第31話 鬼頭組
世の中わからない。
こんな腰巻ヤロウが、業界最大手の建設会社の社長とは……
飛鳥帝国に本社がある『鬼頭組』は、強靭な体躯と神通力をもつ鬼族の大工衆が集う建設会社で、きっかい村にある〖日の出国きっかい支店〗をはじめ、隣国の大和共和国にも複数の支店がある。
道路工事にダム建設などの公共工事から、おしゃれなビルの建設、伝統的な神社寺院の建立まで、あらゆる建設事業を手掛けている。
最近では、ハウスメーカーとしての人気が高く、人間界における異種族系企業のなかでは、最も成功している大企業だ。
『鬼頭組』という社名からして、そのトップが鬼神だったというのは、「なるほどな」と頷ける話ではあるが、極悪顔の露出狂だったとは……予想外。
鬼も人も見かけで判断できない。ハルカはしみじみ思った。
「いや、なに、ようやく
憤怒する小鬼たちに言い訳じみたことをいって、
「羅漢刹だ。吸血鬼のにいさん、ヒト族のネエさん、よろしくな」
ハルカとシルヴィーに名刺が差し出された。
受け取った名刺には、たしかに『代表取締役社長』の肩書がある。
その羅漢刹は、また小鬼たちに怒られていた。
「頭ッ! 名刺は両手で渡せって、何度いったらわかるんだっ!」
「そうだ! なにが『よろしくな』だ。えらそうに! ちゃんと謝れ! ドラクルの兄貴、いまだ一発なぐれ!」
注意されっぱなしの羅漢刹社長は、バツが悪そうな顔でうしろ頭を掻くと、パンッと両手を合わせると、しっかり頭をさげた。
「俺が悪かった。このとおり、許してくれ」
「あと、百回謝れ!」
「そうだ、そうだ!」
怒りのおさまらない小鬼たちを、「まあまあ」となだめたハルカは、
「ごめんなさい、ごめんさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
念仏のように唱えはじめた羅漢刹にも、顔をあげるようにいう。
「オッケー、オッケー。家も壊れてないから問題なし! それより、役場の方に行かなくて大丈夫? 五重塔が建つ区画は、ここじゃなかったんでしょう。事後報告になってしまうけど、区画の変更申請をしておかないと」
そのあたりの確認申請については、ハルカよりも詳しい建設会社の鬼族たち。
「青山の姉御のいうとおりだ!」
「急がんと!」
赤タロウと青ジロウにつづき、羅漢刹も「そうだな」と大きく頷いた。
「まずは役場に謝りに行って、それから申請だな」
「しょうがねえなあ。まったくもう。それじゃあ、今すぐワシらと行きやしょう。早いとこ頭下げねえと鬼頭組のイメージが、ますますダウンしちまう。商売は信用が一番なんですから」
ようやくいつもの赤ら顔に戻った赤タロウ。
「役場に行く途中にある『ピクシー製菓』で菓子折り買いましょう。天狗村長はあそこの岩より堅いラスクが大好物だ」
青ジロウの提案に、
「そうなのか。よし、そんじゃあ、店にある商品を全部買っていこうじゃねえか」
ワハハと大声で笑いながら「買い占めてやらあ」と豪語する羅漢刹に、赤タロウがまた真っ赤になって怒った。
「お頭、また金にものをいわせてから! 品がねえっ! 少しはドラクルの兄貴を見習ってくだせえ! おなじ『鬼』がつくっていうのに、吸血
そう赤タロウに比較された羅漢刹は、「あれが上品ってか」と、シルヴィーに悪い笑みを向ける。
「そういや、兄さんが、魔界で有名な金の魔性か。どうりで……血の気を上手に隠して気品とやらをだしてやがる。
それまで無言だったシルヴィーも、口元に笑み浮かべると、
「いやいや、悪の巣窟である地獄と比べたら、魔界など物静かな読書好きしかいない。僕はその最たる者だけど、そうだな――キミが相手だったら、頁をめくる指先で事足りるかな」
なんともわかりやすく挑発した。
それを笑い飛ばした鬼神は、スッと真顔になり唇を舐める。
「吸血鬼のわりに面白いこと云うじゃねえか。閻魔のオッサンが喜びそうな冗談だ」
「何か勘違いをしているようだけど、僕は初対面の相手に冗談なんて云わない」
鬼神と金の魔性が、急にバチバチやり合いだしたせいでオロオロする小鬼たち。
しかしハルカは、そんなふたりの間に「もう、そういうのはあとでやって」と割り込んで、赤タロウと青ジロウを振り返った。
「ところでさ、赤さん、青さん。この露出狂をこのまま役場に連れて行く気?」
羅漢刹の腰巻を指差して「あれは、無理だって」と眉をひそめる。
「まちがいなく、役場の入口で糸ゑバァにブン投げられるよ。赤さんと青さんもとばっちりで、蜘蛛糸で『グルグル巻きの刑』確定だよ」
きっかい村役場の総合案内所にいる糸ゑバァは、風紀の乱れに厳しい。
ある日のこと。
二百歳から四百歳ごろの可愛らしいお嬢さんが役場にやってきて、たまたま対応したデーモン・ジュニアが「このあとゴハンにでも~」と不純な下心を見せた瞬間。
粘着力抜群の糸に背後から首を絞められ、高速回転させられたのち、村外に吹っ飛ばされたのである。あれ以来、庁舎内では「お誘い御法度」が不文律となった。
風紀に厳しい糸ゑバァが案内所にいる限り、露出度97パーセント、卑猥度120パーセントの歩く
「下手したら、移住許可が撤回されるかもしれないよ」
ハルカの言葉に、赤タロウはゴクリと喉を鳴らし、青ジロウは今日いちばん青ざめた。
「お頭っ!
羅漢刹は「持ってきてねえよ」とひとこと。
「なんだってえ! 塔の中に、ほかに着るもんねえのか?」
五重塔を指差した青ジロウには、巻き付けている極小腰巻の裾をヒラヒラさせて羅漢刹は首を振った。
「ねえよ。これの色違いが、あと3枚あるだけ。あとは、剣と酒と金。かさ張るような荷物はいらねえと思って」
「馬鹿じゃねえかっ! 腰巻三枚でどこ行くんだあーっ! 温泉かっ!」と赤タロウ。
「そんなら五重もいらねえっ! 平屋でいいじゃねえかっ!」と青ジロウ。
その結果――
「ほら、これなら着られると思うよ」
ハルカは「やれやれ」と、通販商品のサンプルとして保管しておいた紳士用スウェットジャージを、羅漢刹に渡した。
仲良しの雪女が経営するアパレル会社『スノーウーマン』の上下オールブラックのジャージを、素肌の上から着た羅漢刹は、極悪度は倍増したものの、卑猥度は著しく低下した。
「これなら、糸ゑバァの風紀セキュリティも突破できると思うよ」
小鬼たちから何度も頭を下げられ、役場に向かう鬼族を見送ったハルカとシルヴィー。
古民家に戻ると、ウォーレンとピエールが新しい肉や野菜を焼いてくれていた。
「いい匂い~」
庭では、仕切り直しのバーベキューがはじまった。
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