第26話 学生探索者、ステータスとトレインルームと身体の異変


 「さっきはありがとうね、兵馬くん。

 後でお礼するね。」


 笑顔の眩しい神崎さんの感謝の言葉に、俺の頬も緩みっぱなしだ。

 しかし、お礼か。



 ⋯⋯⋯はっ!?



 一瞬エロいことを想像したがすぐに脳内から消去する。

 ヤメロ!消せ!想像するな!

 眺めるだけ、眺めるだけ。



「別にいいよ、偶然見かけただけだから。」


 「うーん、でもなぁ⋯。」



 神崎さんが少し悩んでいる。可愛い。

 すると横から美琴さんが出てきて、きししと笑いながらからかってくる。



「あれー?

 もしかして、エッチなこととか想像した〜?」


「してない!してない!本当にしてない!」



 美琴さんの言葉に全力で否定する。


 ⋯⋯すみません、想像してました。



「まぁ、うふふ。」


「男の子はみんなエッチだね〜。

 な〜、紗夜?」


「ふふふっ、そうね。」



 くっ、完全に弄ばれている!

 落ち着け。

 取り乱したら彼女たちの思う壺だ。

 さっきからずっと笑ってる。



「今度お礼するね。

 もちろん、エッチなこととかはだめだけど♪」


「わ、わかってるよ。ありがとう。」



 あまり断りすぎるのも悪いので、期待して待つことにする。

 しかし、エッチなことはなしか。


 ⋯⋯ちょっと期待してました。トホホ。



「でもさっきの人たち、赤い牙?っておっしゃっておりましたが、不良なのでしょうか?」



 優恵さんがおっとりと話してるのを聞いていると、美琴さんが解説してくれた。



「確か、新宿の悪い人たちの吐き溜まりみたいな組織だってネットで見たことがあるよ。

 新宿には悪い組織がいくつかあって、赤い牙はその中でも武闘派って人たちらしい。

 色々黒い噂の絶えないところみたいよ。

 中には探索者崩れの人もいるって書いてあった。」


「もったいないな、探索者続けていればいいのに。」



 千春さんの言葉にみんなが頷いた。


 全く同感だ。

 探索者やってる方が強くなれるし、儲けられるのに、そんな組織に入って可哀想に。

 そんな風に神崎さんたちとまったり話してると、どうやら彼女たちの順番が来たようだった。



「じゃあね、兵馬くん。また学園でね!」


「そんじゃねー。」


「それでは、また学園でお会いしましょう。」


「今日はありがとうな、また学園でな〜。」


「うん、じゃあねみんな。また学園で。」



 そう言って扉に消えていった神崎さんたちと別れた俺は少し寂しい気分になりながら自分の順番が来るのを待っていたが、まだこないようだし、何より暇なので現在のステータスを確認することにした。







 ――――――――――――――――


【名前】戦刃兵馬(16)


【レベル】13


《生命力》139/139(+34)


《魔力》84/89(+34)


《筋力》111(+32)


《耐久》91(+26)


《知力》81(+26)


《精神》87(+26)


《敏捷》104(+32)


《器用》85(+28)



【スキル】


 〇パッシブスキル

〈成長加速〉Lv.2、〈孤軍奮闘〉Lv.2

〈自己再生〉Lv.1、〈身体強化〉Lv.1

〈危険察知〉Lv.1、〈毒耐性〉Lv.1


 〇アクティブスキル

〈魔力探知〉Lv.1


【称号】戦人、ゴブリンスレイヤー


 ――――――――――――――――






 ふっ、ふふ、ふふふっ、ふふっふふっふふふ!!!


 ステータスの爆上がり。


 自分が強くなってるって実感できるのはいいね!


 前回よりも格段に成長できて喜んだ俺だが、なにより一番嬉しかったのは成長加速先生のスキルレベルが上がったことである!


 これでステータスの各項目に振り分けられる1〜3の値が2倍になり、それとは別にレベルアップにおけるスキル単体の上昇固定値が6から12になった。


 他の探索者はレベルが上がっても《生命力》、《魔力》を除く各項目に振り分けられる値は最大でも3であるにも関わらず、俺はレベルが一つ上がるたびに、適時振り分けられる数値が倍になり、加えて各項目値にそれぞれ12の固定値がつく。


 やったね!


 先生!

 これからもよろしくお願いします!!


 そして皆さんお待ちかねの新スキルのお披露目です!



〈魔力探知〉

 ●魔力を探知できるスキル。

 精度、探知範囲、魔力消費量は

 スキルレベルに依存する。



 はい、そうです!

 初の魔力関連のスキル、手に入れました!!


