第10話 学生探索者、2階層を知る



1階層のボス戦を突破した俺は、そのまま次の階層に行くため、ゲートをくぐった。



「クフフ、ようやく2階層だ。」



新しい階層は一面岩肌だらけの1階層と全く変わりがない階層である。

では、何故俺は喜んでいるのかというと



「ここからはアイテムドロップが出るからな。

一つ残らず回収しないと!」



そう、ここから先は全階層でモンスター討伐後のアイテムドロップが期待できるのだ。




実はボス戦で倒したホブゴブリンの魔石と武器ドロップの合計金額は5万3千円と、中々な金額になった。



内訳は、魔石一つで3000円、武器ドロップ品は5万円というなんとも嬉しい結果だ。



なるほど、世界中の探索者数が年々うなぎ上りなのも頷ける話だ。



1階層のボスから出た魔石でこの金額。



現時点での最高到達階層のボスドロップの価値がどれほどなのかは想像に難くない。



ただの一般人ですら、アイテムの価値によってはマネードリームを現実にできる力がダンジョンにある以上、世界は目の色を変えるだろう。


みんな死に物狂いでドロップ品を探し回るんだろうな。



(まぁ、だからこそこんな状態なのかな)



俺は目の前の光景を見て、先ほどまでのワクワクと喜びが煙のように消えたのを自覚した。



人。


人。


人。


人。


人。


人。


人。


人。



ただひたすらに人の波がそこにあった。


モンスターなんかこれっぽっちも見えない。


現れたら現れたで、周囲の探索者が死肉を貪るハゲタカのごとく勢いで狩り尽くしてしまう。



(はぁ〜、ここでの探索は無理だな⋯)



探索者ネットワークで、低階層での狩りは運ゲーであり、ここに居るくらいならもっと上を目指すべきと書かれているのを多く見た。

それもそうだろ、これだけ人がいれば然もあらんといった感じだな。

こんなところでモンスター討伐なんて現実的じゃない。



しかし、この階層を含めた低階層が探索者たちに避けられているのはそれだけではない。


ここにいる人の目を見ればわかるが、若く綺麗な女の子からひ弱そうなお年寄りに至るまで、皆の目がギラギラしていた。


その目には欲望という2文字がしっかりと刻まれているようであった。


(低階層ではボス戦でしか経験を積めないと言われていることは知ってたけど、これほどとはね⋯)


ただひたすらに上を目指そうとする探索者は、基本一つどころにとどまった探索はしない。


レベルを上げ、上昇したステータスを引っさげて上の階層に行くほど、より高位の探索者たちとの競争の世界に入ることになる。その競争に勝ち上がっていくことで本当のマネードリームを手にできるそうだ。




しかし、ここにいる人はそうではない。


別に上の階層になんか行かなくてもいい。

むしろ望んでない。


だって怖いし。


怪我をするかもしれない。


最悪死ぬかもしれない。


何より、武器を取って戦うなんて野蛮だし、暴力的だ。


でもここならば人がいっぱいいるし、安心できる。1体のモンスターが出てきても、袋叩きにすれば怖くない。もしかしたら魔石とか拾えるかもしれないし、運が良ければアイテムドロップもあるかもしれない。


一人で戦うのは怖い。


パーティーって言っても数人程度じゃ安心できない。でもここならば大丈夫。


労せず楽して稼げる。





そんな連中を多くの探索者たちが、落伍者、敗北者、と様々な名で呼んでいるが最も一般的なものは、







________バルチャー。





英語でハゲタカを意味する言葉である。

死肉に群がる様と弱いものを食い物にするところから名付けられた。

大体の人は簡略化してバルとよんでいる。


その様は、まさに死肉に群がるハゲタカ、或いは人の成果を簒奪していく泥棒。

どちらにしてもロクなものではない。

低階層にとどまるすべての探索者に付けられた蔑称である。


怖い?

なら何でダンジョンにいるんだ?


楽して稼ぎたい?

おい、舐めてんのか?


運良くアイテムを拾う?

つまり他のやつの成果を奪うってことだろ?


野蛮で暴力的?

お前の手にあるのはなんなんだ?



ネットで知ったときは驚いたし、呆れたよ。

どいつもこいつもよくもまぁそんなに言い訳ばかり思いつくなと感心してしまったよ。

そのくせここに居る連中は1体のゴブリンに集団でたかるくせに人のことを、野蛮だの暴力的だの強欲だのという始末だ。



探索を目的とする多くの探索者たちにとってこの低階層の連中は唾棄すべき存在である。


人の獲物にすり寄ってきて、奪っていく姿を見て微笑ましく思うアホが何処に居る。




そして、同時にこの低階層から抜けられるかどうかが探索者たちにとっての最初の関門となる。


低階層とされているのは2階層〜4階層。

つまり、5階層へのゲートを抜けたところから本当の探索の始まりらしい。


ここすら超えられない奴はここの連中と同様に寄生探索者となるしか無く、一緒にいるうちに上の階層に望む意思すらなくなっていくそうだ。



あぁっ、恐ろしい!






俺はここからさっさと抜けるため目的の場所を探す。


うん?何を探してるかって?


ま、情報は大切ということだな。



さて、この低階層でステータスを上げる方法は実は

ボス戦に挑むだけではない。


もちろんそれでもいいのだが、レベルはある程度上がったら急激に上がりにくくなるらしいので、同じモンスターを狩り続けても低階層を抜けるには何年もかかってしまう。


低階層を抜ける推奨レベルはパーティーなら8、ソロなら10だそうだ。


俺はソロなので、まずはレベル10を目指さなければならないのだが、ネット情報だとレベル5からは経験値が上がりにくいと予想されている。


ガチで自分の取得経験値を見てみたい。

しかし、できないことを考えても仕方ないので、本題に入ることにする。



ステータスを上げる方法は2つ。

1つ目はボス戦突破、そして2つ目は、





「ここか」





俺はある部屋の前に立っていた。

入り口には扉も門もなく、人ひとり入れるくらいの大きさだった。

外から覗いてみると、中には広間と似たような円形の空間があった。


そして、いつの間にか周囲にはだれもいない。

人々の喧騒は遠い場所で聞こえてくるが、ここに近づく者はいなかった。


それはそうだ。

ここにあるのは本来は避けるべき罠なのだから。

しかし、取れる選択肢での最速ステータスアップを目指すのなら、低階層においてここ以外にはない。









________トレインルーム。









中に入ると、大量のモンスターが現れ、四方八方から攻撃を仕掛けてくる。そして一度入ると、中にいるすべてのモンスターを討伐しなくては出口が現れない。

俗に言うモンスター部屋だ


「ふぅー、⋯」


情報によると、目の前のトレインルームでは全部で10体の魔物が同時に現れ、それを倒すと最後にホブゴブリンが1体出てくるそうだ。


中のモンスターの強さは通常ダンジョン内のモンスターよりも体感1.5倍の強さだそうだ。



「くふふふっ!!」



あまりの緊張で思わず笑いが出てきてしまった。


いや、もしくは楽しみなのかな。



「さて、行くか」



俺は覚悟を決めて死地に入っていった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る