ブラック企業のポンコツ社長、今日もサボってます
@AHKJHJ_
第1話ポンコツ社長、出社しない
株式会社ミキクリエイトの朝は、静かに、そして絶望的に始まる。
午前10時。
オフィスの電話は鳴らない。来客もない。空気清浄機だけが、カラカラと乾いた音を立てている。
「……社長、今日来てます?」
入社3年目の経理・久保が、恐る恐る言った。
「来てるわけないじゃん。月曜、雨だったろ? 雨の日は“出社不可”って自分で言ってたし。ほら、あのGoogleカレンダーにも“雨なので在宅”って。」
そう返したのは、営業主任の佐野。手元のノートPCで外回りの報告書を打ち込みながら、ため息をついた。
「ていうかさ、“在宅”じゃなくて“在眠”なんだよな、あの人の場合。」
オフィスの一角にある、重役席。
黒革の椅子がぽつんと寂しく置かれているが、その主――三木ハルオ社長の姿は、今週もない。
ハルオ社長。38歳。肩書きは「代表取締役 CEO」。
経歴は……社長しかやったことがない。
なぜなら、会社を設立したのが彼の父親であり、実質のお飾りポストにいるのが今の三木社長だからだ。
彼が会社に顔を出すのは、週に1〜2回。
遅刻して現れ、昼には帰る。
社員が苦情を言えば、Slackにこう返ってくる。
💬 ハルオ社長:
いや〜、経営者ってね、「現場にいないこと」が大事なんだよ。視野が広くなるっていうか、ほら、空を飛ぶ鳥は全体を見られるでしょ?
その翌日、会社の冷蔵庫に社長の名前が書かれたプリンが3つ入っていた。
社長は出社しないのに、差し入れだけは忘れない。誰も手をつけず、3日後には捨てられた。
そんな中、新人がやってきた。
「おはようございます!」
元気よくドアを開けたのは、新卒の田中 朔(たなか さく)。22歳。
今月入ったばかりのピカピカの新人だ。
「……あ、えっと……社長って、どちらに?」
「いないよ」
「はい?」
「今日も、いない。いや、今週も、かもな。先週は水曜だけ来て、1時間で帰ったから。」
「えっ……でも入社のとき、"毎朝10時に朝礼があります"って……」
「ああ、それ"理想の会社"を語るときのやつな。うちは“現実”を見ていこう」
田中は固まった。
これはヤバい、と思った。
しかし辞めるには早すぎる。でもヤバい。いやでも給料は出る。けどヤバい。
内心ぐるぐるしながら、自分のデスクに向かう。
午前11時。
Slackに通知が届いた。
ハルオ社長:
おはよー。今日はリモートで脳内会議やってるから出社なしで
あと、冷蔵庫のプリン食べたやつ、許さないから
「……食ってねえよ。」
久保のぼやきが、誰にも聞かれず空気清浄機に吸い込まれていった。
こうして今日もまた、社長不在のまま、ミキクリエイトの1日は始まった。
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