 このスキルはアクティブスキルなので自動的ではなく、能動的に発動させなければならない。

 つまりは自分の意志によるスキルの発動だ。

 この魔力を探知できるっていう能力、最初はそんなん何に使うのって感じだったが、よく考えてみたらこの世界の全ての生き物に大なり小なり魔力が宿ってるので、モンスターや人の探知に使えるのだ。


 実はさっきのスキンヘッドどもにも使ってたぞ。

 しかし、このスキルは非常に有用だが、使用すると魔力が減るので考えて使わないといけない。

 ステータスの魔力の欄を見ると、


〈魔力〉84/89


 となっているので、1回の使用で5減ることがわかる。

 今の俺の魔力値が89なので、連続だと最高17回の使用が可能ということだ。


 でもまあ、こんなに早く魔力関連のスキルを手にするとは思わなかった。

 ネットを見ても魔力探知ってスキルはないし、

 世界探索者協会でもそんな報告はあげられていない。

 それを考えると、このスキルは世界初の魔力関連のスキルってことになるんだろうし、喜んでいいんだろうけど⋯⋯うーん、他にもいそうなんだよな、持ってるやつ。


 だって今の俺のレベルって13だよ?

 成長加速先生のお力がいかに偉大でも、仮にもダンジョン最前線の探索者様のレベルってこれよりずっと上の筈だろう。

 となると、俺よりスキル獲得してるはずなのに魔力関連のスキルが世界規模で一つも見つかってないってのはちょっと引っかかるんだよな。

 誰かが意図的に隠してそうって思ってしまう。

 まぁ、自分のスキルが他所に伝わって嬉しい人はいないだろうけどさ。


 まあ、なんでもいいか。


 余計なことをごちゃごちゃ考えるのはよくない。

 そんなごちゃごちゃした気持ちでダンジョンにもぐるのはダンジョンに失礼だ。

 今はダンジョンのことだけ考えればいい。


 ふふふっ、早く試したいな、この力。


 そんな俺の思いが通じたのか、そこから10分ほどで俺の番となった。



「よし、行くか。」



 足取りも軽く、俺は早速ゲートをくぐり、現れたホブゴブリンとゴブリン5体を見て、喜び勇んで飛び込んでいく



「ヒャッハーーーーーーーー!」



 一瞬で先頭のゴブリンに詰めた俺は金棒あいぼうを握る力を目一杯強くし、先頭の5体全てを巻き込むように横に振り抜いた。



「オゥラァァァァァッ!!」



 振り抜いた金棒は何の抵抗も残さず、ゴブリンたちの胴体を容易く別れさせる。



「ギッ!?」

「うぇーい!!ヒャッハーーーーー!」



 先頭がガラ空きになったことに気づき、一瞬固まったホブゴブリン目掛けて頭から一撃!



「フンッ!」


「ッ!?」



 その一撃は、頭部を完全に叩き潰すだけに飽き足らず、振り下ろされた勢いのまま身体全体が地面に叩き潰され、その場一面に盛大な真っ赤な染みを形成するに至る。



 ________戦闘所要時間3秒。



 うん、いいねいいね!

 今日も絶好調!!



 強くなったステータスの調子を確かめた俺は、落としてくれたアイテムドロップを拾ってゲートをくぐった。




 目標の一つである階層更新を果たした俺は、早速本日の目的の場所を探した。



「おっ、あった、あった。」



 トレインルームの前に立った俺は武器の最後の点検を行い、問題なしと判断し勇んで中に入る。



「4階層のトレインルームはコブリン20体とホブゴブリン2体。

 成長加速先生のお力が加われば倍になる。」



 さあ、どっちだ?


 解答を待つ俺に応えるように後方の入り口が閉じられ、前方の広間の中央からが出てくる。



「ひゃっほーい!!」



 よっしゃー!!



「やるぞ、オラァァァ!!!」


「「「「「「「「「「「「「「「「キギャー!」」」」」」」」」」」」」」」」



 踏みしめた力で地面を砕きながら前方の敵に加速していった俺は相棒をゴブリンの胴体に叩き込み、近くにいた4、5体のゴブリンを瞬く間に討伐する。

 爽快感あふれる一撃を見舞えたことに感動していたが、敵はまだまだたくさんいる。止まっていられない。


 危険察知に反応があった方からの攻撃を避け、一撃。魔力探知で場所を探りながら、近くにいる無防備な個体を一撃。また、危険察知に反応があった方からの攻撃を避けて一撃。

 これを繰り返した。


 そうやって絶え間なく動きながら、しかし生命力の高さ故かまだまだ疲れの感じさせない身体を目一杯動かして、俺はゴブリン40体を屠る。



「おーい、とっとと出てこーい!」



 俺の挑発に応えるようなタイミングで魔法陣が4つ出現し、4体のホブゴブリンが追加された。



「ほう!盾持ちと⋯⋯まさか魔法系か!?」



 3階層にいた、剣持と無手のホブゴブリンと盾持ち、ローブを纏った杖持ちの4体だ。


 おいおい、まさか魔法使ってくるのか?

