聖女・マリアンヌ~尚、本人は一切気が付いていない模様


 マリアンヌがバルバッセロの所に向かう旅の道のりは血に溢れていた。

 客観的な事実としてマリアンヌは常に豪華なドレスで着飾り、マリアンヌ自身も見目麗しい美女であった。

 そんな誰が見ても貴族の御息女が大商会の娘と分かるような女性が一人で豪快にお金を使いながら歩いているのだ。

 襲ってくださいといっているようなものである。

 そういう輩にとっては襲わないのが失礼なレベルである。


 しかしながら彼女は神器を二つも保有する超一流の魔術師であった。

 ディステリア王国最強であり一人で小国を滅ぼせる竜を殺したバルバッセロを打ち倒せる存在であった。

 たった一人で万の兵士を皆殺しにし、実行にこそ移していないが単純な個人の武力のみでディステリア王国の国家転覆すら可能な化け物であった。

 そんな彼女に襲い掛かって略奪に成功できるような存在がいるであろうか。


 いたとしてもそれは数十万を超える屈強な軍隊や世界を滅ぼせる最強の魔術師、神すらも殺せる戦士といった存在であろう。

 そんな存在が略奪行為に身をやつすというのがまずありえない話である。


 彼女から全てを奪おうと襲い掛かる賊は後を絶たなかった。

 ディステリア王国は治安が決して良い国ではなく、場所によっては辺境貴族の重税と圧政によって数多の民が村を捨て逃げ生きる為に盗賊となり略奪行為に手を染めざる負えなくなっていた。

 町から町へ3日かかる道のりの間に合計で52回も盗賊や傭兵くずれに兵士もどきといった略奪者にマリアンヌは襲われた。

 そんな彼らをマリアンヌは魔術で皆殺しにしながら進んでいく。

 未来、セリカに裏切られ、国民によって全てを奪われて最後は民の醜さを嫌という程知ったマリアンヌは殺しに躊躇なぞなかった。


 その一方でマリアンヌは子供には優しかった。

 あれだけの経験をし、ディステリア王国に対しての愛情は消え失せたが、それでも一度は愛した国であり豊かにしようとした国。

 悪い大人には罪があれど子供にまで罪はない。マリアンヌは子供は子供らしく安らかにすくすくと育って欲しいと考えていた。

 だからこそ、立ち寄った村で子供が怪我をしていれば治癒魔法で治してあげた。

 重税による食糧不足であれば金銭をいくらか支援してあげた上で重税をかす領主を殺して跡を継ぐ存在を脅迫して減税をさせた。

 町が盗賊によって危機にさらされ子供が攫われたと聞けば、盗賊を皆殺しにして子供達を救ってあげた。

 法外なみかじめ料を請求する傭兵くずれが町にいすわってるせいでお母さんが働きすぎて倒れたと子供から相談をうければ、傭兵くずれを皆殺しにした。

 村で伝染病が流行し子供が死にかかっていれば治癒魔法を駆使して村全体の伝染病を治療し、原因である泉の魔物を討伐した。

 村の作物が育たないと子供から相談を受けたら村に大地の祝福魔法を施して土を豊かにして豊作となるようにした。


 マリアンヌは子供の笑顔の為に意図せずディステリア王国の数多ある問題を解決させながら、歩いていく。


 意図しないうちに聖女様と信仰の対象になりつつあったが、自由に生き、子供を助けたのはあくまで自分の自由意思であり欲のためだと信じ切っているマリアンヌはそんなことなぞつゆ知らずバルバッセロの元に向かって旅をする。


 今日も可愛い子供達の為に数多の人々を救いながら聖女・マリアンヌは旅を続ける。

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