55歳主婦、異世界転生して20歳に若返り!~しかもビジュ良し男の後妻です~

やのの(肉球🐾製作所)

第1話

花の匂い。それもたくさんの花に囲まれた、心地よい空間。

そと同時に触れモノ。

唇にとても柔らくて優しい感触に、それがキスだという事に気づくのに少し時間がかかった。

『夫とキスしたのなんて、何年ぶりかしら。あぁ、あの子が亡くなってからだから、もう二十年振り?』

…意外と長いキス。

何時になったら終わるのか、と恐る恐る薄目を開けると、そこに居たのは長年連れ添った夫ではなく、ビジュアルの良い男性。

何故?どうして?と口が開く前に思いっきり男性を引きはがすと、その人は妖艶な笑みを浮かべて私・喜夜キヨの肩を抱き、傍に居た人の方へ向く。

わたくしが証人となり、この二人が神の祝福を受け夫婦となった事をここに誓います」

向きなおした先に居た神父が天高らかに手を掲げ、優しそうな笑みを浮かべて宣言する。

その言葉が合図のように後ろから拍手と『おめでとう』の大合唱。

私には今、何が起こっているのか状況の把握が出来なくて、旦那となった人?に引きずられながらその場を後にした…。



…バタンと大きな音を立てて控室のドアが閉まる。

引きずられて式場を出て、向かったのはホテルの一室だが、こんな豪華な部屋見た事ない。

人生で『豪華絢爛』なんて言葉を使う事なんて無いと思ってたけど、ここで使う事が出来て良かった、と思う。

そして、備え付けられている姿見に映る自分らしき人物に目を丸くする。

『夢!?これ、夢だよね?だって、こんな奇麗なシルバーな髪色見なんて事ないし、何この、美人さん!!!超、スタイルも良いし爆盛りの胸とかありえないでしょ!!!』

鏡をガン見している私に気づいたか、旦那となった人は大きなため息を吐きながら。

「キヨリーヌ!貴女の望む結婚式をして。後は屋敷で問題を起こさず静かに暮らしてください。…あぁ、貴女にも立場があるでしょうから、子作りはしましょう。でも、男の子は必要ありませんから、女の子だけ産んで貰います」

「え?あ、あの、」

『今、この人、キヨって言った?』

「あの、私の名前、」

「は?私だって莫迦ではないのです。嫌いな女の名前くらい覚えていますよ、キヨリーヌ」

『キヨリーヌ…この子の名前?』

「しかし、貴女は専属メイドもいないのですか?まぁ、実家でも散々、わがまま放題だったと聞きますし、付いてきたがる者も居なかったのでしょうね」

吐き捨てるように言うと同時、ドアが控えめにノックされてゆっくりと開いた。

「おとうしゃまぁ…」

「こら、ドリスタン。返事があるまでドアは開けたらダメだって教えただろ?」

少しの隙間から入ってきたのは三歳くらいの男の子で、旦那?となった人を小さくしたまんまの子だった。

その可愛さと言ったら『天使』と言っても過言ではない程。

『あぁ、男の子は必要ありませんってのは息子がいるからって事か…って、え?私、後妻って事なの!?それも重要だけど、やはりこの人たちは日本人じゃない。それに参列者の顔立ちを考えると、異世界転生とか言うヤツ!?小説の中の出来事だけだと思ってた!』

