第16話 待ち続けるお嬢様、密かに動いてた

「何やら分かってしまったです」とかなんとか言ってたお嬢様だったのに、朝から俺にべったりとくっつく真琴を全く相手にせず、どういうわけかその日は何も起きずに終わってしまった。


 あったと言えばせいぜい、


「……隙あらば狙わせていただくです。覚悟して待ってくださいね、孝純さん」


 などと意味不明な言葉を残されただけだ。


 しかも真琴が行動を示したその日以降お嬢様はもちろん、取り巻き女子たちも俺に一切近づいてくることはなく、淡々と日にちだけが過ぎた。


 二週間くらい目立った動きもなかったせいか、教室では俺と真琴の関係がほぼ公認され、誰も文句や冷やかしを言うことがなかった。


 西大路さんの動きが全くないなと感じていたその日の放課後。


 いつものように俺の膝の上に座ってイチャイチャっぷりを周りに見せつけている真琴と話をしていると、何でか不機嫌そう。


「もうすぐ一か月くらい経つけど、あんた何もしてないわけ?」

「……何が?」

「ミアが何もしてこないのも予想外だったけど……まさかこいつがこんなにもアホだなんて想定外すぎ」

「おい、誰がアホだって?」


 おかしい奴だ。俺と恋人になってと言ってきて学校でみんなに見せつけて、さもそれが当然ですけど何か? 的な態度を見せていたのに、俺とは特に身体的な接触がなかったりする。


 キスもなければ誰かに自慢するでもないし、胸を揉んだあの日以降行為や気持ちの変化が全然感じられない。


 単に見せつけるために利用されてるような気が。


「アホはアホ孝純のことだけど?」

「二回も言うなっての!」

「隣に座ってるのに、何であんたはミアに話しかけないんだよ!」


 ……ん?


 ミア――西大路さんの話が何でここで出てくるんだ?


「え? だってお前と付き合ってるだろ? 変に話しかけてお嬢様に誤解されたらどうするんだよ?」


 俺自身、お嬢様に好かれていないだろうし下手に刺激しても塩対応されるだけだしな。


「――は? バカなの? 何のために私がやる気出して見せつけて……はぁ、もういい。あんたとの交際関係はこれで解消! 後は自分で考えて行動しろ!」


 そういうと、真琴は俺の膝の上からするりと滑り落ちて俺から離れてしまった。


 まぁ、真琴が言う交際関係も同居してる身からすれば特に何の進展もないわけだが。現にクラスのみんなにも、従妹同士で仲良くしてるんならいいことだとか言われたりして何も驚かれなかった。


 どっかというと真琴だけが隣の席のお嬢様を気にしてるだけで、クラスメートは俺と真琴の日常ベタベタを何も気にしてなかった。


 しかしこれで確信した。


 真琴の狙いはお嬢様を動かすことだけであって、俺と本気で付き合うつもりはなかったってことだ。


 訳が分からないまま一人で家に帰ると、玄関の前に珍しく母さんが立っているのが見える。


「……ん? なに、どうしたの?」

「正式に決まったわよ!」

「何が……?」

「とにかく、中でお待ちかねだから早く入りなさい」


 中で何が待っているって?


 母親がわざわざ玄関で俺を待つとか今まであり得ない光景だったが、家の中に入ってすぐに答えが分かった。


「お帰りなさいませ、孝純センパイさま」

「――は!? お、お嬢様……いや、西大路さんが何で家に?」


 リビングに入るとそこにいたのは、西大路ミアでしかも正座をして着物まで着ていた。


「つまらないものですが……孝純さまにはわたしをもらってもらうことにしたでござ……ごじゃいます」


 何か言い方が根本的におかしいぞ。


「粗茶ですから、召し上がれください」

「いや、それうちのお茶……」

「……召し上がれやがれください」


 う~ん……本気なのか冗談なのか分からないぞ。


「いたがないわたしですが、これから孝純さまとええとええと……」


 何やらメモを見ながら言ってるが、これも母さんの差し金か?


 肝心の母さんの姿がどこにもないが。


「いたがない……至らないなんじゃ?」

「そう、そうです、きっとそう! ええと、わたしは――孝純さんを~」


 ……うっ、正座をしながらの上目遣いは反則すぎる。

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