第29話 村おこし推進室
きっかい村役場の2階。
村長室のとなりに新設された『村おこし推進室』は、室長のハルカと3名の職員が配属された。
まずは観光課からの異動で、現役魔王の息子・ゾロ目殿下のデーモン・ジュニア。
「よろしく、おねがいします。兄貴たちが大勢いすぎて、魔王になれる確率はゼロですが、器用な方なので、広報、裏方、太鼓持ち、なんでもできます」
つぎに、村民課窓口から化け猫族の若手職員、猫田又作。
「うわあ、嬉しい。僕、役場の2階で仕事をしてみたかったんです。ほら、猫の習性で高いところが好きなので。村の住民のことならおまかせください。住所氏名はもちろん、出身界から種族系統、趣味嗜好、戦力数値まで、すべて頭にはいっています」
農業振興課からは大蛇族のじつは族長だった藪蛇蛇彦が「よろしく、よろしく、よろしく~」とやってきた。
「ときに金運の神様と崇められたり、気持ち悪いと忌避されたり、好かれているのか、嫌われているか。ヒト族から賛否両論のわたし、白と黒のツートンカラーの大蛇です。どうぞ、よろしく、よろしく、よろしく~」
なかなかの精鋭がそろった村おこし推進室。
ハルカの席の右側には、本日は不在だが、女社長アカネのデスクもしっかり用意されている。そして左側には、どこから持ってきたのか『吸血鬼の王』というネームプレートをデスクに置いて、長い脚を優雅に組んで座るシルヴィーがいた。
ハルカの室長就任にあたり、空席となったアドバイザーの席に、当たり前のように座った吸血鬼の王に、異を唱える気骨ある者はいなかった。
もし、いたとしても「それなら、勝負しようか」と、
「ハルカさん
アドバイザーというよりは、用心棒のような立ち位置で、参加することになった。
夏祭りの開催までは、およそ1カ月。
その2ヵ月後に、『ファンタジー暮らし』の営業開始を控えているハルカには、天狗村長から推進室をオフィスがわりに利用する許可がおりた。
これにより、事務用品は使い放題、備品の保管場所も確保できて、「うまくいきすぎ~」とハルカは喜んだ。
アカネが作成してくれたスケジュールにそって、村おこし推進室で忙しくも充実した日々を過ごした週末の土曜日。
休日、古民家の縁側で「ビールが飲みたいなぁ」と呟いたハルカのリクエストに応え、シルヴィーがビールサーバーを持ち込み、ウォーレンはきっかい酒造に、クラフトビールを買いにいかされた。
次に、「なんか、バーベキューしたくなるよね~」というハルカの独り言により、コウモリ執事のピエールがやってきて、肉や野菜、炭や鉄板など、バーベキューのセッティングをわずか5分で完了させた。
縁側に座り、ポツリと口にしたことが、魔法のように実現されていく様を見て、「これほどの贅沢はないわ」と感謝したハルカは、
「さあ、楽しもう! 肉の焼き加減はまかせて」
左手にジョッキ、右手にトングという出で立ちで、庭でジュージューと肉を焼いた。
みんなでワイワイやりはじめて、30分が経ったころ。
最初に異変を察知したのはシルヴィーだった。
「ハルカさん、こちらに」
ハルカの腰を抱き寄せ、しっかりと自分のそばに引き寄せると、ウォーレンとピエールに命じた。
「あやし区に防護魔法をかけろ。こちらに攻撃をしかけてくるようであれば迎え撃て」
いつにない厳しい視線を丘の下に向け、そう云い残すとハルカを横抱きにして浮上。縁側の庭から古民家の屋根へと移動した。
屋根のうえ。
小高い丘の上にある「あやし区」からは、村の様子がよく見えた。そこでハルカも、村に接近してくる土煙にきづいた。
「シルヴィー、あれは何?」
「地表からそう深くない場所を、何かが勢いよく掘り進んでいるようです」
その何かは、ついに村へ侵入。
きっかい村の中央を縦断するように、さらに激しい土煙を上げているのがわかる。それは一直線に、あやし区に迫ってきていた。
土煙を追いかけて、上空から制止の大声を上げているのは有翼人たち。
「止まれーッ! どこに行くんだぁぁ!」
「速度違反だぞーッ! ダメだ、聞こえてなーいッ」
「アオヤマさーんっ、気をつけてー! そっちに行ってるよぉ―ッ」
「うわー! ゴホッ、ゴホッ……」
しかし、こちらへの注意喚起を最後に、立ち昇る土煙に巻き込まれ見えなくなった。
地中を猛スピードで移動している「何か」のせいで、地面は大きく揺れ動いている。幸い古民家の周辺は、シルヴィーの魔法のおかげでまったく揺れていないけれど、きっかい村の異種族たちが止められないほどの勢いで、地中を突進してくるなんて……いったい何だろうか。
巨大なモグラの化け物を想像して、ハルカはギュっと、シルヴィーの真っ白なシャツを掴んだ。その様子に「大丈夫です」と、シルヴィーは安心させるように背中を撫でる。
「ハルカさんのことは、僕が必ず守ります。防護魔法もかけていますので、古民家に被害が及ぶこともないでしょう」
吸血鬼の王様がお隣さんで良かったと、今日ほど思ったことはない。
そうこうしているうちに、地面を隆起させながら丘を上りはじめた「何か」は、いよいよもって、あやし区に迫ってきた。止まる気配はない。
《 撃て 》
シルヴィーの念を受取ったウォーレンとピエールの一斉爆撃がはじまった。
「威嚇です」
涼しい顔でさらりと云うシルヴィーだが、あやし区への侵入を拒むように、丘の中腹で集中砲火を浴びせている。
「それでも止まらない場合は――」
狙いを定めたシルヴィーの左手が金色に輝きはじめた。笑顔の金の魔性がさらりと宣言する。
「消滅させます」
ついでに、地中に向かって《 滅すぞ 》と最終警告の念を飛ばした。
アンデット界の覇王である金の魔性の警告を受け、地中の「何か」もさすがに動きを止めた。
風が吹いて土煙も消え、視界がクリアになったところで、ボコボコになった丘の中腹から――
にょきっ。
耕した畑に芽が出るように「何か」が顔をだした。
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