【第十九話】夜明けの星に
「サンダークラッカー行使ッ!!」
対空、範囲に特化した分裂する雷球が次々とロイドの宝玉から発生する。
暫く直進すると分裂、拡散して上空へと広がっていった。
魔法障壁と反発しあいながら
チカチカと障壁が不安定になり、のたうち回る。
各部に負荷がかかっている証拠だ。
だが、そんな状況を顧みない者がいた。
ノイドである。
クエス達の魔法を受けヒビが入っているのにも関わらず、ロイドへの憎悪からか、脇目もふれずロイドへと向かってきた。
炎の爪を
ロイドは地面に突き立てていたファイアブレードを引き抜き、これに応戦する。
ファイアスタイルの時程の熱量は無いが、今のノイドが絶命するには充分な程に、ファイアブレードは赤熱していた。
ノイドの鋭い炎の爪をファイアブレードの腹で受けて、切り返しでノイドの左腕の小盾を切り飛ばすロイド。
そして、カウンターとして左脚で蹴り上げて来るのも想定して、ファイアブレードを水平に薙いで一歩下がる。
ノイドの脛の装甲が抉れ、フレームが剥き出しになった。
損傷した各部から炎が漏れ出る。
ダメージからか、軸脚がブレたのをロイドは見逃さなかった。
そのままファイアブレードを斜めに切り下ろし、ノイドの胴体を袈裟斬りにした。
好機とみたクエス達も水魔法を叩き込み、追撃を図る。
が、いずれの攻撃も致命には至らなかった。
切断面から溢れた炎を噴射する事で、致命傷を避けたのだ。
着地したノイドは、全身から炎を上げて急接近する。
「ロイドォォォッ!!!」
一本一本が致命傷になり得る炎の刃、それを全身に
当然、ロイドですら耐えられない温度の炎に晒され、ノイドとて無事では済まない。
文字通り身を削った渾身の一撃であった。
ロイドには、この瞬間切れる手札は限られていた。
残された数瞬の間にノイドを倒さねばやられてしまう。
しかし、他のフォームに切り替える、呪文を詠唱するといった猶予は残されていない。
ならば。
「サンダーパイル!」
引きつけ、必殺の一撃で正面から打ち貫くのみ!
「スパークバンカー!!」
凄まじい威力で雷撃の杭が解き放たれる。
炎の刃よりもほんの少し長いリーチがノイドの胸部、マナドライヴを砕いた。
マナドライヴは、
火種を失ったノイドの炎はたちまち消え、膝を付き、地面へと倒れた。
「おのれ……ロイド……!」
『補助動力による緊急転送、か……。まだノイドは死んではいない様だな』
『でもこれで横槍は入らないわ! ロイド、シルビアを助けてあげて!』
『クエス、キツイとは思うが支援を引き続き頼む!』
『『了解!!』』
サンダークラッカーを防御した際の機能不全から再起動した
火炎弾を吐き出し、触手から炎の雨を降らす。
次第に街が炎に包まれていった。
ロイドは内心焦っていた。
この光景はシルビアが血を流していた
いや、そんな未来は到底受け入れられない。
未来が変えられるというのなら、今こそ変えてみせる!