 全くヤバいな♪


 全くヤバさを感じないほど楽しげに突入していく俺は最初の一振りを、盾持ちに決めた。


 振り下ろした金棒が鋼鉄の盾にぶつかる。



 ________っ!ほっほぉーー!



 固いなぁ、固い。

 鋼鉄の盾でガードされて弾かれることはないにしろ潰せなかった。


(しかし⋯)


 その一撃の衝撃で持ち手に相当なダメージが入ったのだろう。盾持ちは盾をカタカタと震わせていた。


 次は潰せると俺がそう確信してる間に真横から斬撃が振り下ろされる。


「おっと。」


 事前に危険察知が教えてくれるので俺に死角はない。スゲェな。集団戦にめっぽう強いぞ、このスキル。

 ふふふ、ありがたい。

 まだまだ楽しめる。


 そうこうしてると、杖持ちの準備が整ったのか俺に火の玉を飛ばしてきた。

 大きさは2tトラックくらいかな。

 そこそこだな、悪くない。


 しかし、そのために時間を使いすぎだ。



「きひっ!」



 魔力探知で位置がバレバレの火の玉を避けながら、変な笑いが出た俺は剣持のホブゴブリンに一撃を入れる。



「さぁーーーっ!!」


「ギッ!?」



 振り下ろされた金棒に耐えきれず、剣が折れ、頭蓋が陥没した剣持は腕をだらんと下げて、力なく倒れた。



「次イイイ!」


「ブッ!?」



 側にいた無手のホブゴブリンの胴体に1回転した一撃を横に入れてぶっ飛ばす。


 吹き飛んでいった無手を尻目に、ろくに盾すら持てなくなっていた盾持ちの頭上から最後のトドメをさし、杖持ちを見る。



「最後になんか見せてくれたりするのか?」


 何かあるんなら見てみたいなと思い、俺は少し待った。


 すると、呪文のようなものを唱え出した杖持ちが魔法陣からさっきの2倍くらいの大火球を出す。



「!いいね!来いよ!!」



「ギギャーーーーー!!」



 放たれた大火球はゴウゴウと盛大に音を立てながら、こちらに迫ってくる。

 初めて見る迫力満点の大火球が迫り、そこから放射される熱が俺を焦がそうとする。


 おお、すごいと感動して魅入っていたが、このままだとやられてしまうのでさっさと避けよう。


 そう思って動こうとすると奇妙なことが起こった。 

 なぜか身体が逃げようとはしなかったのだ。

 普通は避けるのが正解なのに、なぜかこの時の俺は無意識に叩き潰せると訴えていた。



 (はあ?いやいや、できんの?これ。)


 「________ハハハハハハハハハッ!」


 

 そう思いつつも、なぜか高揚する気分に充てられて声が出た。なぜだろう、なぜかできると強く感じる。

 俺は左足を前へ、右足を後ろに回し、歩幅を大きく取ると、金棒を後ろに構え、手に力を込める。



(な、なんだ、どうしたんだ!?)



 兵馬の心臓の付近でチリチリとした感覚が強くなったかと思えば、そこから魔力の管が伸びてきてまるで血管のように全身に広がっていく。

 それらが全身に張り巡らされ馴染んだ後、使用者の身体をさらに強化せんと、今まで動く気配すらなかった魔力が流れ始めた。

 そして、全身を激しく巡る魔力が身体を伝って手に持つ金棒の一撃を更に上げんと纏い始める。


 そして一つの結果を兵馬に与えた。



「があああああアアアアアアーーーー!!!」



 彼の身体は自動的に眼前に迫った大火球へ目掛けて裂帛の気合とともに金棒を振り下ろした。


 それらがぶつかった瞬間、大火球から一瞬小さな抵抗を感じたが、それは瞬く間に押し潰された。



 (何だ?俺は何をした?)

 


 自分がやったことに頭が戸惑うも、身体はすでに動いていた。

 金棒よりは薄く、されど力強く煌煌と燃ゆる紅い炎が全身を覆い、一瞬で杖持ちの前に運んだかと思えば未だ輝きを失わない金棒をその頭蓋に叩き込む。



「________フンッ!!!!」


 ________ッ!!!!



 一瞬聞いたこともないほどの凄まじく大きな衝撃音が巨大な波となって周囲に激しく広がっていく。

 広間は物理的にビリビリと震え、近くで悶えていたはずの無手のホブゴブリンを衝撃波だけで消し飛ばしていた。


 もくもくと立ち上っていた煙が落ち着くと眼前の光景がはっきりと見えてくる。

 杖持ちの立っていたところには広間全体に広がるほどの巨大なクレーターができており、その中心には赤く輝く魔石と杖と思われるドロップ武器が一つ。



 (んえええエエェェーーー!?)



 自分が何をしたのかよくわからない。なんかできるな、潰せるなぁと金棒に力を入れたらああなった。


 マジで何なんだ?



 自分がやったよくわからない現象に戸惑いつつも周囲に落ちてるアイテムドロップを拾った俺は自分と金棒を纏っていた紅い炎がいつの間にか消えていることに気づいた。

 そのことを不思議に思いつつも、俺はトレインルームをあとにした。









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