第34話 その恰好は……いや、ありかも

 祝日。


 今日は仕事がお休み! 記念日様は私の唯一の癒しである。

 早速ログイン。


 ……なんか迷いもなくログインしてるな。洗脳されてきてる。


 広場に着いたらプレイヤーさんが結構多い。やはり祝日となると殆どの人がお休みだからでしょうか。それにこのゲームもじわじわと売れてるのかもしれません。嬉しい反面、自分の仕事が増えるというジレンマです。


 暗い気持ちはこれくらいにして、あの子は……。


 いつものベンチにいました。手を振ってくれます。


「お待ちしておりましたー。お嬢様ー」


 メイド服を着てからやり直し。


「では行きましょうか」


「ういー」


 酔っ払いみたいな返事をしない。


「そういえばミゥってずっとその服だよね」


「運営だと思われないように見せるなら初期衣装が無難かと」


「そう油断させて狩ると」


 また人狼が始まってしまった。


「こんなに人多いんだし今日くらいはいいんじゃない?」


 言われてみればそうですね。ずっと制服でしたし気分転換も必要でしょう。装備チェック。全ての衣装を持っていますがさすがに誰も持ってないようなのは危ないですね。


 なら。


「え……」


 なぜか微妙な反応をされます。おかしかったでしょうか。


「何その女Tシャツ」


 服に『女』と描かれたTシャツです。私は派手に着飾るよりシンプルな方が好きなので。でも無地だと味気ないのでよく文字付きやイラスト付きを愛用します。


「おかしいですか?」


「ミゥさ、私服ださいでしょ」


 ガーン


 今までそんな風に言われたことなかったのに……。

 もしかして皆内心そう思ってた……?

 そっか……。最近食事誘われないなって思ってたけどそういうことか……。


「私が手本を見せてあげよう」


 そう言ってフユユさんが着替えます。


 するとどうでしょう。黒い帽子を被って、ノースリーブにホットパンツという何ともスタイリッシュな女子が爆誕しました。首からはネックレスを下げてるという隙のなさ。


 完敗だ……。というかいつの間に買ったの……。


「それじゃあ攻略に行こー。女Tシャツさん」


 その呼び名は不名誉すぎる。


 攻略に来たのはサイバーエリア。名前の通り電脳世界のようなマップ。背景が電子掲示板っぽいのがハイカラに輝いてる。ちょっと目がチカチカするかもしれない。


 床も全部カラーになっていて、大きなカラーブロック壁がいくつもある。

 オブジェクトはこのブロックだけだけど、このエリアには最大の特徴がある。


「わぉ! すごっ!」


 フユユさんが近くのブロックに足を踏み入れたようです。すると私から見ると彼女が壁に足が着いてるように見えます。


 このマップでは全てのブロックが上下左右重力が反転し続ける特殊なエリアです。この仕様を利用することで本来では登れそうもない高い所もブロックを伝って行けたり、なんなら天井も逆さになって歩けます。縦横無尽になってマップを駆け回る、それがサイバーエリア。VR世界だからこそできる体験ですね。


 そして登場するのはドット絵のようなブロックに点目が付いたモンスター。モンスターと言うべきか分からない見た目ですが表記上はモンスターです。


 変な弾みたいのを飛ばして攻撃してくる上、飛んでいるのでわりとしつこくプレイヤーを追ってきます。見つけたら倒そう。


 フユユさんに瞬殺されました。所詮は雑魚敵。


「行く所多そうだなー」


 フユユさんは壁に着いたまま考えてます。


「とりあえずここを上ってみる」


「分かりました」


 私も続きます。


 ……?


 なぜかフユユさんが地面に下ります。


「上るのではなかったのですか?」


 真下から見上げています。


「見え……そう……」


 なにが?


「黒……か……?」


 お前、まさか……。

 思わずスカートを抑えてしまった……。


「……変態ですか」


「女性だけでよかったねー」


 本当にそう思います。


 それでブロックを上ります。上った先には小さな魔法陣があります。


「もしかしてワープ系?」


 その通り。街へ行くには正解のワープパッドに乗る必要があります。


「うわ、クソゲーじゃん」


 クソゲー言うな。こんなエリアだから作り込みも大変だったの。


 魔法陣に乗ると別のブロックの所へ移動しました。どこが当たりかは私も覚えてません。しらみつぶしに行くしかないでしょう。


 それからワープしながら攻略が進みます。でも中々街へ辿り着けません。

 フユユさんが溜息を吐きました。


「女Tシャツさんのパンツ見てなかったら帰ってたよ……」


 まさかこれ着てる間ずっとそれで呼ぶ気か? あとパンツ見たとか口に出さない。


「まぁまぁ、そう気を落とさずに。ほら黒スライムが出て来ましたよ」


 まだイベント期間中なので出てきます。敵も重力に引っ張られるので壁に引っ付いてるように見えますね。


 フユユさんは目も向けずにマジックアローで撃破します。鷹の目並のエイム力……。


「女Tシャツさん、お願いがあります」


 急に敬語になったぞ。


「またパンツ見せてください」


 気力失って気が狂ったか……。


「見せません。きっともう少しですから頑張りましょう」


「無理……。パンツ成分必要……」


 あなたの体の構造はどうなってるんですか。


「ハグしてあげますから」


「嬉しいけど今はパンツ欲しい……」


 だから女の子がそんなの言わないの。


「分かった。私も見せるからそれでフェアにしよう」


 何がどうフェアなのかさっぱり分かりません。


「今すぐ煩悩を捨ててください。それが理性ある人間というものです」


「頭空っぽにしろって言うの……?」


 煩悩しかないのか……。


「私を頂点まで連れて行ってくれるのでしょう? フユユさんはこんな所で諦める人だったんですか?」


「休憩は終わり。行こう」


 この子は本当に分かりやすい。

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