第41話 涙の誓い、交錯する魂


夜の神社に、重苦しい静寂が降りていた。

黒い炎は静まり返り、月明かりだけが、

揺らぐ影を地面に落としている。

その中で、澪は優李の身体を抱きしめ、

声を押し殺して涙を流していた。


「……優李、大丈夫……?」


震える声に、優李の瞳がかすかに光る。

その中には、零禍の影に染まる前の、

かつての温かさが垣間見えた。


「……澪……、?」

かすれた声が漏れる。

だがそれは確かに“優李”の響きだった。

零禍の影はまだ消えていない。

だが今は、優李の意志によって、

抑え込まれていた。


 


精神世界――


優李の内側で、零禍が揺れている。

暗闇の中で、怒りと恨み、孤独が渦巻く。


「……お前の優しさ……それが……」


零禍の声は低く、静かに、

しかし執拗に心を揺さぶった。


「……俺は……もう……迷わない」


優李の魂が黒い霧を押し返す。

かつて恐怖に呑まれていた場所に、

わずかな光が戻る。


零禍は目を閉じ、静かに呻いた。


「……俺は……弱かった……孤独だった……、」


その声には、

かつての彼の苦悩と悲しみが滲む。

優李はその影に手を伸ばす。


「……零禍……もう怖くない。俺は……澪と共にここにいる。」


光が少しずつ、暗闇に差し込む。

零禍の瞳が揺れ、

初めて迷いの色を浮かべた。


 


外界――


澪は優李の肩に手を添え、

震えながらも強く抱きしめる。


「優李……あなたは零禍なんかに奪われない……!」


涙が頬を伝う。だがその涙は恐怖ではなく、揺るぎない決意の証だった。

朧が二人の傍に立ち、

冷たい風の中で静かに息を整える。


「……お前ら、無事か、」


声には安堵が滲むが、

同時に緊張も帯びていた。


「まだ油断はできない……零禍の影は消えていない。」


澪は優李の頬に手を添え、額を寄せる。


「……一緒に、乗り越えようね」


優李は微笑み、弱々しくも力強く頷く。


「……うん、澪……ありがとう。」


朧は二人を見つめ、

冷たくも深い眼差しを向ける。


「……俺は見守る。だが、お前たちだけじゃ危険だ。」


その言葉には、守る者としての覚悟と、

仲間への信頼が混ざり合っていた。


夜風が揺れる樹々の間を吹き抜ける。

黒い影が完全には消えていないことを

告げるかのように、

地面に小さな黒い霧が漂う。

澪は小さく息を吐き、優李を抱きしめ直す。


「怖いけど……でも……あなたと一緒なら……。」


優李も小さく頷き、澪の手を握り返した。

その握り合う手に、未来への光と、

救いたい者への覚悟が宿っていた。


 


――夜の闇の中で、三人の絆は交錯する。

零禍の影はまだ残る。

だが、確かな希望の光が、

優李と澪の心に芽生え始めていた。


そして、朧もまた、二人の誓いを胸に、

守る覚悟を新たにしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る