第2話 食べ物天国

「……何だろ、これ」


 ステータスを見つつ前へ歩いていると大きな箱みたいな物が落ちていた。

 コンコンと骨で叩いて見たが生き物などは入っていなさそうだ。


「ご飯とか入ってないかなー」


 躊躇わず箱を開けると変な模様が描いてある皮袋が入っていた。

 薄汚れた袋を手に取って見たが案外丈夫そうで手頃なサイズの為、物運びに使えそうだった。


「中身は……入ってないかぁ」


 片腕で袋を漁るのは大変で適当に左手を突っ込んで漁るが何もない。


「……ん?いや、何か入っているかも。」


 奥の方に何か硬い物の手触りを感じた。それを手繰り寄せて引っ張ってみると虫眼鏡のような物が手元にはあった。


「食べ物じゃないかぁ」


 虫眼鏡を手に取って辺りを見渡す。うん、普通の虫眼鏡だ。


 魔法の袋(小)……異空間魔法が仕込まれた袋。通常よりもかなりの量を収納でき、重量も軽減される。腰に装着できるベルト付き。


「うわびっくりした!」


 急にステータスみたいなものが現れた。魔法の袋?私が持っている袋の事かな?

 確かによく考えて見たら左腕丸ごと袋に突っ込んでいたかも。

 沢山入る不思議な袋って事で良いかな?


「という事はこの虫眼鏡は道具の説明を見れる道具……かな」


 結構便利だね。食べ物の方が良かったけど。


「さて、引き続き前へ行こう」


 この洞窟はどれくらい深いのだろうか。今のところ一本道で迷う事はないが分かれ道が出てきたら困ってしまいそうだ。


「うわ、さっきのやつ」


 例のゼリーがまた現れた。幸いにもゼリーは動きがノロマなので試しに虫眼鏡で覗いてみよう。


 スライム……あらゆるものを溶かし捕食する液体状の生物。


 へぇ、スライムって名前なんだ。結構可愛い名前だね。


「はい、ご飯ゲット」


 自前の骨で赤い宝石を叩き壊して倒す。ご飯の出来上がりだ。

 粉々になった宝石をゼリー内から取り出してから食べ尽くした。


「この宝石も売れたりするのかな?綺麗だし」


 粉々だと価値なさそうだけどそのままの状態で取り出す事が出来たら売れるような気がする。

 まあ、外に出るつもりないしいいか。


「外よりも快適だしね、ここ」


 ゴミ漁りして食べ物を探す毎日よりもスライムを探す毎日の方が圧倒的に楽だと思う。

 外と違って水道が無いから水を探す必要はあるけどね。


「あと雨とか関係ないのも良いよね」


 ずぶ濡れになりながら食べ物を探すの本当に辛かった。


「ん?なんか階段がある」


 歩き続けてしばらくすると奥の方に階段が見えた。何故洞窟に階段があるのか。

 そんな事を気にしている場合では無いのでズンズンと進んで階段を降りていく。


「眩しっ!」


 階段を降りた先は広大な森林が広がっていた。


「……いやおかしいでしょ」


 今までも不思議な生き物やら道具やらステータスやらでおかしかったが洞窟で森があるのは意味が分からない。

 洞窟の中なのに外のように明るいしライトのようなものは見当たらず見上げると青空が広がっている。太陽は見えない。


「???」


 はっ!意味不明すぎて思考停止していた。

 洞窟に森は理解できないがここなら洞窟と違って食べ物沢山あるんじゃない?


「木の実!野草!虫!」


 こんな立派な森ならさぞ沢山ある事だろう。早速探検だ。

 ガサガサと森の中へ入っていくと早速食べれそうな野草が生えているのが見えた。


「うへへ、ご飯沢山……最高」


 街にはこんな大きな森はなく野草探しも公園に生えているものから探していた。

 ここは天国なのだろうか。


「これもいける。あれもいける。んーこっちは少し苦い奴だけど茹でたら美味しいんだよなぁ」


 こうなってくると鍋とか欲しくなってくる。そもそも火の付け方が分からないんだけれど。

 とりあえず食べれそうな野草を片っ端から腰に装着してある袋に詰めていく。

 不思議な袋は本当に不思議でかなりの量である野草を詰めても重くなくまだまだ入りそうである。


「んふふ、もう私、ここで生きてく」


 ムシャムシャと野草を口いっぱいに頬張りながら次は水を探すことにした。


「洞窟に森なんだから川があってもおかしく無いはず」


 ゴクリと野草を飲み込んですぐにまた頬張る。まさにスナック菓子のようである。スナック菓子食べた事ないけど。

 

「ん!何か動いた?バッタだ!」


 奥へ奥へと森を進み、少し遠くにバッタらしき虫がぴょんぴょんと跳ねているのが見えた。

 バッタって焼くと美味しいんだよねー。なんて思いながら捕まえようと近づく……。


「なんか大きくない?」


 大人の人の頭より大きいバッタが群れていたのだ。普段なら危険だし近づかないようにするのだが……。


「食べる場所多いじゃん!ラッキー」


 沢山の食べ物にテンション上がりまくりの私はそんな事気にせずに自前の骨で1匹のバッタを叩き潰した。

 グシャリと身体がへし曲がったバッタは一撃で息絶えた。

 仲間を殺されたバッタは私に突進してくる。


「そんな攻撃当たらないよー」


 バキッグシャッ


「ふぇ?」


 突進を避けて後ろを向いたら太めの木が一部抉れて倒れた。

 バッタの突進でああなったの?あんなのまともに当たったら私の身体なんて一撃で粉々なんだけど!

