春も獰猛な陽が全てを灼く夏も透って冷やかな風の吹く秋も頑なに長袖を着ているサークルの先輩は、他の連中には冷え性とか日焼けで痛くなるからとかそういう適当な言い訳をしているし、冬になるとコートもマフラーも揃えての完全防備で吹き曝しの喫煙所で紫煙を燻らせているのだけども、いつかの春、追いコンで酔い潰れた先輩を自宅に連れ込んだ夜に宿代がわりに見せてもらった両腕は青黒く滲む痣と薄紅に膿んだ生傷に覆われていたし、「勝手に死んだくせに痕だけはまめにつけるんだよな、あいつ」と吊り上げられて歪んだ薄い唇とその端から覗く八重歯の不穏な白さ、それらすべてを俺は未だ忘れられずにいる。
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