第22話 時々ミニスカくらいがちょうどいいと思いませんか?

 結希に同行して学校に足を運んだ和樹。


 結局、結希が武内先生から転入における説明を受ける場に同席することになり、その後必要な教材と制服を受け取った。


 これは、帰宅してから少ししてのこと――――


「和樹くん、見てくださいっ!」

「ん~?」


 リビングソファーに深く腰掛けてくつろいでいると、一度自室に戻っていた結希がいつもより半音高い声色で駆け寄ってきた。


「制服着てみたんですけど……ど、どうですか?」


 白いブラウス。

 灰色のブレザー。

 青色のリボン。

 そして、手の加えられていない膝下まで長さのあるチェック柄のプリーツスカート。


 初めて見る結希の制服姿に、和樹は「おぉ」と感嘆するように声を漏らしてから、アルカイックスマイルを浮かべて語った。


「美少女とは、着飾りお洒落することで成り得るものにあらず。何を着ても似合い可愛いくあるからこそ、美少女であるのだ……とはいえ……」


 即興で謎名言チックな台詞を言ってみせはしたものの、やはり視線をやや下げてスカートを確認してから曖昧に笑った。


「スカート丈は直した方が良さそうだな」


 もちろん、長いスカートもそれはそれで正統派な気品を感じさせる魅力があるのだが、それがこの秀誠学園高校の制服のデザインの良さを最大限引き出すものとは限らない。


 校則である程度長さの制限は設けられているものの、私立であることに加えて比較的生活態度に理解ある生徒が多いということもあってか、女子生徒は各々自分好みの長さに手を加えている。


 結希もそのつもりだったのか、気恥ずかしそうに笑う。


「えへへ、ですよね」

「ちなみに、生活力皆無の結希さん」

「か、皆無というほどではありませんが……何でしょう?」


 和樹は念のために聞いておくことにした。

 ちなみに、薄々答えはわかっている。


「お裁縫の方は……?」

「ふふっ、和樹くん。流石にですよ」

「お、おぉ……!」

「流石に出来ませんよ」

「おぉう……何が流石なのかはわからんが、だろうと思った……」


 何を当たり前のことを、とでも言わんばかりの表情をするので一瞬期待してしまったが、やはり結希に裁縫は難しいようだった。


 案の定だ。


「仕方ない。今回は俺がやるけど、やり方覚えて自分でも出来るようにしような? 教えるから」


 呆れ半分で笑い掛けると、結希は嬉しそうにはにかんだ。


「はいっ、お願いします」

「よし。んじゃ、何にせよまずは丈をどうするかだなぁ」


 和樹はソファーに座ったまま少し腰をずらして結希の方に身体を向ける。


「どれくらいにする?」

「えぇっと……」


 結希は自分の姿を見下ろして、和樹を見る。

 再び見下ろして、和樹をチラリ。

 三度スカートを見てから、和樹に視線を向け…………


「か、和樹くんのお任せで」

「……おい。俺が超絶ミニスカ至上主義の変態だったらどうするんだよ」


 和樹が半目を向けると、結希が「え~」と冗談半分に受け止めて首を傾げた。


「和樹くんは、私にミニスカを履かせたいんですか?」

「履かせたいか履かせたくないかで言えば」

「言えば?」

「もちろん、履かせたい」

「変態さんでした……!」


 それはそうだろう。


 美少女のミニスカ――常に履いていて欲しいワケではないが、惜しげもなく晒し出される美脚と、ギリギリを攻めたスカートの裾から秘匿されるべき布地が見えるか見えないかのドキドキ感の両方を楽しめるのだ。


 健全で真っ当な思春期男子なら、誰もが見てみたいと思うはずだ。


「まぁ、冗談はさておき」

「はてさて、本当に冗談だったのでしょうか……」

「ひとまずスカート折っていってみてくれ。良い感じのところでストップって言うわ」


 和樹がそう指示すると、結希は「わかりました」と答えて、早速スカートを一回、二回……と折り込んでいく。


 その度に、スカートの裾がスッ、スッ……と持ち上がっていき、膝頭が顔を覗かせ、すぐに膝が丸々晒され、徐々に膝上に裾が揺れていく。


 この様子を見ながら、和樹はふと冷静に思ってしまった。


(あれ……? コレ、俺がストップって言わなかったら、コイツどこまで折るつもりなんだ……?)


 いつの間にか、和樹は右手を口許に当てて、やや前のめりになって観察していた。


「まだですか?」

「……あぁ、もうちょいだな」


 一応の確認を挟んできた結希。

 和樹は微かな申し訳なさを抱きつつも、好奇心を優先して返答する。


 スカートの裾が更に持ち上がっていく。

 膝上三センチ、五センチ、十センチ、十五センチ……それはもう充分太腿と定義される部位まで、白くて細くしなやかなおみ足が惜しげもなく晒されていく。


「か、和樹くん?」

「……うぅん」

「ま、まだですか……?」

「…………」

「うぅ……か、和樹くん……!」


 羞恥に震えた結希の声に、集中していた和樹はハッと我に返る。


 気付けばスカートの裾は、上に羽織られたブレザーの裾からちょっと顔を覗かせる程度にまで上がっており、結希の上太腿まで露出していた。


 流石に恥ずかしいのか、若干内股気味に立っている。


「や、やっぱりミニスカ大好きの変態さんじゃないですかっ……!」


 赤くした頬を不満げにぷくぅ、と膨らませた結希が睨んでくるので、和樹は慌てて弁明した。


「あっ、いやこれはつい出来心で……」

「変態さんは口を揃えてそう言うんです!」

「す、すみません……」

「もぉう……!」


 ふいっ、と結希がそっぽを向く。


「で、でもこれは、魔法少女のチラリ防止のマジカルな加護を信用してのことでさ……」


 そう。

 それは結希と出逢った初日に言われたことだ。


 実際にパーカーだけを着ているときにクルリと一回転して実証してもらったが、裾が翻りそうになっても、その下が覗くことはなかった。


 何か不可視の外力が加わったように、物理現象にしては不自然な挙動で裾が押さえられているように見えた。


「大丈夫! 全年齢!」

「それは和樹くんが決めることじゃないんです」


 まったく、と結希が呆れたようにため息を吐く。


 そして、チラリと和樹を見てから、少し恥ずかしそうにしながらも、サッと腰を振ってみせた。


「ちょっ……!?」


 反射的に驚いてしまった和樹。


 しかし、やはりマジカルな加護は作用しているようで、振った腰の動きに呼応して動きそうになっていた短いスカートの裾は、一定以上の翻り方はせず、その下に秘匿されるべきものを守り抜いていた。


「ふふっ、残念。加護は健在です」

「いや、見えるか見えないかが一番グッとくるから何も残念じゃない――って、コレ前にも言ったよな?」


 デジャブを覚えて、小さく笑う和樹。

 結希も心当たりを覚えて、クスクスと笑う。


「ふぅ……じゃ、真面目に丈合わせるか」

「手数料は今のサービスで払ったということで、お願いします」


 へいへい、と和樹は苦笑いしてから、作業に取り掛かった――――

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