第5話 新人探索者、ステータスを知る
探索者としての初戦闘。
戦闘の勝利で浮ついた心を、ここはダンジョン内なんだと自分に言い聞かせて宥めていく。
少しずつ喜びも落ち着きかけたと思ったが、先ほどの魔物との戦いが鮮烈すぎたのか、次第に感情が高まってきてしまった。
我慢できず、次に向かおうとした俺だったが、
「あっ!忘れてた!」
マニュアルに書いてあった説明を思い出して、周囲に他の魔物がいないか確認の後、やるべきことをやった。
「ステータス!」
――――――――――――――――
【名前】戦刃兵馬(16)
【レベル】1
《生命力》20/22
《魔力》19/19
《筋力》15
《耐久》12
《知力》15
《精神》10
《敏捷》13
《器用》11
【スキル】なし
【称号】新人探索者
――――――――――――――――
そう、これまたファンタジード定番の仕様。
ステータス!
ダンジョン内で魔物を倒し、ステータス、と唱えるとこれが出てくるのだ!
正直なところこれが楽しみだった!
自分のステータスが見れるんだから、気にならない人なんかいないだろ?
探索者なら気になるはずだ。
少なくとも俺は気になる!
「さてさて、⋯⋯ふおおぉ!」
まぁ、悪くないんじゃない?
お美しい受付嬢様から手渡されたありがたいマニュアルによると、このステータス、個人差はあれど【レベル】と《生命力》以外は10が平均値らしく、ステータス発現前は全員が一律10程度と考えられるらしい。
オリンピック競技に出る人や、軍人・自衛隊員なんかはこの平均の倍はあるらしいが、あの人たちは世界が新しくなる前から、訓練が日常みたいな人たちだから、そのステータスも納得だろう。
さてこのステータスだが、ギルドでは初めての探索者は最初の戦闘で魔物を討伐次第、必ず唱えるようにと言われているのだ。
というのも、このステータスを唱えないと、あとに何匹倒しても一切レベルが上がらず、そのままの状態で奥まで進んでいってしまえば、より強力な魔物か、複数の魔物が出てきたときになすすべなくボコボコにされて御臨終してしまうのだ。
パソコンで考えればわかりやすいのではないだろうか。
機材一式揃えても、コードを繋げ、電源を入れないと高度なネットワーク機材もただの産廃になりかねない。
ステータスも似たようなもので、いくら体を鍛えても、ステータスを起動させなければ、実にならないのだ。
ダンジョン界隈では、ステータスを出現させるのはダンジョンに繋がるということであり、この繋がりがないとダンジョンに認めてもらえず、いかなる努力も無駄になると考えられている。
アンチダンジョン派は、このステータスを唱え・繋がる行為はダンジョンに支配されているのと同じで人間はいずれダンジョンの家畜になるのだ、などと言っているが、まぁそんなことはどうでもいい。
重要なのは、ステータスを唱えなければここでの経験値がたまらず、レベルが上がらず、スキルが手に入れられず、ステータスが成長しないということ。
探索者にとっては死活問題だ。
特に俺にとっては!!
さて、ここでざっとステータスの各項目について説明しておこうと思う。まあ、少しでもゲームをかじったことがあるなら説明するまでもないだろうが。
念の為。
【レベル】は戦いの経験を積むほど上がっていく。ここには経験値の表記はされていないが、多くの人はそのようなものが隠されているのではないかと考えている。
《生命力》は想像できるとは思うが、要は命だ。
これが一割を切ると意識が朦朧としてきて、0になると御臨終だ。
ダンジョン界隈では《生命力》の半分を切ったら即時撤退すべしと推奨している。
安心・安全なダンジョンライフのためだ。
ペッ!
《筋力》は力そのものについてを表しており、
これが大きいほど体に力が入りやすくなり、数値が高くなると剣で岩盤を豆腐感覚でスパスパ斬れるようになるらしい。
《耐久》は体の頑丈さを表し、高い人の硬度測定結果はダイヤモンドを超えているそうだ。
《知力》は、主に思考速度に関することだ。この数値を上げていくと思考速度が上がり、物事に即座に対処できるようになる。また、噂では魔法系スキルにも関係があるらしいが、世界的にも実例が少なすぎてそっちはあまり研究が進んでいない。
《精神》は主に冷静になりやすくするためのもの。
前にも説明したが、ダンジョン内でパニックになると魔物に袋叩きにされ、あっけないほど簡単に御臨終することになる。なので、この項目を軽く考えている探索者も多いが、意外と重要であったりもする。
《敏捷》は動きの素早さと認識速度に大きく関係する。先ほどの戦闘でゴブリンが素早く見えたのは俺が緊張していたからだけではないだろう。
鑑定スキル持ちの探索者の調査により、ゴブリンの敏捷数値は12程度だそうだ。
ステータス発現前の俺のステータスが精々10程度と考えると、あの時の俺よりゴブリンのほうが速いということになる。なので、いかに最初の雑魚敵とはいえ、侮ることはできないのである。
《器用》は肉体を精密に操作する能力値だ。
これが高いと、作中のハリウッドスターばりの動きや武術の達人めいたことまでできるそうだ。
また魔力の精密操作もできるものではないかと考えられているが、知力の項目でも触れた通り、実例が極端に少なくて実証できていないので噂レベル。
そして、《魔力》だ。
これに関しては本当にほとんど分かっていない。
身体強化のスキル持ちによると、スキルを使っても魔力が減っていないので、スキルとは関係ないと言う話だ。ただ、探索者の中には魔法が使えるものを見たという人もおり、魔法があることは間違いないのでいずれ魔力のこともわかりそうではあるが⋯。
まあ、これに関しては新米探索者の俺は考えなくていいだろう。
【スキル】に関しては今はないので割愛する。
特殊な超能力とだけ。
【称号】はダンジョンで特定の条件を達成した探索者のみに与えられるらしいので、取得できるものは人それぞれである。
称号を手に入れるとそれに関連したスキルが手に得れられるそうだ。しかし、そうでない称号もある。俺の《新人探索者》もその一つだ。ダンジョンに入ったものはみんな持っており、特にスキルもない。本当にただの称号でしかない。
残念。
「さて!」
ある程度ステータスを見て満足した俺は周囲を警戒しつつ、先に進む。
「何っ処か〜な♪、何っ処か〜な♪」
まるで恋人を待ちわびている初恋男子のように
鼻歌を歌いながら、俺は奥へ進んだ。
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