ロイドはそう心に決め、
クエスは残りの物資を確認しながら配分を考えていた。
ロゼに幾つかの
ルクスの矢弾は最後の補充をしたから暫く保つが、限界は近い。
この一戦に全てを賭ける方針にならざるを得ないだろう。
長い夜だった。
もうすぐ夜が明ける。
このデカブツを片付けて気持ち良く朝日を浴びたいものだ、と。
◆◆◆ ◆◆◆
街が燃え盛る。
ロイドとクエス、ロゼ、ルクスの四人は
空は白み始めている。
『おのれ! 良くもノイドを倒してくれたな! だがこの
コモン伯爵の怒声がスピーカーから響く。
その怒気に応じるかの様に、凄まじい勢いで頭部の触手から呪文が放たれる。
『あの触手が厄介だ……! 数を減らしたい! 出来るか?!』
『ロゼと一緒に頭部に乗り移る。少しの間注意を引いてくれ!』
『了解! ロゼ、気をつけて!』
『……そっちもな。ロイド、こっちは準備OKだ!』
『よし、やるぞ!』
ロイドはウィンドフォームに切り替わると、ロゼを伴って空を飛ぶ。
触手は対空呪文を放ってくるが、ロイドの機動を捉える事は出来なかった。
加えて地上からの援護射撃を回避するのと平行しての攻撃は精彩に欠け、ロイド達の付け入る隙となる。
ループ飛行から空中ブランコの要領で頭部に乗り込んだロゼは、強化魔法の
触手は自傷も辞さずロゼを狙って火属性の魔法を乱射するが、ロゼはそれらを
粗方片付いた所でロイドが合流し、ロゼを掴んで空へと退避する。
ロゼを地面まで降ろしたロイドは、
『よし、これからシルビアを救出する! 皆、援護を頼む!!』
『それはいいけど、僕の方は矢弾が尽きそう! 次の援護が最後だよ!』
『了解! これで決める!』
「ストームアロー行使!」
真空の渦が嵐のように殺到し、
しかし、この攻撃を予見していた
障壁に反応し嵐がうねる様に渦を巻き、渦から真空の矢が無数に生まれると魔法障壁にぶつかって行った。
継続して火属性の障壁が発生している所にクエス達の水属性の魔法が着弾すると、障壁をすり抜け本体にダメージが通る。
魔法障壁が不安定になってきたのを確認したロイドは、残りのマナに注意しつつ、飛翔して一気に加速する。
視覚情報に表示されるシルビアの位置に向かって一直線に飛んでいくが、事前に触手を切り落としていたので、対空魔法は殆ど飛んでこなかった。
無事取り付く事に成功したロイドは、ウィンドアーチェリーに真空の刃を
何度か繰り返す事でカプセル状の小部屋に辿り着く。
中にはシルビアが荒い息遣いで
「シルビア! 大丈夫か! 今助ける!」
「ロイド! 油断しないで! 触手が襲ってきます!」
カプセルに接続されていたパイプの一部が触手の機能を持っていたのか、ロイドに絡みつこうと襲いかかってくる。
しかし、シルビアの警告を聞いていたロイドにとって、対処するのは簡単だった。
ウィンドアーチェリーの刃で根こそぎ切り落とした。
「! ……シルビア?」
よく観察すると、本来
「……ええ。シルビアよ。偽物ではないわ。今は神様と繋がっている状態なだけよ。ここから離れれば元に戻るわ。急いで……!」
「……信じていいんだね?」
「ええ……信じて」
その瞳に嘘が無い事を確信したロイドは、ウィンドアーチェリーや他の装備を一旦
それから、シルビアから何本かの針が腕に刺さっているのを確認したロイドは、慎重に針を引き抜き、シルビアを抱き上げると急いで飛行してクエス達の元へと急いだ。
未来視の
しかし、未来視を失った事で、クエス達の攻撃も普通にダメージを与える事が出来る様になる。
援護攻撃を受け、無事脱出したロイドは、クエス達と合流する。
「クエス! シルビアを頼む! 衰弱が激しい」
「了解。回復魔法をかけた後にバースト転送するわ」
「……俺達は一旦戻って補給をする。戻るのには時間がかかるだろう……」
「ロイドはどうするの?! ぶっちゃけこのまま
「そうは行かない。このまま奴を好きにさせたら被害が広がるから……。奴はここで倒す!」
ロイドはそう言うと、スパークスタイルに切り替えると、サンダーパイルを行使した。
「なら、コレが最後の
クエスは残っていた俊敏性向上、魔力向上、膂力向上の
ロイドはクエス達に頷くと
サンダーパイルに魔力をチャージし続ける。
一撃で決めるべく、最大の威力を出す為だ。
『やめろ! 近づくな!!』
しかし、俊敏性が向上したロイドには障害にもならない。
サンダーパイルが膨らみ続け球体になる。
コモン伯爵の顔から血の気が引く。
ロイドは強化された跳躍力で一気に建物の壁面を跳躍し、
そして。
「スパーク……バンカーッ!!!」
凄まじい轟音と雷鳴が辺り一帯に響き、雷が落ちた。
それは、遠く隣国の王都まで響いたという。
そして、夜が明けた。
ロイドには夜明けの星がやけに明るく見えた。
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