共鳴B〜霊祓い師大道寺林太郎 人材教育課襲来編2〜
大谷智和
1
矢口が自分のデスクに着くと既に部下の榎田が資料の整理を行っていた。時刻は午前9時を回ろうとしている。最近の若者は時給以上の仕事はやりたがらないとよく言われてるが彼の場合はそんなことは無いようだ。
「おはよう榎田、朝から精が出るな」
「あ、矢口課長、おはようございます」
そう返すと榎田はそそくさと自分の仕事に戻った。確かに資料の数は多い。少しも時間を無駄にしたくないという意思の表れなのだろうと矢口は感じた。
「まあ今日中に済ませる必要もないから、できる範囲内で頼むぞ」
「分かりました」
榎田は矢口に目も合わせず作業を続けた。しばらくすると榎田の部下たちが次々と席に着いてくる。その様子を見て一日が始まる実感を矢口は覚えた。
「矢口課長、書庫に行ってますね」
「ああ、わかった。・・・ああでも気をつけろよ、あそこ資料山積みで崩れやすいから」
「あ、わかりました」
そう言って榎田は書庫の方へ歩いて行った。
矢口の言う通り書庫は大量の資料が乱雑に積まれている。下手に動かすと自分が下敷きになりそうだ。
「・・・さてと」
榎田は髪をかき上げる仕草をした・・・が、それと同時に自信が今は短髪の男であることを思い出した。
「ああそうだった。さっきまでうまくやれたのに」
榎田、もとい彼に化けた中島はそのまま南沢の父親が関わった事件の資料を探し始めた。
「・・・早いとこデジタルにすればいいのに・・・本当年寄りって紙が大好きね」
そう愚痴をこぼしながら彼女は資料を探した。しかしある程度予想していたとはいえ数が多すぎる。そうやすやすと見つけ出せるようなものではなさそうだ。そのことを察した中島はため息をついた。
「戻ったら沢田さんにご飯代請求してもらうかな」
本物の榎田は丁度その時間帯に目覚めた。彼の目の前には姿を変化させた南沢が佇んでいた。榎田自身このような見た目の連中には何度も遭遇しているのでそこまで驚きは無かった。むしろ自身が怪異的なものにしてやられたことにいら立ちを覚えていた。
「俺を捕まえて何がしたいんだ。少なくとも俺が出社しないと俺の上司が異変に気付くはずだ」
「残念だがあんたは今出社していることになっている。俺たちの戦力を甘く見るなよ」
「出社?」
その言葉で榎田は大体のことを察した。彼自身見た目を自分そっくりに変化できる呪物を見たことがあるのでその類であろうと考えた。だがそれなら持続時間はそこまで長くない。そうなると誰かが自分に化けて出社しているということになる。
「・・・変装の達人がいるらしいな。一体何が目的なんだ」
「話が早くて助かる。俺が欲しいのは記録だ。それさえ見つけ出せればあんたは用済みだ」
「情報漏洩か・・・そうなれば責任が全部俺に降りかかる。悪いが停めさせてもらうぞ!」
そう啖呵を切って榎田は立ち上がろうとした。だが足首を縛られていてうまく立ち上がることが出来ない。
「無理すんな。それよりあんた、南沢昭夫っていう男を知っているか?」
「・・・南沢、それは実験台になった人間か?それとも何かの事件の被害者か?」
「実験台?」
榎田の口から思いもよらぬ言葉が飛び出てきた。
「俺もここに入ってまだ3年くらいだ。それ以前のことで知っているのは大道寺っていう裏切者が研究所を滅茶苦茶にして脱走したってことくらいだ」
「なら南沢って苗字はどこから出てきた?」
「エンジェル計画だ」
「なんだそれは」
「俺も詳しいことはそこまで知らない。むしろ日霊連はそのことを黒歴史にしたがってる。第三実働課にもろくに資料が残っていないんだ・・・でも、被験者のリストをたまたま見た時、確かそんな苗字があった」
南沢は何も言い返せなかった。すると彼のスマホに着信が入り、南沢は我に返った。電話の主は中島だった。
「もしもし」
「思ったより早く見つかったよ。今写真撮ってそっちに送るね」
「・・・ああ、ありがとう」
電話を切ると南沢は榎田に詰め寄った。
「悪いけど、今日一日眠っててもらう」
そう言って彼は榎田の首元に薬を打ち込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます