第26話 注文システム


 素晴らしい提案がされたのは、その日の夕方。


 いつも以上に顔色の悪い赤髪の吸血鬼ウォーレンといっしょに、いつものように土産の酒をもって古民家を訪れたシルヴィーから、


「商品の注文方法について、ご相談したいのですが、よければ城の方でいっしょに夕食をとりながら~というのは、どうでしょうか。こちらは寝酒にでもしてください」


 年代モノのウイスキーを渡されながら、かなりタイムリーな話題を持ち掛けられたハルカは「行くっ」と即答。


「やった! ハルカさんとお食事いいいぃぃぃ!」


 パアアァァァッと顔を輝かせたシルヴィーを、はやく話を聞きたいハルカが「ほら、行くよ」と引っ張って、そのうしろではウォーレンが「あぁぁぁぁ……」と消え入りそうな声で呻いていた。


「ようこそいらっしゃいました。ヒトさま~」


 コウモリ執事のピエールに出迎えられてダイニングルームに案内される。すでに料理がズラリと並んでいた。


「うわあ、美味しそうだね。全部、ピエールが作ったの?」


「はい、ヒト様が先週、煮っころがしを召し上がりたいとおっしゃっておりましたので、作ってみました」


 テーブルには、これがメインです、といわんばかりのバカでかい大皿に、山盛りの煮っころがしが積まれ、その周りはピンクのバラで囲われているという、なかなかハイセンスなテーブルセッティングになっていた。


 それ以外にも、和洋中が入り乱れたいかにも『オツマミ』になりそうな一品料理が並んでいて、小料理屋のようになっている。


「本当にピエールは、なんでもできるねえ。スーパー執事だよ」


 手放しに褒められた感動のあまり、高速飛行で酒蔵に移動。


「ヒト様、本日はお料理に合わせまして白ワインからいかがでしょうか。こちらは秘蔵コレクションの1本にございます」


 主人のシルヴィーがいってもいないのに、ドラクル家で5本の指に入る超希少なワインをポンッとあけた。


 超希少なワインを「わあ、嬉しい! いいの~?」とか言いながら、まったく遠慮せずに、ハルカはテイスティングからグラスでガブ飲み。


 その斜め前の席では、フラフラ~とよろけるように腰掛けた赤髪の吸血鬼が、ブツブツと念仏のように唱えていた。


「いや、まだ負けたわけじゃない……そう、まだ負けたわけじゃない……まだ、やれる、まだ、やれる……勝つんだ、勝つんだ……そうさ、俺はウォーレン・フォン・ブランドル……がんばれ、ウォーレン」


 あきらかに精神的にまいっているようだ。


 となりに座るシルヴィーの肘をツンツンとする。


「なんですか、ハルカさん? ワインはいかがですか?」


「ワインは最高だよ。でも、ウォーレンは大丈夫なの? ブラック企業でメンタルやられた社員みたいになってるけど」


「ご安心ください。そもそもメンタルが崩壊しているのが吸血鬼という種族ですから。やはり長く生きすぎるのは問題があります。300年に1回くらいの割合で自我が崩れますので……」


「そうなんだ。それじゃあ、シルヴィーも大変な時期があったんだねえ」


「ええ、それはもう。でも、もう大丈夫です。きっかい村に引っ越してきて、ハルカさんの『お隣さんのお友だち』になれたので、精神的にかなり楽になりました」


「よかったねえ。わたしも仕事をやめてみてわかったよ。あくせく働いてばかりいると、知らず知らずのうちに精神って病むものだね。きっかい村でのんびり過ごして、たまに昼間からお酒なんか飲んでいると、生きてるなあ~って、実感できるもの」


 ただのぐうたらな酒飲みの理論にも、大きく頷いてくれるシルヴィーは、


「では、そろそろ本題にはいりましょうか」


 メンタル不安定な赤髪の吸血鬼を「ウォーレン」とギロリと睨んだ。


 とたん念仏をやめて、サッといつもの表情に戻った吸血鬼が、懐から何やら取り出した。


「こちらをご覧ください」


 ハルカの前に、三日月型のクロワッサンのような形をした乳白色の石と、よくあるQRコードが印刷された一枚のカードを置いた。


「まずこちら」とウォーレンは乳白色の石を指さした。


「魔石の一種で、魔力によって形状が変化する石なのですが、当家の戦闘狂……いや、姉が、商品の注文を集約するのに利用してはどうかと……」


 説明しながらウォーレンが、指先でトントンと三日月をタップすると、本物の月のように輝きだした三日月が形をかえていき、なんと円型の満月になった。


 そして満月の表面が小波のように揺らめくと、月面には――


「なにこれ、すごい! ディスプレイじゃない?! うわっ、ふつうにスクロールできるんですけど―ッ!」


 満月ディスプレイに表示された商品画像をスライドさせたり、拡大縮小したり、選択式のプルダウンを操作して、ハルカは歓喜の声をあげる。


「ウォーレン、すごい。これ、どうしたの?!」


「姉のメアリージョーが以前、戦場にて戦闘員の配置と伝達、敵陣の情報収集に使っていたものを改良したらしく……」


「うんうん、それで、それで」


 悔しそうに顔を歪めるウォーレンとは対照的に、ハルカの顔はどんどん輝き、自然と前のめりになっていく。


「仕組みを簡単に説明しますと、ユーザーから商品が注文されるたびに、マスター端末であるこちらのタブレットに随時更新されるそうです。情報漏洩を防ぐため、あらかじめ設定された魔力を持つ者しかマスター端末は閲覧することができないようになっています」


「ようするに、認証システムね」


「そのとおりです。そして、ユーザーの注文方法ですが、人族は自己が所有する通信端末から発注するのが主流とうかがっていましたので、こちらのQRコードを読み込んでもらいますと……」


 なんと驚くことに、このQRコードは魔力が込められていて、商品の注文サイトに魔力でアクセスできるというのだ。


「QRコードを通じて、ユーザー情報を入力していただければ、電子ネットワークを必要とせずに、いわゆる魔力で入力された個別の注文内容を、マスター端末で集約することが可能になります……もちろん、マスター端末から商品の画像などを入れ替えることも、決済サービスも可能です」


「リアルタイムで注文状況がわかる上に決済まで! それって、素晴らしい管理システムよ。既存のシステムを商用に改良するなんて天才だわ!」


 ウォーレンは「チキショーッ」と悪態をついたのち。


「魔力感知型ですので通信設備は必要ありません。こちらのマスター端末には、主君であるドラクル公の魔力が認証として登録されていますので、ブルーマウンテンが主君からアクセス許可をしてもらうだけで、閲覧が可能となる仕組みです」


「なるほど、なるほど」


「QRコードを主君の魔力で印字することで、おのずとマスター端末とユーザーを紐づけできます。主君にとっては、魔力での印字など、あくびをする間にできることなので、低コストですぐに実用化できます」


「マーベラス! コスト面までカバーしているなんて、いったい、だれの発案なの?! 魔界最高峰の逸材にちがいないわ!」


 ふたたび「チックショーッ」と悔しさを吐きだしたウォーレンは、この日、もっとも苦々しい顔で「姉です」と教えてくれた。


 上機嫌のハルカと満足げなシルヴィーの夕食がはじまった。


「ウォーレンのお姉様って素晴らしい方ね。1度会って、ぜひとも御礼を伝えたいな」


「それでは近いうちに、メアリージョーをこちらに呼びましょうか?」


「本当、嬉しい! でも、とっても忙しいんでしょ? 国境を防衛しながらトランシルヴァーリア領の領主まで兼任して、注文管理システムまで構築しちゃうなんて……」


「そうですね。しかし、メアリージョーが魔界を離れる際は、ウォーレンのヤツに代行させればいいので」


「あっ、そっか。でも、あまりにお姉さんが出来すぎるから、ウォーレンは比べられて可哀相かも」 


「まあ、それも良い経験になるでしょう。ところで、メアリージョーに、何か褒美を与えようと思うですが、いかかでしょうか?」


「さすが、シルヴィー! 部下をしっかり評価する上司ってステキよ。よし、今日は乾杯しよう!」


「そうしましょう!」


「メアリージョーの素晴らしき功績に乾杯!」



 ◆  ◆  ◆  



 ハルカとシルヴィーが、極上ワインで祝杯をあげているころ。


「チキショー! 姉さんばっかり褒められやがってえっ! 血濡れのメアリーのくせにぃぃぃ!」


 魔力感知型・注文管理システムの採用が決まったことを開発者の姉に伝えるため、ウォーレンは魔界にトンボ返りさせられていた。




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