第4話
同窓会の盛り上がりは数十分前にピークを迎え、すでに落ち着き始めていた。僕らは仲間内で固まって話をしていたが不意に誰かがなんの気も無しに、
「これだったら普段会ってるメンツと変わんねえな。」
なんて言ったものだから、他のグループとも交流しようかといった空気が流れ始めた。すでに会が始まってから1時間ほど過ぎた頃だった。確かに周りを見ると、他の同期たちは思い思いの場所で、高校の時は見たことのないような組み合わせで話したりしていた。
「ごめん、ちょっとペース上げて飲み過ぎた。外の風に当たってくる。」
なんとなく移動しようかといった空気が流れ始めたところで丁度良かったので僕は席をたって店の外に出た。来たときはほんのり明るかった外が、もう真っ暗になっていた。風にあたりながら携帯を開いていくつかきているメッセージに目を通す。SNSを見ると、何人かの友達は今日の写真を上げていた。みんな楽しそうに笑っている。隅っこに写る僕の笑顔が引き攣っていないか気になって見つめていたら不意に背中側に気配を感じた。
「あ、三神も休憩?」
ほんの1時間ちょっと前に同じ場所で同じ声を聞いた。
「うん。そっちも?」
「そう。なんかみんな動き始めたから、少しリセットしたくて。」
彼女は僕の隣に来て空を見上げるように直立した。
「今日、曇ってるよ。」そう僕が言うと彼女は少し眉尻を下げて
「別に星が見たいわけじゃないよ。」と言った。なんて返したらいいかわからなくてまた言葉に詰まってしまった。
「三神は就職?」
「うん。半導体メーカー。」
「へえ。」
「そっちは?」なんて聞く前に彼女は自分から話し出した。
「私は院進かなあ。今研究がいい感じでさ。」
「高校の時からそういうの好きだったもんね。」
当たり障りのない会話で助かった。そう思ってると彼女はポケットからタバコの箱を出して「吸ってもいい?」と聞いてきた。
「いいけど、吸うんだ。」
「1年前くらいからね。ちょっとストレス解消に使ったらハマっちゃってさ。」
そう言いながら彼女は慣れた手つきでタバコの火をつけて吸い始める。ライターの火に照らされる彼女の横顔が一瞬ひどく綺麗に見えた。
「三神はさ、大学で彼女とかできた?」
急な質問に理解が遅れて、反応するのに少し間を要してしまった。
「まあ、そりゃできたことはあったけど。今は全然。」最後の方は少しむくれて声が小さくなってしまった。
「へえ〜、三神に彼女がねえ。」
そう言うと彼女は少し笑った。疑わしいなとでも言いたげな表情でこっちを見てくる。
「そう言うそっちこそ、どうなんだよ。」
「今はフリー。去年まではいたんだけどね。」
「あっそう。」実際興味のない話だったがあまりにも興味なさそうに返事をしすぎてしまった。
「うっわ、興味なさそう。」
「興味ないんだよ。人の恋愛とか。」
「興味なくてもそういうことは口にしないんだよ。」口を尖らせて彼女は行ってきた。
「本音を隠さないのが性分なんだ。」
「建前を使えないことを高尚なポリシーかのように言わないの。」そう言うと彼女は僕の頭を小突いてきた。
「うわっ」と思わず情けない声がこぼれた。
「急に何するんだよ。そう言う感じじゃなかったでしょ、高校の時は。」不平を訴えると彼女はあっけらからんと答えた。
「酔ってんの。少しくらい付き合ってよ。」
「酔っ払いの相手するくらいだったら中に戻るよ。」そう言って僕は店のドアに手をかけようとした。
「三神は変わらないね。ずっとそんな感じ。」
背後から心臓に向かって思いっきり殴られたような感覚。打てば響く。終息の予兆もなく動悸が強くなる。
「そうやって逃げるところ。変わってないよ。」彼女は俯いて吐き捨てるように言う。
体の中心にある何か大きな板が揺れ動いて、僕の全身の管という管を揺らしているような感じ。そう表現するしかない感覚。管同士が共鳴しあい、どんどん大きくなっていく振動に音をあげそうになってしまう。
「逃げる?」とぼけたような返事をする。
「いつになったら人と向き合おうと思えるの?」酔っているからか少し据わった目をしてこちらを見つめている。上気して化粧の上からもわかる赤らんだ頬が少し光る。
「僕は逃げてない。逃げたのはそっちじゃないか。」
そう言って僕はドアノブに手をつけて、店の中へと戻った。大きな板は揺れたままだった。
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