祓い屋の腕(かいな)

あるぎにん

序章

第1話 Arms

「修羅クラスの中型怪異を発見、これから修祓しゅうばつを開始します」


 ツタが生い茂り荒廃した真夜中の街外れ。

 歩道橋の上で彼女が目元に垂れかかった長い髪を掻き上げてトランシーバーの通信を切った。


「予め社長とリョウジに応援要請しておいたからまだ手を出さないでね、アレン...アレン!?アレン!」

 

 トランシーバーで仲間とコンタクトを取っていた長髪の女性、木登きどサナエが危機感の籠った声で任務に同行している少年、夜獲やとりアレンに呼びかけた。


 が、アレンは既に隣から姿を消しており、街中の道路をのたうち回りながら駆け回る四足歩行の化け物を人間とは思えないスピードで追いかけていた。


「アレン!?その怪異は修羅クラスよ!戻りなさい!」


 やっとのことでアレンの姿を捉えたサナエが大声で叫ぶも彼は聞く耳を持たず、ついに化け物の目の前を追い抜いた。

「大丈夫っすよ姐さん、もう”夜”なんで」

 琥珀色だった瞳があかくなっていく。


 ”お前の命を刈り取る”と言わんばかりの緋色ひいろの眼光が異形の化け物を睨みつけた。

 二階建てアパート程の巨体を誇る化け物が160cm後半程度しかない小柄な少年に恐れ慄いた面構えで精一杯奇声を上げた。


「ギミャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「うるせぇよ、近所迷惑だろ」


 アレンは呆れつつ余裕のある表情で背丈に合わないダボダボなジップパーカーの右袖を捲り上げた。袖から見えたのは、前腕部に陰陽勾玉巴いんようまがたまともえの刻印が刻まれた禍々しい黒義手であった。


 アレンが黒義手で”かかって来いよ”と合図をしたのと同時にさっきまで脱力感のあった表情がこの世のものとは思えない狂気の笑みに変貌した。


 その表情を目に焼き付けた化け物がおどろおどろしい奇声を上げながら猛スピードで少年に襲い掛かる。


 化け物が前足で踏みつけた場所に少年の姿はなく、既にその巨体の懐に入り込んでいた。

「...のろっ」


 黒義手の指先が化け物の腹部に密着した、次の瞬間。

 消えた?

 いや、違う。

 破砕だ。

 破砕したのだ。

 一瞬にして肉体が内側から粉砕され、瞬く間もなく消失したのだ。


 さっきまで奇声を上げて暴れていた化け物の飛散した肉片が地面に落ちてきた。

 そしてその化け物を穿ち抜いた少年の元にその化け物の血液であろう赤い液体が雨のように降り注いだ。


「あの子...本当に何なの...?」

 やっとのことでアレンに追いついたサナエが戦慄し呟いた。


 サナエの背後から深紅の大太刀を杖代わりに突き立ててもたれかかっているマンバンヘアの大男が

「アイツはちょっと色々特殊な子でねぇ、性能テストってとこだったんだけど...これはちとやり過ぎじゃないかね」

 と苦笑い。


「社長!でも、あの子祓い屋始めてまだ2日目ですよ...しかもアルバイトなんですよ!?」

 ”社長”と呼ばれる大男にサナエが母親のような心配の表情を浮かべて訴えかけた。


 そのまた後ろから両腕にごついガントレットを着けた社長より大きな大男が優しく微笑みながら

「まぁ色々血の気が多いガキンチョだから許してやってくれ」

 と説得した。


「リョウジ!全くもう二人とも遅いんだから...」

「悪い悪い、ガントレットの調整で手こずっちゃってよ」


 頬を赤らめながらぷんすかとむくれるサナエを宥めるように頭を撫でるリョウジ。


 化け物の血の雨を浴びた緋色の目の少年がこちらに振り向いて聞いた。

「終わったっすけど、この死骸どうするんすか?」


 大太刀を持った大男がニタリとほくそ笑みながら

「ハハッ、アイツは”化ける”ぞ」

 そう呟いて血塗れになった緋眼の少年を見つめていた。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る