第26話 モデルガンとアイス・チート

Side:タイセイ


「タイセイのことをしつこく聞いている奴がいるよ」

「俺も訊かれた」


「へぇ」


 飴を街の子供に納品したら、そう言われた。

 俺は金の卵を産むガチョウだからな。

 こういう展開は遅いぐらいだ。


 モデルガンとガスなどを買う。

 それとペイント弾。


 モデルガンは物騒だと嫌だから樹に向かって発射してみた。

 塗料がべたっと付いただけ。


「樹が可哀想」


 孤児達が樹についた塗料を雑巾でゴシゴシとこする。


「取れないよ」


 ペイント弾のスキルは消せないってことか。

 あれっ、塗料の場所が分る。

 追跡に役立つスキルだな。


 俺が雑巾で塗料をこすると簡単に塗料は綺麗になった。

 使用者なら、消せるらしい。

 呪いみたいだ。

 便利ではあるけど。


 モデルガンのスキルは何かな?

 樹に変化はない。


 まあ、良いか。

 とりあえず、俺のことを訊き回っている奴は、ペイント弾で追跡だな。

 怖いので、サクラに頼むしかないか。

 宿の部屋のサクラはくねくねして気持ち悪い。


「勇者さまぁ♡ もう、じらしプレイですね♡ ふやけてしまいそうですぅ♡」


 どこがとは聞かない。

 こんなだから嫌なんだ。

 断じてこんなのがヒロインだとは認めない。


「モデルガンだ。怪しい奴がいるから、これで撃って追跡しろ」

「了解です。なにかご褒美が欲しいですぅ♡」

「何か考えておく」


 考えるだけだ。

 サクラが信用できないので、一緒に子供達を見張る。

 出て来たな怪しい男。


 無言でサクラがモデルガンを撃つ。

 何度も練習もしたから、ばっちりと当たった。


「があああ!」


 撃たれた奴が変だ。

 転げ回っている。

 血は出てない。


「ええと、作戦変更。とりあえず、縛って尋問」

「はい。尋問は得意です。任せて下さい」


 キリっとしたサクラの顔。

 信用できるものか。

 俺も尋問に立ちあう。

 宿の部屋。

 勇者教の信者が、遮音の結界を張った。


「ほら、喋れ。指が全部なくなる前に喋れよ。次は歯なんだが、言葉が聞き取りづらくなって、いつもイライラして殺してしまうんだ」


 サクラ、お前、殺す気満々だな。

 何気なくサクラがモデルガンを男に向ける。


「ひぃ! 喋るから、それだけはやめてくれ!」


 モデルガンのスキルが何なのかは知りたいような知りたくないような。

 男はガルー国の密偵だった。

 ただし下っ端。

 話した内容が本当かどうかは判らない。


「解放してやれ」

「良いのですか?」

「ああ、ガルー国の密偵だと判ればそれで良い」


 男はゴキブリの如く去って行った。

 小刻みに足を動かし暗くて狭い路地を駆け抜けていくのがまさにゴキブリ。


「ペイント弾の効果で追えるよな。アジトを突き止めて、仲間も全員突き止めろ」

「はい」


「これはご褒美だ」


 カレールーと米を出してやった。


「はっ、これは勇者神様の所望してた品物。ありがとうございます。勇者神様、お受け取り下さい」


 カレールーと米が消えた。


「先代は何だって?」

「次は牛丼。その次はカップ麺を頼むだそうです。できればデザートにアイスも付けてほしいそうです」


 勇者教をこき使っている給料だと考えれば安いものか。

 ガルー国の密偵組織の探索は勇者教に任せよう。


 アイスは良いかもな。

 ピンキリなのが良い。

 孤児院に帰り、6本で200円ぐらいのアイスをチョイス。

 3人からスマイル100円を貰えば黒字だ。


「うわっ、甘くて冷たい。口の中でとろける。こんなの初めて。氷魔法+1だって」

「私も。氷魔法+1。【ステータス・オープン】。氷魔法が1回だけ使えるみたい」

「美味しくて、魔法も覚えて、なんて凄いの」


――――――――――――――――――――――――

スマイル100円、頂きました。

――――――――――――――――――――――――


 続々と入るスマイル100円。

 初めて食べるアイスは美味いだろうな。

 アイスのスキルは1個食べると、氷魔法が1回チャージだな。

 結構良いスキルだ。


 俺は高級アイスを食べた。


――――――――――――――――――――――――

氷魔法+7。

――――――――――――――――――――――――


 うん、7倍はする値段だから、当たり前だな。


「タイセイのアイスはなんか美味しそう」

「これはな。子供が食べると毒なんだよ。大人しか食べちゃいけない」


 昔話みたいな言い訳をしてみた。

 みんな、騙されたようだ。

 純粋だな。

 詐欺に遭わないように色々と教えないといけないようだ。


Side:孤児院の男の子


 おいら、スーパー魔法使い。

 嘘をついた。

 スーパーではない。

 でも氷魔法が1回だけ使える。


 これで、人さらいとかに会っても逃げられる。

 うへへ、切り札。

 必殺技だ。

 うひょー、恰好良い。


 孤児院のみんなもおいらと同じのはず。

 それと、子供が食べると毒なんだというのが嘘だというのも知っている。

 貴族のお姉ちゃんが、来た時に食事がお姉ちゃんだけ違ったんだ。

 院長先生に後で聞いたら、贅沢を覚えると大抵の人が悪い方向に行きますって言ってた。

 我慢ができなくなるんだって。


 その意味を今日理解した。

 仲間の孤児達が食べているアイスだけで、極上の味。

 こんなの知ったら、もう飴では我慢できない。

 タイセイが食べてたアイスを食べたら、どうなるかおいらも分からない。

 それを手に入れるために盗みでも何でしてしまいそう。


「贅沢を知るのは罪なのかな?」


 院長先生に聞いてみた。


「真っ当に働いて、それを毎日味わえるように、努力しなさい。あなたの歳なら、そろそろ夢を持っても良い頃です」


 おいらに夢ができた。

 タイセイに聞いたら、アイスは作れるらしい。

 牛乳、砂糖、氷、塩で作れるって。

 ビニール袋の大きいのと小さいのも必要らしいけど。


 小さい袋に牛乳と砂糖を入れて、大きい方は氷と塩。

 大きい袋の中に小さい袋を入れる。

 布の袋に入れたら、ぶんぶんと振り回す。

 意外に簡単だな。


 お金を稼いだら、挑戦してみよう。

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