第38話 囚われた魂と解けぬ絆
「……優李!」
澪の叫びが夜気を震わせる。
一瞬だけ澄み渡った彼の瞳は、
また黒い影に覆われていく。
零禍の力が、優李の魂を奥底から、
縛りつけようとしていた。
精神世界――
優李は暗闇の中に鎖で縛られていた。
その鎖は零禍の手によって、
編み込まれたもので、
動くたびに心を締め上げる。
「見ろ……お前はもう逃げられない。」
零禍が冷たく笑う。
「俺がいなければ澪を守れない。お前が澪を愛するのなら――俺と共に堕ちろよ。」
「……違う……俺は……!」
優李は苦しげに呟くが、
鎖が心を締め上げ、言葉をかき消す。
外界では、
優李の体を通して零禍が嗤っていた。
その瞳に宿るのは優李のものではなく、
零禍の暗い光が澪を見詰めていた。
「……澪。どうして俺を封じた? あの日、俺を切り捨てたのは――お前だろう?」
零禍の声に、澪の心臓が冷たく凍る。
忘れかけていた記憶の断片が、
鋭い刃のように胸を刺す。
「ちが……私は……っ!」
澪の手が震える。
零禍の言葉は彼女の罪悪感を暴き、
心を揺さぶる。
その時――
「澪、惑わされるなっ!!!」
朧が彼女の肩を掴んだ。
「零禍はお前の心を縛るために真実を歪めている。今は優李を信じろ!!」
澪は顔を上げた。
朧の瞳は冷たくて、けれど絶対に揺らがない
光を宿している。
「……優李はまだ、闘ってるの?」
「当然だ。あいつは諦めていない」
精神世界――
優李の胸に、澪の声が響いた。
(……優李。あなたは私を守ろうとした。あの日も、今も。だから……私もあなたを守りたい!!)
その言葉が光となり、暗闇に差し込む。
鎖にひびが入り、
優李は苦しげに息を吐いた。
「……澪……」
零禍が顔をしかめる。
「やはり……お前らの絆が邪魔をするか」
影が蠢き、鎖をさらに強める。
「いいだろう……ならば澪ごと、この闇に沈めてやる!!!」
外界――
零禍が優李の体を操り、
澪の首へと手を伸ばした。
「……っ、ぅ ⋯」
澪は動けず、目を見開く。
だが次の瞬間――その手が震え、止まった。
「……やめろ……澪に……触れるな……!」
優李の声が、零禍の口から漏れた。
零禍が苦々しげに呻く。
「まだ……抗うか……!」
澪は涙をこぼしながら優李の手を掴んだ。
「……あなたは零禍なんかに負けない。だって――優李でしょ?」
その声に呼応するように、
優李の瞳に再び光が差す。
零禍は叫んだ。
「ならば――俺が完全に支配するまでだ!」
影と光が、
優李の心を引き裂くようにぶつかり合う。
――この闘いはまだ終わらない。
だが確かに、優李と澪の間には、
“解けぬ絆”が刻まれていた。
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