 大きいとは思ったけれど普通のバッタじゃないね?これ。


 大バッタ……大きなバッタ。かなりの力を持っているので危険。


 虫眼鏡で見てみたけどやっぱりバッタだ。大きいだけで普通のバッタだね。


「突進さえ気をつければ大丈夫!」


 幸い、動きは単調で律儀に頭を私の方に向けてから突進してくる。避けた後は無防備なのでそこを叩けば倒せる。

 と、そんな感じで全てのバッタを片付けるのにそんなに時間はかからなかった。


「……流石にこの量を食べるのは時間かかるかもなぁ」


 死んだバッタを集めた結果、かなり山盛りになってしまった。

 これだけの量……袋に入るかな?と心配だったのだが普通に全部入った。容量どうなっているんだろう。


「バッタ食べるなら火通したいよね」


 火は簡単に付けれないと聞いた事がある。子供の私に出来るだろうか。片腕しか無いのに。


「なんかこう、木と木を擦ってどうにかするんだっけ?」


 手頃な落ちている枝を足で支えながら左手に持っている枝で思いっきり擦ってみた。

 ガリガリと擦りまくっていたらなんか煙が出てきたんだけど火はつかないね。


「ダメだ。枝が真っ黒になっただけ」


 しばらく煙は出ていたのだが火がつくことはなかった。やり方が違うのだろう。


「うーーん、なんか別のやり方ないかな?」


 不思議な袋とか変な虫眼鏡とかあるんだしなんかこう不思議パワーでなんとかならない?

 ステータス見てみたらなんか分かるかな?


夜桜 葵 Lv10

*Lv10突破によりスキル選択可能


生命力 B 魔力 G

筋力 E 防御 F

体力 D 俊敏 E


スキル: 《夜目》《痛覚快感》《強胃袋》《遠目》


称号:【初ステータス獲得者】【狂人】【危機を脱した者】【初Lv10突破者】


 なんか《遠目》とかいうスキルが増えているのとLv……レベル?というのが10になってスキルが選択可能のようだ。


《遠目》……遠くが鮮明に見えるようになる。


 やけに遠くのバッタが見えたのはこれのおかげだったらしい。


「このスキル選択可能って触ればいいのかな?」


 スキル選択可能の場所を触ってみたらズラッと色んなスキル?みたいなのが沢山表示された。

 この中から一つプレゼント……火をつけれるスキルないかな?

 スキルの説明は見れないっぽいから名前だけで決めないといけない。


「お、これ火つけれそう」


 私は数多くのスキルから《着火》を選択した。

 ピロンッと頭の中に電子音が響きステータスをみたら《着火》が増えていた。


《着火》……小さな炎の子種を出せるようになる。魔力が足りない場合は失敗する。


「よし!」


 これは火がつけれそうだ。魔力が足りないと失敗するらしいが私の魔力はG……低いのは低いが一回くらいは使えるでしょう。

 使い方は……スキル名を声に出すってステータスに表示されてた。


「《着火》!」


 スキルを使って見ると手のひらから小さな炎が現れた。それを適当に集めた細い枝や枯れてよく燃えそうな葉っぱなどに当てる。

 すると小さな炎は燃えさかり立派な焚き火が完成した。


「暖かい……」


 パチパチと燃える焚き火、私は早速バッタを焼くことにした。

 これまた手頃な木の枝をブッ刺して丸焼きにした。

 もっと美味しい食べ方はあるんだろうけど私にはこれで充分すぎる。味付けもないのに香ばしい良い匂いでスライムや野草を食べまくったにも関わらずお腹が鳴りまくっている。


「もう良いかな?」


 焦げ目が付くくらい焼いたので早速かぶりつく。大きいから食べ応えがあって凄く美味しい。


「ダメだ。止まらない」


 焼いては食べてそしてまた焼いて、私の腹は止まる事を知らなかった。

 そして気づく……。


「やばい、野草と一緒だとさらに美味しい」


 適当に炙った野草とバッタの組み合わせが最高だった。

 ああ、やっぱりここは天国だ。誰にも邪魔されないお腹いっぱいのご飯。


「はぁ……もう食べれないや」


 こんな事今までなかった。食べれない程のご飯なんて贅沢すぎる。


「さて、お腹いっぱいになったし探索再開しますか!」

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