回帰


 「マリアンヌ。今日この時を持ってお前との婚約の破棄を宣言する。

 これは決して覆すことの出来ない決定事項だ。もう既にお前の父親にも我が父である国王にも正式な書類を送ってある」

 学園にて行われた創立記念パーティー会場にて第二王子カイセルが婚約者である。

 否、婚約者であった。公爵令嬢マリアンヌに対してそう残酷な言葉を告げた。


 告げた?


 ??????


「何を、言ってるのかしら」

 マリアンヌは心の底から驚いた。

 何故なら彼女はついさっき殺された筈だったのだから。

 女王となり裏切られ、最後はギロチンによって首を落とされた。

 確実にその首が刎ねられて死んだはずであった。


「フフフ。どうやら驚いているようだな。だがな、これはもう決定事項なのだ。後悔するなら存分にするがいい。ハハハ。だがもう遅いがな」

 マリアンヌの驚く顔が見れて第二王子は上機嫌になって笑う。

 それを無視してマリアンヌは思考を始める。


 私は確かに死んだはずだわ。

 でも死ぬ前にバルバッセロが来て、最後のあがきに私は死霊神の杖を使って【■■■■■■■】を発動させた。

 【■■■■■■■】を発動させた?

 今、この状況どうみても過去に戻っているわ。

 戻ったのは婚約破棄のあの場面。間違っていなければ私の奥歯には気絶薬が仕込んであるはず。

 舌を転がし奥歯を確認する。確かに気絶薬があった。


「ハハハハハ。ハハハハハハハハ。本当なのかしら。これは本当なのかしら。嗚呼。神よ。死霊神様よ。本当に本当にありがとうございます。私はこれから私に好きに生きます。自由に生きます。もう二度とあんな失敗はしません。

 全てをやり直して見せます。どうか、どうか私を見守っていてください。崇拝する死霊神様よ」

 マリアンヌは祈った。

 膝をつき天を仰ぎ祈る。

 突然の奇行に周りがどよめく。

 

「何ふざけたこを抜かすんだ。そもそも何だよ死霊神って、そんな神いないだろ。というか気味が悪いな。死霊を司る神なんて」


「そう、貴方は死霊神様の偉大さを知らないのね。可哀想に。心の底から同情するわ。そのまま一生を過ごして無為の死を遂げなさい」

 マリアンヌは今更、愚かで矮小な馬鹿王子に付き合ってあげる程日までも酔狂でもなかった。

 それよりもまずは自分を陥れたあのセリカに方に思考は割かれていた。


「まずはセリカの始末からね。あの裏切り者。覚悟しなさい。

 神器開放・顕現し私に無限の叡智と魔力を与えよ・グリモワール

 神器解放・全てを呑み込む死の闇よ。全てを喰らう死の力よ。私に最恐にして最強にして最凶の力を寄越しなさい・死霊神の杖」

 魔力を纏わせ神器を開放する。

 膨大な魔力は空間を歪め、この場にいた魔力耐性の低い学生達の意識を奪う。

 

「禁忌魔法・空間魔法・短距離転移・人物指定・セリカ」

 禁忌魔法に指定することで、闇魔法に指定させ死霊神の杖、影響を享受することが出来、本来であれば発動が困難な空間転移魔法の発動を可能としていた。



 転移魔法が発動しマリアンヌはその場から転移した。



「あれ?マリアンヌ様、創立記念パーティーはどうなされたのですか?」

 計画と違うマリアンヌの突然の帰還にセリカは驚く。

 そしてこれが彼女の最後の言葉となった。


「死魔法・抗えぬ死」

 死魔法・抗えぬ死・・・対象に完全効果を持つ死を付与する禁忌魔法。

 発動し効果が成功したら最後、どれだけの強者であろうと、どれだけの状態異常耐性を持っていようが全てを貫通して絶対的な死を与える。

 この力を持って与えられた死は蘇生魔法を無効化し、復活阻害という効果までついている。


 セリカは転生者であり強力な力を持った魔術師でもある。

 しかし、突然の不意打ちによる抗えぬ死に対して抗える程優れた存在でもなかった。セリカはこの世界の主人公は自分であると慢心していた。

 その代償を今支払わされたのだ。


 セリカは死んだ。完全に息絶えた。


「ハハハハハ。ハハハハハ。ハハハハハ。ハハハハハ。死んだ。死んだわ。セリカを私が殺したわ。ハハハハハ。ハハハハハ。ハハハハハ」

 

 マリアンヌは笑う。

 笑う。

 笑う。


 ひたすらに大きく口をあけて令嬢らしくない程大笑いする。


 その笑いにはセリカに対して復讐を遂げたという喜びの想いと、長年仕え、親友とすら思っていたセリカを自分の手で殺したという後悔の念が混ざっていた。

 だから笑う。

 全てを笑い飛ばして忘れられるようにマリアンヌは笑った。

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