第17話 フェイという男
ストリックランドとリタが牢獄で囚われの身となっている間、そんなことはいざ知らず、コテージの中で優雅に過ごす男がいた。
特にこの避暑地は人気のリゾートであり、彼のように休暇を過ごすにはうってつけの場所だった。
男の名はヤン・フェイ。
かつてストリックランドと冒険者パーティを組んでいた仲間の剣士だ。
彼は、ストリックランドが冒険者ギルドを去ったと知り、自分も人生を見つめ直してみようと考え、故郷に戻って休暇を過ごしていた。
彼は今、王国から持ち帰った紅茶を飲んでいる最中だった。
「懐かしい味だな……」
一口飲むごとに、王国で過ごした日々が思い起こされる。
◆◆◆
フェイは東国の商人ギルドの家系に生まれた。三人兄弟の末っ子で、他の兄よりは大らかに育てられた。
学校を卒業後、父親から人生経験になるだろうという理由で冒険者になることを勧められ、王国に渡った。
何事も器用にこなす彼は、冒険者としても頭角を現していった。
早い段階で中堅冒険者たちのパーティに迎え入れられ、そこでも実力を発揮した。
彼の冒険者生活は順調だった。ある程度実績を積んだら、故郷に帰って親の仕事でも手伝おうかと考えていた。
そんなある日、事件が起こった。
それは、山奥に陣取っている魔王軍の部隊を殲滅するクエストだった。敵部隊の練度はそれほど高くなく、規模も小さいものだったので、簡単な任務だと思われた。
フェイのパーティを含む中堅レベルのパーティが複数投入されたこともあり、攻略は時間の問題のはずだった。
しかし、敵部隊に援軍が現れた。ドラゴンとゴーレムの混成部隊である。新たな敵は、それまで戦っていた相手よりもはるかに強力だった。
フェイたちの部隊は次々にやられていった。周囲の仲間が倒れていき、ついには立っているのがフェイ一人になった。
彼はいよいよ死を覚悟した。
しかし、その時現れたのがストリックランドだった。別任務で近くに来ていたストリックランドが、周囲の騒動を聞きつけてやってきたのだ。
ストリックランドは、フェイが今まで見てきたどの冒険者よりも強かった。
ゴーレムの攻撃を生身で受け止め、反撃のパンチで頭部を破壊した。
空中のドラゴンに攻撃魔法を撃ち込み、落ちてきたところに剣でとどめを刺した。
「怪我はないか?」
ストリックランドに話しかけられるまで、フェイは彼が戦う様子を呆然と見ていた。
彼は、たった一人で魔王軍の部隊を退けてしまった。
その瞬間、フェイはストリックランドが持つ本物の強さに惚れ込んだ。
フェイは弟子にしてくれと彼に頼んだものの、聞き入れてくれなかった。しかし、冒険者パーティを組むことは同意してくれた。
それ以来、二人はパーティとして活動を続けた。
わりと大雑把な攻撃の多いストリックランドと、細やかで機転の利くフェイのコンビは、当人たちが考えていたよりも相性が良かった。
その後、魔術師が追加で仲間になったり、魔王軍討伐パーティに指名されたりと色々なことがあった……。
◆◆◆
紅茶を飲み干してしまった。茶葉はまだある。
フェイが追加でもう一杯淹れようとしたその時、コンコンと、ドアをノックする音が聞こえた。
「誰だ?」
「ヤン・フェイさんでいらっしゃいますか? 私は、冒険者ギルドから来たものです……」
フェイは、念のため剣を携えたままドアを少し開けた。
外には、フードを深く被った女がいた。
「君は何者なんだ?」
「わ、私は……えっと、冒険者です……ルーチェといいます……」
そう言って、ルーチェと名乗った女はギルドの紋章が印字された身分証を見せた。
「冒険者ギルドから? こんなところまで何の用だ」
フェイはルーチェを部屋に招き入れた。
「じ、実は……ストリックランドさんが大変なんです……! ストリックランドさんからの依頼で、あなたを探しにきました!」
ルーチェは部屋に入るなり矢継ぎ早に話した。
「ストリックランドが……?」
あのストリックランドがこんな手段で連絡を取ってくるなんて、意外だった。何か尋常ではない事態に巻き込まれているのではとフェイは思った。
「詳細は、冒険者ギルドの方がご存じのようです。一緒に来ていただけますか……?」
「……分かった、行こう」
フェイはルーチェとともに王国へ向かうことにした。
一回の使用で多額の利用料を取られる移動用の魔道具を使って、王国の領土へ渡った。
そして、冒険者ギルドへと向かうため馬車を何度も乗り継いだ。
「ところで、君はずっと顔を隠しているが、明かせない理由があるのかい? 別に、事情があるのなら構わないが……」
馬車の中で、フェイはルーチェに言った。
「えっと、そうですよね、やっぱり怪しいですよね……」
そう言いながらルーチェは顔を覆っているフードに手をかけた。
「お、驚かないでくださいね……。ちゃんと事情を説明しますから……」
「な……!? ……そんな、君は!?」
顔を見せたルーチェを見て、フェイは驚いた。
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