「ドリスタン、今日からお前のお義母様になるキヨリーヌだよ。ご挨拶してきなさい」

優しい口調に表情とは間反対の顔で私を睨みつけ『息子に酷い事をするなよ』と訴えかけてくる。

もじもじと天使が恥ずかしそうに私の傍に寄ってくる。

「キヨリーニュしゃま、ドリシュタンれしゅ、しゃんしゃいになりましゅ」

その可愛らしさに私のハートは可愛さの矢に貫かれる。

『三歳って事ね。…もしも、もしもだけど、あの子が生きていて、私がおばあちゃんになっていたらこれくらいの歳の孫が居たのかしら』

そう思うと切ないが、それ以上に愛おしく

「はじめまして、ドリスタン」

腕を伸ばして彼を抱き上げていた。

やせ我慢をしたが、この躰の持ち主は腕が細すぎるし白すぎるし、本当に非力すぎる。

『あはは、何だろう…キヨリーヌ。この躰の持ち主の名前っていうのも、なんか面白いものね。それに、夢にしては長い気がするけど、まぁ、いいか。だって…』

「嬉しい。こんな可愛らしい子が私の息子になってくれるだなんて」

ギュッと抱きしめる。

「私の事は、キヨって呼んで?」

「はい!ぼ、ボクのことは、ドリーってよんでくだしゃい!」

「ドリー、よろしくね」

小さい子は抱きしめられたまま左右に振られたり、くすぐられたりするのが大好きだし、それは仲良くなるための最短の行為。

キャッキャ、と声を出して笑うドリーにこちらまでつられて笑顔になってしまう。

「あぁ、どうしてこんなに子どもって可愛いのかしら」

不意に視線を感じてそちらに視線を向けると、信じられないと驚きを隠せない顔で旦那となる人が私を見つめている。

この視線。キヨリーヌこのこは、この人に好かれてはいない。

という事は、十中八九、この人の取り巻きはキヨリーヌこのこを嫌っている。

だけど、ドリーは心を開き始めている。

状況は何となく分かったけど、この先どう立ち回っていくか。

嫌われてる人に好かれる必要はない。これは私が前の人生で学んだ事だ。だけど、自分のテリトリーに何時もいる人と嫌悪感丸出しで暮らしていく程、息の詰まるものはない。そして、こういったパターンの時の攻略法は、ただひたすらに自分は無害だと粘り強く主張して行く事。

『…あの人の名前を私が、いや、この躰が聞いたら不審がられるわよね?…やはり、これはドリーに聞くしかないか…』

こっそりとドリーの耳元で囁く。

「ねぇ、ドリーはお父様の名前言える?」

すると、今度はドリーが耳元で囁き返してくる。

それが可愛らしくてもう、終始、笑顔になってしまう。

「おとうしゃまの、おなまえは、えっと、ケ、ケイドモンっていいましゅ」

『ケイ…。まったく神様って意地悪ね…』

「難しい名前なのに憶えてて、それも言えて凄いわ」

囁きで褒めると嬉しそうに、そして照れたようにドリーは私の胸に顔を埋めてぎゅっど抱き着く。

『三歳の子が後妻といえど会った事も無い女性に抱き着き、甘えるという事は…産まれて間もなく母親が亡くなったという可能性が高いわね…。そして、多分だけど、…えっと、ケイモンドに片思いをしていたキヨリーヌが親に駄々をこねて結婚をこじつけたって流れ…って感じかしら。この人がどのくらいの爵位の人か分からないけど、キヨリーヌの実家は伯爵以上の爵位はあるって事は確実かもね…』

背中を軽くたたいていると、ドリーの目はトロン…としている。

時計を見れば昼の二時を過ぎた所。おねむな時間だ。

「式の最中、ずっと静かにしてお父様を困らせないように我慢していたのね。本当に父親想いの子だわ…」

瞼が完全に閉じ、躰の力が抜けて急に重たくなる。

キヨリーヌになにかされるのでは、と気が気でなく微動だにせず監視していたケイモンドが驚いた口調(小声)で

「ドリーが寝てしまったのですか…?受け取りましょうか?」

と聞いて来る。

「えぇ、お願いします…。ドリーはケイモンド様似ですね。幼い頃の貴方はこんな顔だったんでしょうね…」

困惑を隠せないケイモンドの顔が面白くて思わず笑みが零れる。

「…ドリーは懐いたかも知れませんが、誰もが貴女を快く迎え入れるとは思わないで下さいね」

忠告をしてくる所、まだ優しさを持ち合わせているのだろう。

「優しいですね」

「はぁ?私が?」

ドリーを三人掛けのソファーに寝かせ、私の方に向き直すなり思いっきり眉間に皺を寄せる。

「はい、貴方は優しいですよ。だって、優しくない人はそんな忠告をしません。何が起きても無視をしますし、私が他の人から嫌がらせを受けてほくそ笑みます。事前に私に忠告をするという事は、心構えをしてそういう目に遭わないように気を付けて、という優しさの表れです」

そこまで言った時、コンコン…とドアがノックされ、男の子の声が聞こえてきた。

「お父様、シエルです。ドリスタンがお父様に会いに行くと言って出て行ったきり戻って来ないので迎えに参りました」

もう一人、息子が居たのか。口調がしっかりしているのでドリーのお兄ちゃんだろう。

ケイモンドがドアを開けて息子を迎え入れると、私は無意識に立ち上がっていた。

呼吸が止まる。

「シエル、この人がお前のお義母様になる、キヨリーヌだ。ご挨拶を、」

そんな広い室内ではないのに、私は息を切らせて入って来た男の子の所まで走り、

「カイト!」

抱き着いていた。

「ごめんなさい!ごめんなさい、カイト!貴方が行きたくないって言ったのに、お母さんが無理に行かせたから!本当に、ごめんね、お母さんが、貴方の人生を奪ってしまって!」

呼吸がままならないのに、言葉だけが、謝罪にしかならない言葉が溢れ出す。

死んだはずの、会えないはずの息子が目の前にいる。

「あ、あの、」

「離れて下さい!シエルが困っているでしょう!」

「ごめんね、こんなお母さんで、」

小さな手が私の肩を掴み、ぐいっと力強く押し返す。

「キヨリーヌ様、申し訳ありませんが、ボクは貴女がおっしゃっているカイトという方ではありません。シエルです」

酸素が脳に回らない。

「ち、ちがう、ご、ごめん、っ、カイ…ト…じゃ、な、い…」

私はそのまま気を失い、シエルと言った息子そっくりな男の子に抱き留められた。


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