第12話 かつての仲間?
強盗騒動から一週間ほど経ち、店は通常通りの営業に完全に戻っていた。
ストリックランドもすっかり店に馴染み、いっぱしのレストラン店員として働いている。
そんなある日の夕暮れ時、それは、一人も客のいないタイミングだった。
ストリックランドの平穏を脅かす客がやってきた。
「いらっしゃいませ、二名様でよろしいでしょうか……。……お前は!」
店にやってきたのは、高貴な服装に身を包んだ女と、その従者と思われる男だった。女の方は、ストリックランドが知っている人物だった。
「ふふふ……久しぶりね。勇者ストリックランド」
「エレノア……!」
エレノアと呼ばれた女は、ストリックランドの全身を値踏みするように見た後、不敵な笑みを浮かべて言った。
「本当にレストランの店員をしているなんて、まったく面白い男ね」
「何しに来た」
「あら、お客様のご来店なんだから、案内しなくていいの?」
「……こちらへどうぞ」
ストリックランドはエレノアに思うところはあったが、客相手なのでしぶしぶテーブルへと案内した。
エレノアは、従者の男に外で待つよう合図し、一人でテーブル席に座った。
「一体何しに来た……? 本当にただの客としてきたわけでもないだろう」
ストリックランドは、メニュー表と水の入ったコップをテーブルの上に置きながら言った。
「あらあら、かつての仲間に対して酷い言い方ね」
水を飲みながらエレノアが言った。
「悪いが、他の二人ならともかく、お前と再会できてもあんまり嬉しくないな」
「あらそう、まあいいわ。とにかくね、ちょっとした要件があって来たのよ」
「だったらすぐに言え。用がないなら他の客と同じように、飯を食って、金を払って、帰れ」
「そうねえ……ハンバーグを一つ頼むわ」
「はあ?」
「だから、注文よ。せっかくだから食事でもしてから話に入ろうかと思うの、悪い?」
「……かしこまりました」
ストリックランドは不満だったが、一応相手は客であるため、店員として対応した。
キッチンに入り、注文を伝えるとともにマリーにこう言った。
「マリー、あそこに女の客がいるだろ? あいつ、俺の昔の知り合いなんだが、面倒な女だから念のため注意してくれ」
「あそこの女性……? ストリックランドさんの友人ですか?」
「いや……ただ昔、冒険者パーティを組んでいた仲ではある」
「んん……!? あの女の人、もしかしてエレノア大臣じゃありませんか!?」
「知っているのか?」
「はい、内務大臣の方ですよね? 新聞で顔を見たことありますよ」
「そうか……」
「あれ? そういえばエレノア大臣の経歴って、かつて神官として魔王討伐パーティに参加してて、そこから大臣になったって……。そのエレノア大臣と同じ冒険者パーティだったってことは……」
そこまで言って、マリーは今まで気づいていなかったあることに気づいた。
「ええぇぇ!? ストリックランドさんって、もしかしてあの勇者様本人なんですか!?」
「ああ、そうだ……。黙っていて悪かった……」
「いえいえそんな! むしろこちらこそ、気づかずに申し訳ないというか……」
「出会った時は落ちぶれた姿だったからな。君をがっかりさせたくないと思って、黙っていたんだ」
「そうだったんですね……」
「それより、問題はエレノアの方だ。まあとにかく、関わらない方がいい」
「そ、そういうわけにもいきませんよ……! 私、料理を出すついでに挨拶してきます!」
「おい、やめた方が……いや、ここは君の店だったな。君の判断を尊重しよう」
ストリックランドはマリーにエレノアと関わってほしくなかったが、ここはマリーの店である。客の扱いについては、店主の判断を優先すべきだと考えた。
マリーは急ぎつつも丁寧にハンバーグを作り、エレノアのテーブルに持って行った。
「あの、エレノア大臣でございますよね? 失礼ながら、何かご用でしたでしょうか?」
「あら、あなたが店主さん?」
エレノアは笑顔で応対した。
「はい、そうです」
「実はね、店員の男――ストリックランドに用があってきたの。まあ、あなたにも関係なくはないから、食後に彼と一緒に同席してもらえるかしら?」
「わ、分かりました……!」
マリーは、店の外に出て、邪魔が入らないように「準備中」の看板を下げた。
その時、馬車を見張る従者の男と目が合い、会釈したが、男の方はフンと鼻を鳴らすだけだった。
◆◆◆
「ありがとう、美味しかったわ」
エレノアは食事を終えると、丁寧に口元を拭いて言った。
普段、冒険者や旅人がメイン客層のこのレストランにおいては、その丁寧さはむしろ異質なもののように見えた。
「で、話って何だ」
ストリックランドがエレノアの近くのテーブル席に腰かけて言った。
「何のお話でしょうか……?」
マリーはエレノアのそばで立っている。
「単刀直入に言うわ。ストリックランド、私はね、あなたを逮捕しに来たの」
「……はあ?」
「だから、逮捕よ」
「それは聞こえてる。一体何の話だ?」
「あなたは罪を犯したの」
「へえ……何の罪状だっていうんだ、大臣様?」
ストリックランドは呆れた様子で言った。
「殺人罪よ」
エレノアはニヤリと笑って言った。
「殺人だと? 何ふざけたこと言ってやがる。俺が誰を殺したっていうんだ?」
殺人罪と言われても、ストリックランドは身に覚えがなかった。
冒険者として長く活動する中で、何度も人と戦うことはあったが、決して人を殺めることはなかった。そういう側面も、彼が勇者に選ばれた背景としてあった。
一方でマリーは、ストリックランドに何か薄暗い過去があるのだろうかと、不安な目で彼を見た。
「あなたはね、数日前にこの店に訪れた外交官を殺害したのよ」
「外交官だと?」
エレノアは懐から一枚の書類を取り出した。
書類には、投影魔法によって過去の場面が記録された写し絵が載っていた。
その写し絵には、額に傷のある、死亡した男の顔が写っていた。
ストリックランドはその男の顔に見覚えがあった。
「この男はね、金貨が額に刺さってしまって、それが原因で死んでしまったのよ」
「こいつ、あの時の強盗じゃないか!」
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