ファンタジーな村に引っ越したら「初恋です」と吸血鬼の王がやってきた

藤原ライカ

第1話 イミテリアル構想



 国生まれの、国育ち。


 大都会にある高層おしゃれオフィスビルで、外資系企業のキャリアウーマンとして、バリバリ働いていた青山ハルカは、昨年の冬、決意した。


『働けるものなら働いみたい会社ランキング三年連続1位』


『転職サイト 狙ってみたい超ホワイト企業ベスト10 転職できたら勝ち組』


 誰もがうらやむ超優良企業のエリート街道に別れを告げ、かねてより計画していた山奥でのスローライフを、いよいよスタートさせることにした。


 移住先は、都心から数百キロ離れた中核都市・異界いかい空想くうそう市の奥地にあるド田舎村。


 ハルカが、この地区を選んだ理由はいくつかある。


 一昨年、母方の祖母・大江タツ子が天寿をまっとうし、享年99歳でこの世を去った。命の火が消えるその日。枕元でタツ子と交わした言葉がある。


「わたしが死んだら……この家は、ハルカにあげるよ。気に入ったら……もらっておくれ。ここは、いいところさ。お試しでいいから住んでみたらいいさ……きっと気に入るさねえ」


「もうとっくに気に入っているよ。嬉しいな。こんな素敵な村で暮らせたら最高だよ。明日からでも引っ越してこようかな。だから、婆ちゃんも……もうちょっと、がんばりなって……また、庭の桜を縁側からみようよ。ねえ、婆ちゃん」


 タツ子が息を引き取った冬の寒い日。なぜか、庭の桜は満開だった。


 遺言どおり、ド田舎村にある古民家はハルカが相続することになり、まずはスローライフにぴったりな環境と住居を手にいれたわけだが、この地を移住先に選んだ最大の理由は、また別にある。


 住民は、オール税金免除(永年)


 住民税もなければ、社会保険税もない。所得税も消費税もなく、固定資産税もない。タックスヘイブンなこの地区は、きっかい村という。


 日の出国をあげての一大構想【異種族との楽しい共存・イミテリアル構想】における特定異種族・共存モデル地区のひとつなのである。


 住民の多くは魔界、妖界、天界などから地上にやってきた異種族であり、先住民である人間との共存が可能かどうか、その調査研究が目的となっている。


 こういったモデル地区は全国に数カ所あり、人種どころか、多種多様性の最先端をいくため、研究対象となってもうら移住者には、特典として『オール税金免除』が付与されるのである。


 ちなみに、国策であるこの一大構想がはじまったのは、青山ハルカが誕生する400年ほど前。


 当時、日の出国を含め、数百の国や地域があったこの大陸では、先進国を中心に、異世界に暮らす異種族との交流が徐々にはじまっていた。


 このころ、ギリギリ先進国の仲間入りをしたか、いやもう少しか。という位置づけにあった国は、目立ちたがり屋の政治家たちを中心に、声高らかにあがった国策が、総じて【異世界交流】だった。


「他国に遅れをとるなかれ! いまこそ異世界に住む住民たちに向けた発信をして、異種族たちとの交流に重きをおくべきです」


「異種族との国交は、我が国に高度経済成長期をもたらすでしょう!」


「ボーダレスな異世界感覚を養うことで、我々は胸を張って、先進国ですっ、と名乗れるのです!」


 これといった根拠はなかったが、世論もよくわからないまま、それを後押しする形となった結果。


「とりあえずやってみよう。まずは、日の出国に住んでもらって、異種族たちと生活を共にしてみよう」


 異世界のことも異種族たちのことも、どこかの学者の資料に目を通しただけで、さして調査することなく、その年の国会で国策としてくだんの【異種族との楽しい共存・イミテリアル構想】が決定、宣言され、『異種族との楽しい共存』を目的とした異世界交流がスタートしたのだった。


 さっそく異世界からの移住者をつのった政府が、「こんなはずじゃなかった」と頭を抱えたのは、見切り発車からまもなくのこと。


 日の出国の宣言を受け、観光気分でやってきた多種多様な異種族たちが、各地で暮らしはじめたが、これまで異種族とは|幻想的で霊的な存在イミテリアルとしか認識していなかった人々。


 規格外のパワーやスピードに度肝を抜かれ、魔法やら霊力やら妖力やら、異能の力を目の当たりにして、すっかり恐れおののいてしまった。


 何の対策もないままに異種族を受け入れた政府に対し、各地で責任を追及するデモが起きる。連日、電話回線がパンクするほどの苦情が関係各所に殺到し、開国推進派だった議員は雲隠れした。


 責任追及を逃れたい政府は、特定異種族・共存モデル地区を制定して、人里離れた辺境の各地に住環境を整備した。


 その後、『オール税金免除』の特典をつけて移住してきた異種族たちを、ド田舎村へと勧誘したのだった。



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