第8話 お嬢様とイケメン女子

「あ~悪いけど、そこ俺の席……」


 どういうわけかお隣のお嬢様を囲うようにして、クラスのイケメンたちが休み時間になるたびに俺を座らせないようにしているんだが。


 トイレに行って戻ってくる間に何があったというのか。


「邪魔だね、こいつ」

「もう少し気を遣えっての!」


 う~ん……自分の席に座ってるだけなのに居心地が悪い悪すぎる。何もしてないし、何かをする予定もないのに何で俺はこんなにも睨まれているのか。


 お嬢様を筆頭にイケメン女子というか美形の女子が間近にいて目の保養的には全然いいんだが、俺ってこんなにも女子に嫌われていたっけ?


 思い当たるのは俺の家に来たお嬢様が俺をあらゆる意味で誤解して、それをクラスの女子たちに言いふらしているということだけ。


 だが、いくら何でも冤罪だし決して法に触れるようなことはしてなかったはず。


「災難だな、木塚」

「余計なお世話をありがとよ、千田せんだ

「しっかし、女子との距離に恵まれてるはずの木塚なのに、よりにもよってクラスのイケ女に睨まれるとは……お前、何かやったんだな?」


 やってる前提で失礼なことを訊いてくる千田は、俺の数少ない男子友達で真琴と同じ運動部。もちろん真琴が俺の家に同居してることを知る奴でもある。


 細身で背が高いが、細マッチョなおかげか女子人気が半端なく高いのだが、本人は恋愛に興味がないというから勿体ない奴だ。


「特に何も」

「そうなのか? でもお前の家に招待したうえ、やらかしたんだよな? お嬢様相手に」


 やらかしたのは嘘でもないから否定も出来ないが、招待は絶対違う。


「……どこ情報だ?」

「千葉から聞いた」

「あいつ、面白がってやがるな……」


 お嬢様とのやり取りに同情してたくせに同じ部の、それも男子に言いふらすとか勘弁してくれ。


「何だ、違うのか。でも家には上がらせたんだろ? それが原因じゃね?」

「イケメン女子の敵対心の件か?」

「それな。お嬢様が口を滑らしてるかは知らんけど、クラスの女子はほとんど知ってるぞ。ちなみに男子で知ってるのはオレだけだから安心しろ」

「ちっとも安心出来んが、助かった」


 ……などと、千田への疑いは少しだけ晴らしてやったが、昨日の今日でクラスの女子から嫌われるとは思わなんだ。


 お嬢様が俺の隣に座っているだけなのに、何で俺の日常はいきなり苦行に?


 思わず頭を抱えながら机に顔を突っ伏そうとする――


 ――はずが。


「くたばるのは早すぎですよ? 孝純さん」


 お隣のお嬢様からお言葉を頂戴した。慌てて顔を上げてみると、さっきまでいたイケメン女子たちの姿が全く見えなくなっている。


 イケメン女子に代わり俺に微笑むお嬢様の姿があるが、やはり俺への言葉には相変わらず棘を感じてならない。


「いや、死んでないけど……」


 ふとスマホ時計を気にすると、もうすぐ授業が始まる寸前だった。


「試練ってとっても厳しくしないと駄目なんです。そう思いませんか?」

「……試練?」

「はい。孝純さんの試練です。乗り越えてこそ燃え上がるって読みました。是非燃えて欲しいです」

「炎上は勘弁して欲しいんですが」


 相変わらず主語が無いから何が何やら分からないな。しかし、あり得ない可能性を信じれば俺への試練というのはおそらく恋愛関係。


 何せ、せっかくお隣さんになった身だ。おまけに編入初日に俺の家にお邪魔している希少な美少女。


 恋愛的なストーリーで考えるのが多分正しい。


「孝純さん。今日のご飯はおそってくれますか?」


 西大路さんは両手を合わせながら期待の眼差しを俺に向けて、とんでもないことを発言した。


 この発言で近くの女子が一斉にひそひそ話を始め、俺へ殺意を向ける。


 早く来てくれ、先生。それでも俺は何もしてませんから。


 ……というか、ご飯を襲うってなんだ?


「襲いません! ……ちなみにどういう意味で?」

「あ、間違いました。ご飯をよそってくれますか、でした」


 ですよね。うん、そんな気はしてたよ。


 日本語がまだ拙い設定が生きてるのか本当なのかはともかく、何で今日も家に来る話で進んでるんだ?


「それはどこでの話?」

「もちろん、孝純さんの――」

「――却下で」

「え、まだ何も言ってませんよ? 自意識過剰さんなんですか?」


 くっ。訳が分からん。


 話の流れ的に、俺の家にお邪魔してご飯をよそって頂きたいな――な話だったはずだ。主語はないわ、会話は成り立ってないわ、さっきから何が進行してる?


「――今日は昨日の続きからやるから。しっかりメモを取るように!」


 俺の頭がパニック状態になりかかっているところで授業が始まっていた。


 紛らわしに丁度いいと思いながらふと隣を気にすると、西大路さんが俺をじっと見ている。


「(何ですか? 俺に何か言いたいことでも?)」


 謎解きゲームのようになっているようなので小声で話しかけると、西大路さんは小さな口を口パクで動かした。


「(い き た い で す。 お う ち。し り た い の で)」


 口パクが合っているとすれば、俺はお嬢様にお気に入り登録されたのでは?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る